#93 前例と特例
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
本作は9月14日を持って、#1の公開からちょうど1年半を迎えます。
勝手に祝し一人で記念して、9月11日から15日までの期間に連日更新を行います。
お付き合いいただけますと幸いです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
洞窟入口の見張りをラツンジパに任せて中に入ったリエネは、雑談の中でスウォルが発した"仲間外れ"に対し、過剰なまでに否定し、空気を凍らせてしまう。
ガガーニムは想像する”ハリソノイア人”像との違いに驚いていた。
「…よい"仲間"なのですね」
スウォルが発し、リエネが過敏に反応した"仲間外れ"という単語から敢えて一部を引用し、ガガーニムは頬を緩ませる。
スウォルが気恥ずかしそうな横でシェリルは一瞬ガガーニムに視線を移し頷くと、すぐにリエネに向き直った。
「はい!…リリニシア、もう一回お願い出来る?」
「繰り返しになるので、今は簡単に説明いたしますわね」
「申し訳ありません、お願いします」
リリニシアは一歩、シェリルとリエネに歩み寄り、掻い摘んで重要な点──"スウォルと共に、ガガーニムとクレンに和睦を打診していること"、"二人の協力を得て残る元老院の三名に招集を掛け、その集合を待っている段階であること"、"既にその一人、ロガーメーポ・ムータオヒカと接触したこと"を説明した。
「──なるほど、そうでしたか」
「他のお二人も、遠からず集まるだろう…ということでしたわよね?」
振り返って尋ねるリリニシアに、ガガーニムは頷きながら答える。
「えぇ、おそらく。お二人が到着次第、すぐに会議が行われることになるでしょう」
「僭越ですが、ジスタム卿。その会議の場、僕たちは同席させていただけるのでしょうか?」
レピに問われたガガーニムは、難しい表情で顎に手を当てた。
「本来であれば、会議の場に現職の元老院ではない者が同席することは有り得ません。まして他国の方など…。ですが今回は──特例として扱うべきだろうと、個人的には考えております」
慎重に言葉を選び、重々しく言うガガーニムの返答に、レピは質問を重ねる。
「よろしいのですか?そのような前例は──」
「えぇ。私の知る限り過去に一度もありません。似た例で言えば、かつてハリソノイアの侵攻に対抗する為にヤクノサニユや…ティサンと結んだ際も、会議は元老院のみで行っていたと聞きます」
「…」
「リエネさん…」
当のハリソノイア人であるリエネが気まずそうに目を伏せると、シェリルはそっと肩に手を置いた。
ガガーニムはそれに気付きながら、敢えて触れずに続ける。
「今回と同じく、ヤクノサニユからの使者が打診に訪れたそうですが…会議には参加させることなく帰らせ、当時の元老院による三日三晩に及ぶ会議の末に結論を出した、と」
「はい。その後、逆にヤクノサニユに使者を遣わせ、その結論を伝えた。…僕たちはそう学びました」
「しかし今回は状況が違います」
ガガーニムはそう言うと、顔を伏せるリエネを見つめた。
「前回はいわば"共通の敵"であるハリソノイアへの対策の為でしたが、今回はそのハリソノイアを含めた和睦の提案です」
「…」
「そしてお二人から伺った限り、ハリソノイア…国全体と言うよりはユミーナ大王とやら個人の意向のようですが、少なくとも頂点は積極的な姿勢を見せているとのこと」
「はい。ユミーナ様が和睦を本気で望んでおられることは、間違いありません」
"敵"であるハリソノイアを、そしてユミーナを直接見て、言葉を交わしたレピは、力強く断定する。
「私やメジャルカ卿がそう話したところで、他の三名は信じますまい。我々は大抵の嘘は見抜けますが、本人にその意識がなく、本心から騙されていたとすれば話が変わりますからな」
「…!」
再びガガーニムに視線を向けられたリエネは、彼の言葉をクレンの言葉──"自分が信じている真実"──と重ね、伏せていた顔を反射的に跳ね上げた。
「であれば、ご自身方の目で、直に見て頂くのが確実でしょう」
「…大丈夫なんでしょうか?その、ガガーニム様のお立場的には…」
リリニシアは不安げな表情で、言いづらそうに問い掛ける。
「たった一人の、それも新参である私の独断であれば厳しいでしょうが、少なくともメジャルカ卿の賛同は得られます。五名のうち二名からの進言があれば、無碍には出来ないでしょう」
「そ、そうですの…?」
「えぇ。…ムータオヒカ卿は確実に反対に回るでしょうが、マキュラ卿とディアモス卿、いずれかの賛同を得て多数派になれれば…まぁ、お咎めは避けられるでしょう、きっと!はっはっは!」
洞窟内の張り詰めた空気を打ち崩すように、ガガーニムは快活に笑った。
「はっはっは、って…。本当に大丈夫なんですの…?」
「考えてても仕方ねぇってことだろ、たぶん」
不安が解消されるどころか深まったリリニシアと対照的に、スウォルはガガーニムへの共感を示すように、首を大きく縦に振る。
そんな弟に、シェリルはため息をついた。
「貴方は考えなさすぎよ、昔から…」
「"昔から"、そうなのか」
リエネの問い掛けに、シェリルは呆れた表情を隠さず頷く。
「そうですよ、小さい頃からずっと!変わらないっていうか、成長しないっていうか…」
「"予言"のことも、ちっとも疑いませんでしたものね」
シェリルの言葉に触発され、リリニシアは幼い頃を懐かしみ、笑みを漏らした。
