#96 リリニシアの"お話"
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
本作は9月14日を持って、#1の公開からちょうど1年半を迎えます。
勝手に祝し一人で記念して、9月11日から15日までの期間に連日更新を行います。
お付き合いいただけますと幸いです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
ガガーニムから聞かされた情報を噛み砕きながら洞窟に戻り、見張りを交代しラツンジパを中に向かわせたレピ。
一人外に残ったレピの元に、リリニシアが現れた。
「ずいぶんと話し込んでおられましたわね?」
洞窟から出てきて声を掛けるリリニシアに、レピは済まなそうに頭を下げる。
「…お待たせして申し訳ありません。皆さんは?」
「シェリルとスウォルは眠りました。リエネさんは、その…念の為に起きておく、と」
「やはりジスタム卿を警戒しておられますか」
「そのようです。ワタクシとスウォルなんかは、既に寝姿を晒しているのですけれどね」
自身らの不用心を恥じるような気持ちと"心配する必要はないのに"という思いが混じって複雑そうに、リリニシアは苦笑した。
「性分なのでしょう。それに"信用を得て油断させる為、敢えてお二人に何もしないでいた"という可能性が、有り得ないでもありません。…もっとも、彼にそのつもりは毛頭ないでしょうが」
「とはいえ、信用し過ぎるのも危険だと、ワタクシも思いはしますけれど…お二人で、何を話されていたんですの?」
リエネ程ではなくともガガーニムの警戒を滲ませるリリニシアの問いに、レピは僅かに迷った後、答える。
「ダヲジア卿の、"死"に関してです」
敢えてその”事実でない”単語を強調するレピから、リリニシアは裏の意図を察した。
「聞いたんですのね」
「えぇ、聞きました。…それで、スウォルくんについてのお話というのは?」
「…今で大丈夫ですの?その…ひどい表情をされてますけれど。眠いのでしたら今すぐでなくても──」
「いえ」
心配そうに顔を覗き込み、チラリと洞窟に目を向けるリリニシアの言葉を、レピは遮る。
「今は…眠る気になれませんから」
「…そうですか、分かりました。では──」
「あ、少々お待ちください」
いざ切りだそうとしたリリニシアを、再び遮った。
「なんですのよ、話を振ったのレピさんじゃありませんの」
「いえ、ここで話せる内容かな、と思いまして」
「あ…それは…」
誰が聞いていてもおかしくない、開けた空間であることを認識し、リリニシアは口ごもる。
「やはり…。ちょうどいい。ジスタム卿がいい方法を教えてくださいました。少々お近くへ」
「方法?なんですの?」
促されるままリリニシアが傍に寄ると、レピは早速、先ほど体験した技術を披露した。
「纏わせる風の魔術」
「これは…!」
レピが唱えるのと同時に、風が二人を包み込む。
「こうして風の外と中の音を遮断する…という使い方があるそうですよ」
「ロワツメサ…。やっと風の魔術を使えるようになったと思ったのに、また差を見せ付けるようなことを…!」
「そんなつもりじゃ…。…ふふっ」
自らに扱えない魔術を目の当たりにし悔しそうに歯噛みするリリニシアに、レピの気持ちは少し和らぎ、笑みを漏らした。
「何がおかしいんですのよっ!」
「い、いえ…この感じも久々で、ちょっとホッとしたなと。というか、お見せするの初めてじゃないでしょう、ロワツメサ」
「"一歩は近付けたかと思ったらそんなことなかった"って現実叩き付けられるの、結構心に来るんですわよ!」
リリニシアは歯を食いしばって悔しがる。
「独学で火と癒し、僕と出会ってから氷…そして離れていた僅かな時間で風までも会得しているのですから、驚異的な成長速度ですよ」
「へんっ!そうだといいのですけれどね!」
レピの称賛を素直に受け止められず、リリニシアはプイッと顔を背けた。
困惑した表情にどこか嬉しさを滲ませながら、レピは話を戻した。
「気を取り直して…先ほど話した通り、風は外からの音も遮断してしまいます。外から誰かが近付いて来るのは、目視で察知しなければなりません。僕は洞窟側に注意しておきますので、リリニシア様は僕の背後をお願いします」
向かい合ったリリニシアの肩越しに洞窟を見ながら、レピはキョロキョロと視線を動かして見せる。
「…分かりましたわ。人が近付いてきても二人とも無反応、というのは不自然ですものね」
「えぇ、接近があれば解除します。…それで、本題ですが」
レピが切り込むと、リリニシアはキッと真面目な表情に作り変え、尋ねた。
「先ほどレピさんは、スウォルが"自分から人じゃないニオイがするか"と聞かれ、否定しておりました」
「はい」
「アレは本当ですの?それともワタクシが"話がある"と伝えておいたから、それまで余計なことを言わない為の方便ですか?」
「本当です。少なくとも今の僕に感じ取れるような、異様なニオイはありませんでした」
レピは迷うことなく即答する。
「"今の僕に"というのは…魔術師としての腕、という意味ですの?」
「そうです」
「そう…ですか。次です、シェリルはワタクシたちから"スウォルのニオイ"について言及する前に、ニオイを気にしているような仕草を見せていました。リエネさんはレピさんたちが外した後、スウォルの体調をやたらと気にしておられました」
