#98 リエネとクレン
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
本作は9月14日を持って、#1の公開からちょうど1年半を迎えます。
勝手に祝し一人で記念して、9月11日から15日までの期間に連日更新を行います。
お付き合いいただけますと幸いです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
"スウォルは人間から離れ、魔物に近付いている"。
リリニシアの考えを聞いたレピは、これまでの旅での起こった出来事やガガーニムの話と擦り合わせ、夜が明けるまで思案に耽る。
洞窟を出たリリニシアが、レピに"スウォルが人から離れている"と伝えのと同じ頃。
洞窟の中では、斧を傍らに置いて背を壁に預けて座り、眠ろうとせず起きていたリエネがスウォルの寝顔を眺めながら、クレンと交わした言葉を一つ一つ、思い返していた。
『私も話してあげる。スウォルの"ニオイ"のこと』
────────
"スウォルのニオイ"についた尋ねたリエネに対しクレンは"対価を差し出せ"と、取引として新たにハリソノイアの頂点に座ったユミーナの情報を要求。
それを受け、リエネは"自らが信じているユミーナ像"を語る。
少なくとも"リエネ自身は嘘をついていない"と差し出された情報に納得したクレンは、取引に応じてリエネの求める情報を共有し始めた。
「一応、これくらいはしておこうかしら。──纏わせる風の魔術」
「なんだ!?なにを──」
「いいからいいから、気にしないで。それより本題!」
クレンが呟くと同時に、二人を風が包み込む。
困惑するリエネを、クレンはロクな説明もせずに押し切ると、勝手に話を進める。
「結論から言うと、あの子は…人間から離れて行ってる」
「なっ…!?」
クレンが事もなげに口にした言葉は、リエネに強い衝撃を与えた。
「ど…どういうことだ!?」
「リリニシアやシェリルと同じ"ヤクノサニユ人のニオイ"の方が強いから、元からヒトじゃなかった…って訳ではないと思うんだけど、端的に言っちゃうと──」
クレンは顎に指を当て、考えながら言葉を繋げる。
「魔力を帯びてきてる…って感じだと思うわ」
「つ、つまり…スウォルは…」
下顎を震わせ、歯を打ち鳴らしながら尋ねるリエネに、
「だんだん、ヒトから魔物に変化して行ってる」
「バカな!そんなことがある訳…!!」
咄嗟に否定の言葉を口にしたリエネの脳に、かつての戦い、そしてその後のスウォルが蘇る。
ハリソノイア北東部での戦いでは腕の骨折や細かい傷が、その場で治癒していた。
ボロガブザリとの戦いでも、あの巨大なバケモノとの戦いでもそうだ…。
まるで──。
嫌な想像を補強するように、今度はリリニシアが口にした言葉を思い浮かべる。
"どっちが魔物か分かりませんわね"
「そんな…訳…」
うわ言のように呟き、うわ言ですら否定できず、リエネはその場で両膝を折る。
「その様子だと、心当たりでもあるのかしら」
「…」
地に膝をつき、力なく項垂れ呆然とするリエネの姿は、クレンの問いを雄弁に肯定していた。
「貴方たち、シャファルノールまでの道中、怪物に襲われなかった?」
「…え…?」
話の繋がりが見えず、弱々しく顔をあげるリエネの動揺を気にもせず、クレンは続ける。
「マキューロ人の二人はともかく、貴方とお姉さんなんかは標的にされたと思うんだけど」
「あ…あぁ、襲われた…。ヒトに似た姿の"何か"に…」
「やっぱりね…。ちょっと違うとは思うんだけど、アレに近くなりつつある。そう考えていいわ」
「…アレは、いったい…?」
「それは"スウォルのニオイ"とは別の話。貴方が差し出した情報は、あくまでその話の対価でしょう?」
「…」
リエネが再び俯いた。
「──と、言いたいところだけど」
「!」
それを見て、満足そうな表情で、クレンは話を翻す。
遊ばれていることを理解していたが、食って掛かる余裕は、今のリエネにはなかった。
「私たちの目的の為には、貴方たちにも役に立ってもらう必要がありそうだし…教えてあげるわ。対価としてね」
「役に…?」
「アレは…このマキューロで何者かによって製造された、忌まわしい──いわば"人造魔物"」
「じ…人造…?」
更なる衝撃に、リエネは小さく繰り返すことしか出来ない。
「具体的な製法は分からないけれど…生物に魔力を与え、魔物に変化させようって試みだと思うわ」
「そんなことが…」
「貴方たちを襲ったのは、おそらくその実験体の一つ。…シャファルノールではここ最近、男が立て続けに行方をくらませていてね」
「…まさか、その男たちが?」
クレンは一度、静かに頷いた。
「えぇ。ついにヒトでの実験に手を出した…そう考えてるわ。私とガガちゃんは、その製造主を探してる。それが私たちの目的よ」
「…"最悪の可能性"は当たっていたと言うのか…!」
"ヒトに似た何かは、元々マキューロ人だったのではないか。"
レピの言った"想定しておくべき、最悪の可能性"への答え合わせに戦慄しながら、リエネは続けて尋ねる。
「私に…どう"役に立て"と…?」
「基本的には、別に何もしなくていいわ。貴方たちは貴方たちの目的の為に動けばいい。こっちのことはこっちでやるから」
「どういう…?」
頭の整理が追い付いていないリエネに、クレンは淡々と告げた。
「平たく言うなら…"利用させてもらう"ってことよ」
「利用だと…?」
「えぇ。造ったヤツの目的なんて分からないけれど…それが何であれ、手を加えていないにも関わらずそうなりつつある存在なんて、絶対に無視できないはずだから」