「うるせぇな、予言は合ってたじゃねぇか!…盾だけだったけど」
「…そうか」
「なんだよリエネさんまで!俺が勇者なら…"力があるなら世界を救いたい"ってそんなにおかしいか!?」
「いいや、いいと思うぞ?お前はそれで」
頬を緩ませるリエネを見逃さず、目ざとく噛み付いたスウォルを、リエネは笑みを絶やさず肯定した。
そんな中、シェリルは誰にも聞き取れない小さな声で、囁くように呟く。
「…勇者」
「さて、皆様の間でも語らいたいことは多いでしょうが、会議までに打ち合わせたいこともございますし…レピ殿、少々よろしいですか」
リエネと同様、微笑みと共に見守っていたガガーニムだったが、邪魔することを申し訳なさそうに小さく頭を下げつつ、洞窟の外を指差す。
「お辞めください、"レピ殿"など。私は単なる一人のマキューロ人に過ぎません」
「何を仰られる。ヤクノサニユ国王・ゼオラジム陛下にお目通りし、正式に認められた使者の一人でしょう?もはや単なるマキューロ人などではありません」
「…お付き合い致します。──リエネさん」
「む…」
レピがリエネの名だけを呼び、無言で頷くと、リエネも黙ってそれに応じる。
スウォルとリリニシアが未だ知らないシェリルの"挫折"と、シェリル自身さえ覚えていないその原因──ヒトに似た何かに殴られた"記憶"。
"不在の間、余計なことは言うな"という意図は、二人の間でしっかりと通じ合っていた。
「どうしたんですか?二人とも…」
そのシェリルは二人のやり取りを理解できていなかったが、"自身に関わりがあること"だと直感的に感じ取り、心もとなさそうに眉根を寄せる。
シェリルの頭に手を乗せ、リエネは表情を緩めた。
「ふふ…」
「あの…?」
「では参りましょう、レピ殿」
「はい。ではしばらく外しますので、皆さんでお話するなりしてお過ごしください」
「もう遅い時間です。ここで眠っていただいても構いませんよ」
そう言い残し、ガガーニムはレピと共に、ラツンジパの見張っている出入り口へと姿を消した。
「…ふぅ。あれが元老院、か…」
緊張が緩み、リエネは大きく息を吐く。
「あ…はい。クレン様と同じでっていうか…やっぱり聞いてた話より…」
はっと我に返ったシェリルの言う"クレン様"については思うところのあったリエネだが、それを飲み込み、頷いた。
「…あぁ、よほど話が分かりそうな男だな」
「聞いてた話?」
分断された後のことだと察したスウォルは、首を捻って尋ねる。
「レピとラツンジパからは、"元老院は排他的な原理主義の集まり"と聞いていたんだ。だから交渉は…いや、そもそも交渉を始めることすら難儀するかもしれん、と考えていたんだが…」
「二人の印象が間違ってたのか、亡くなった"ダヲジア卿"って方に代わってガガーニム様が加わったことで変わったのかは分からないけど…とりあえず、話は聞いてもらえそうですよね」
シェリルが安堵する一方、スウォルとリリニシアは真剣な表情で向き合った。
「…なぁ、リリニシア」
「そうですわね…」
依然として"洞窟内のやり取りが視られている"可能性を警戒し、必要があれば自身が会話を制御することを心に決めながら、リリニシアは頷く。
「えっ…どうしたの?私、なにか変なこと言った…?」
明らかに安堵を共有できていないとを感じ取ったシェリルは、再び不安そうに、視線を二人の間で往復させた。
「ワタクシたちに話してくださった以上、仲間に伝わることも織り込み済みでしょう。話してもよろしいかと思いますわ」
「…リリニシア様?なんの話です?」
スウォルはシェリルとリエネに向き直ると、ガガーニムから得た情報を明かした。
「"ダヲジア卿"って人のことなんだけどよ──」
────────
出入り口を見張るラツンジパに外出を告げ、二人で歩きながら、レピが先に切り出した。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
「いえ。それで、話したいこととは?」
「いくつかありますが…まず、ジスタム卿の前任、ダヲジア卿の死について」
「…」
難しい表情で顔を伏せるガガーニムに、レピは続けて尋ねる。
「何時、どうして亡くなられたのですか?いったい何が──」
ガガーニムは唇の前で人差し指を立て、口を閉じるよう促した。
レピがそれに従うと、キョロキョロと周囲を見回し、徐に口を開く。
「纏わせる風の魔術」
「──なっ…!?」
目の前で突如、魔術を使用され困惑するレピに、ガガーニムは涼しい顔で語りかける。
「私たちの周囲を風で覆いました。これで外に話が漏れることはありません。外からの音も聞こえなくなるのが難点ですが」
「…なるほど」
「リリニシア様とスウォル殿には既にお伝えしておりますが、これからお話することは元老院と皆様のみ。民には伏せておいていただきたい」
魔術を用いてまで対策したガガーニムの言葉に頷き、レピは次の言葉を待った。
「ダヲジア卿のご遺体は、未だ見つかっておりません。──死を断定できないのです」
お読みいただき、ありがとうございました。
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次回は8月31日19時頃にXでの先行公開を、9月1日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
スウォルとリリニシアに続き、ダヲジア卿が行方不明であることを聞かされたレピ。
ガガーニムは続けて、元老院内における自らの立場を説明する。
次回「元老院のジスタム卿」