「はい」
リリニシアの背後を意識しながら、レピは頷いた。
「ワタクシたちと会う前に、クレン様とお会いしたと言っていましたが…何か聞かされましたの?」
「…はい」
少しの間を置き、レピは肯定する。
リリニシアは急かさず、黙って続きを待った。
「"人じゃないニオイ"とまでは言いませんでしたが、"双子なのに、お姉さんからは変なニオイがしない"。…つまり、スウォルくんからはそれがする、と」
「変なニオイ…」
「スウォルくんがジスタム卿に言われたという"人じゃないニオイ"のことでしょうね」
「…」
レピの返答を受け、リリニシアは考え込む。
「リリニシア様?」
「レピさん」
やがて覚悟を決め、レピの名を呼んだ。
「はい」
「レピさんは…何があっても、スウォルの仲間でいてくれますか?」
「…どういう意味ですか?」
「確証はありません。ワタクシの考えすぎかも知れません。…そうであって欲しい」
「リリニシア様…?」
「お願いします、レピさん。ハッキリと聞かせてください」
ともすれば涙を零しそうな表情で、リリニシアは訴える。
レピはそれを受けて──。
「…もちろんです。例え何があろうと、スウォルくんは仲間です」
「ありがとう、ございます。…スウォルは──」
────────
リリニシアが表に出て、二人が風に包まれるより少し前──。
「なんだ二人とも、起きてたのか」
「あら、ラツンジパさん。お静かにお願いいたしますわ」
「どうして…。外は──」
ガガーニムと共に洞窟に入ってきたラツンジパを、おしとやかに座るリリニシアは穏やかに迎え入れる一方、壁に背を預けて座るリエネは眉根を寄せ、怪訝な表情を見せる。
ラツンジパもそれを予期しており、意に介することなく受け流した。
「信用して託しされた役割を、反故にしたりしねーよ。レピと代わったんだ」
「…そうか。すまん」
「お二人も休んでいただいて構いませんが…」
ガガーニムは既に寝息を立てているシェリルとスウォルに視線を落とす。
「いえ…私は結構です」
「ワタクシはレピさんとお話がございますし。それが済んだら休みますわ」
リエネに続いて、一旦断りながら立ち上がり、リリニシアは服の埃を叩く。
「そう仰っておられましたね。長い間お借りしてしまい、申し訳ありません」
「話を持ち掛けたのはレピさんでしたから…文句はレピさんの為に取っておきますわ」
「はは…私のせいでもありますから、何卒ほどほどに」
「さて、どういたしましょう?…では、ちょっくらお話して参りますわね」
そう言うとリリニシアは、待ち侘びたことを見せ付けるように体を伸ばし、ラツンジパたちと入れ替わりで洞窟の外に向かって歩いて行った。
「…レピ殿には悪いことをしましたかな」
「お気になさる必要はありません。元よりあの二人は、軽口を叩き合える間柄です」
バツが悪そうに頬を掻きながらガガーニムが漏らした言葉を、リエネは淡々と否定する。
「そうですか?それならよいのですが。…しかし、信じられない話ですな。マキューロ人の若者が、ヤクノサニユの姫君と軽口を…」
「ハリソノイアの心変わりよりも、ですか?」
「お、おい…リエネさん…」
リエネの返答に不穏な気配を感じ、ラツンジパは気まずそうに二人の間で視線を往復させた。
「既に二人からお聞きでしょう?現大王が、これまでとはまったく違う方針を打ち出していること」
「えぇ、伺っています。敢えて比べるなら…甲乙つけがたい、ですかな」
「…」
「そう怖いお顔をなさらないでください。あくまで私個人としては、事実であるなら歓迎したいと考えております。…他の元老院たちの賛同も得られればよいのですが」
「…そうですね」
言葉少なにリエネが頷くと、やはりラツンジパが不安そうに様子を伺う中、ガガーニムはリエネから視線を外す。
「さて、私も休ませていただきましょう。…余計なお世話かとは存じますが、あまり無理はなさりませぬよう」
「…お気遣い、ありがとうございます」
リエネの警戒心を察しながら、ガガーニムは対照的に無警戒に、躊躇うことなく横たわった。
「ラツンジパ、お前も寝ておけ」
「あ、あぁ…。分かった、そうするよ。…本当にムリすんなよ」
「分かってる」
続けてラツンジパも横になり、やがて二人からも寝息が聞こえ始めてくると──リエネは一人、自らの前にだけ再び現れた、クレンとの会話を思い返していた。
『あの子は──』
「スウォルは──」
リエネがクレンの"その言葉"を思い出すのと、リリニシアがレピに"その言葉"を告げるのは、まったくの同時だった。
『どんどん、人間から離れて行ってる」
お読みいただき、ありがとうございました。
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次回は本日24時頃にXでの先行公開を、明日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
リエネがクレンから聞かされた言葉を思い返すのと同じ頃、リリニシアはレピに、自らが辿り着いた推測を明かす。
その推測に辿り着いた根拠を聞き、レピは──。
次回「ヒトから離れた先」