「スウォルをエサにするつもりか…!」
理解は追い付かずとも反射的に鋭い目付きで睨むリエネに、クレンはむしろ愉快そうに笑う。
「そうよ?」
「貴様…!」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。エサにするのは否定しないけど、食わせてやるつもりはないわ」
「どういうことだ…!」
「"製造主を見付けること"が目的だって言ったでしょ?スウォルがそいつの手に落ちて研究が進んじゃうのは、私たちにとっても都合が悪いのよ」
「…」
リエネは依然、静かに睨み続ける。
「つまり過程や目的がどうあれ、"スウォルを守りたい"って部分は貴方と同じ。でしょう?」
「…」
「貴方たちだって、私たちを利用すればいいわ。現にお望みに応えて元老院を招集してるんだし、他にも必要なら協力するわよ?」
「"利害が反さなければ"、か…?」
揺らぐリエネの問いかけを、クレンはフンと鼻で笑った。
「さぁね。私が差し出す"対価"はここまで。この話を踏まえて、貴方がこの先どうするか…それだけよ」
「…」
「"勝手に利用うから何もしなくていい"、とは言ったけれど、積極的に協力してくれるなら歓迎するわよ。損にはならないと思うけれど──少し時間をあげる」
「なに…?」
「ガガちゃんのことだし、多分すぐにまた会うことになるから、それまで考えておいてちょうだい。大事なお仲間と相談したっていいし。…またね、臆病なハリソノイア人さん♪」
周囲を覆う風を払い、歪な微笑みを浮かべるクレンは、膝を地に着いたまま動けずにいるリエネを残して森の中に消えた。
「スウォルが…」
クレンの背を見送ることもせず、リエネは地面を見つめながら呟く。
私は──どう動くべきだ…!?
あの女の話がすべて真実なら…利害は確かに一致している。
元老院に属する最高峰の魔術師を味方につけられる好機を逃すのは…。
だが…信じていいのか!?
内容も告げず、"勝手に利用する"と…そしてスウォルを"エサとして使う"と公言するような女を。
そんな女と協力しているあの男を…!
「よう、リエネさん。…どうした?何かあったのか!?」
「ラツンジパ…」
────────
「んぐごっ…すぴー…」
「!」
喉が詰まったようなスウォルのイビキが、リエネの意識を現在に引き戻す。
「スウォル…」
起こさないよう小さな声で囁くと、リエネは改めて、クレンの言葉とこれからの行動について検討を始めた。
まずは今、自分が冷静でないことを自覚しろ。
私がシェリルに言ったことだ。
…そうだ。
私は今、冷静に考えることが出来ていない。
こんな状態で大きな決断を下すことは、可能な限り避けなければ。
ヤツの言った通り、相談をすべきだろう。
では誰に?
スウォル自身?
ダメだ。
再会してからの言動や…この呑気な寝顔を見るに、自分が変わってしまった自覚はないはずだ。
シェリル?
ただでさえ、あの"人に似た何か"のせいで精神的に不安定な状態にある。
そこに"スウォルが魔物に変化した"など…聞かせられるはずもない。
リリニシア様?…は、何を、どこまで知っている?
私たちと離れている間、スウォルと行動を共にしていた…。
ひょっとしたら魔物とまでは知らずとも、"スウォルの身に異常が起きた"ことは感じ取っているかもしれん。
…だとしたら、"レピとの話"は"スウォルの異常について"である可能性も…?
少し探りを入れる必要があるか。
では、そのレピは?
国を離れていた間の変化に疎いとは言え、同郷のマキューロ人。
仮にクレンの口車に乗るとして、レピなら私よりも上手く事を進められる可能性は高い。
とすれば、話しておくべき相手ではあるか…。
ラツンジパはどうだ?
…もっとも読めないのがコイツだ。
私たちともそうだが、それ以上にスウォルとの交流が浅い。
"魔物であるなら排除すべき"だと考える可能性を…私は否定できん。
やはり結論がどうなるにしても…レピには話しておかねば。
「ただいま戻りましたわ」
リエネが心を決めるのと同時に、レピとの話を終えたリリニシアが洞窟内に戻ってきた。
「リリニシア様、話は終わっ──どうなさったのです、そのお顔」
視線をリリニシアに向けながら立ち上がったリエネは、その顔に涙の痕跡を見出だし、尋ねる。
「少し感が極まってしまっただけですわ。お気になさらないでください」
「…そうですか」
「ワタクシも眠らせていただくことにしますわ。リエネさんはお休みならないんですの?」
「えぇ」
短く頷くリエネに、リリニシアは"やれやれ"とばかりにため息を吐いた。
「分かりました。ご無理はなさらないでくださいね?」
「お心遣い、感謝いたします。」
「ではお休みなさい、リエネさん」
「お休みなさいませ、リリニシア様」
リリニシアも横になり、やがて寝息を立て始め…こうして一行の、再会直後の長い夜は終わった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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次回は本日24時頃にXでの先行公開を、明日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
翌朝、目を覚ましたスウォルは洞窟を出て、出入り口に座したまま夜を明かしたレピと言葉を交わす。
その中でリエネに続き、レピからも"離れていた間の体調変化"について尋ねられ、スウォルは釈然としないながらも自らの体に生じた変化を明かした。
次回「集う、マキューロ元老院」




