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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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89/95

#89 ハリソノイアの臆病者

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。

noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。

復習などにご活用ください。

https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

ようやく再会を果たした一行だが、再会の場にあった感情は、歓喜のみではなかった。

込み入った話をするため、ガガーニムが暮らす洞窟へと移動を開始する。

「どうぞ、皆様お入りください」


 ガガーニムに促され、一行は洞窟の中へと吸い込まれていく。

 ──ただ一人を除いて。


「あの…リエネさん?どうしました?」


 既に勝手を知るリリニシアとスウォルに続いて洞窟に消えていったシェリルが、引き返して尋ねた。


「いや…つい罠の可能性を考えてしまってな…」

「え、罠…ですか?」

「出入り出来るのはココだけのようだから…もしココを固められ、火でも放たれれば逃げ場はない」

「火って…」


 チラリと背後──カガーニムに連れられ、仲間が消えていった洞窟を怯えた視線で眺めるシェリルに、リエネは淡々と続ける。


「ここの連中なら、燃料なんてなくとも火を放つことは難しくもあるまい」

「魔術…」

「無論、ガガーニム(あの男)がそうする、とまでは今のところ思っていないが…無警戒でいられるほど、奴について知らんからな…」


 リエネはそう言いながら顎に手を当て、僅かな間考えた後、答えを出した。


「私は入らん。ココで見張っておく」

「そんな、久しぶりにスウォルたちに会えたのに…」

「私だって二人と話したくはあるが…今は無事に会えたってだけでヨシとするさ。話なら後でも出来るしな」

「リエネさん…」


 寂しげに名を呟くシェリルに、リエネはふと表情を緩める。


「何が起ころうと、ココは私が死守する。絶対にだ。…お前は気にせず、二人と話してくるといい」

「けど…私、リエネさんと離れるのは…」


 不安げに渋るシェリルに、リエネは柔らかい表情で言葉を重ねる。


「仮に中で何かが起こっても、スウォルや仲間たちが必ず守ってくれる。私だって異変を感じればすぐに行くさ。外のことは私に任せておけ」

「…さっきの人たち、リエネさん…というか、その斧のこと、よく思ってなさそうでしたし…」

「その様だったな…。なに、余計な問題は起こさん。ほら、行けシェリル」


 背負った斧の持ち手を一撫でし、苦笑いを浮かべながら促すリエネに、シェリルは躊躇いを見せながらもゆっくりと頷いた。


「…分かりました。じゃあ、また後で」

「あぁ、後でな」


 約束を交わすと、再び洞窟の奥に、シェリルの姿は消えていく。


「…さて」


 シェリルの背が見えなくなると、リエネはその場で目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。


「ふぅん…?慎重なのねぇ、()()()()()()()って。臆病って言う方が正確かしら?」


 突如響いた声に驚くこともなく、リエネは言葉を返した。


「やはり監視しておられましたか。…クレン・メジャルカ卿」


────────


「あれ、リエネさんどーした?」


 洞窟の最奥に辿り着き、振り返ったスウォルはようやく、リエネがいないことに気が付いた。

 事情を知るシェリルは答える。


「出入り口で見張ってるって…」

「ふむ…。私を警戒しておられるようですな」


 ガガーニムはそれを聞き、握っていた弓を壁面に立て掛けながら漏らした。


「あ、その…」


 リエネを庇おうとし、口籠るシェリルに代わり、レピが割って入る。


「どうか、お気を悪くなさらないでください。彼女は少々、神経質な面がございまして」

「いえ、当然のことでしょう。流石ハリソノイア人、といったところでしょうか」

「貴方も──あ、いえ」


 クレンに続き、ガガーニムまでも"リエネがハリソノイア人"だと知っていたにことに驚きを漏らしかけながら、彼女に"自身との出会いを伏せる"ように依頼されたことを思い出し、レピは咄嗟に口を噤む。

 しかしラツンジパは──。


「アンタも知ってんのかよ…!?」

「…私()、ですか?」

「ラツンジパ…」

「え?…あっ!」


 失態に気付き、自らの口を両手で覆った頃には、既に手遅れだった。


「私は単に、お二人から聞いていたので知っているだけですが…"私も"とは?」


 ガガーニムは、スウォルとリリニシアを手で指しながら、ラツンジパに言葉の意味を問う。


「あ〜…えと…」


 視線で助けを求めたラツンジパに、レピは"もう誤魔化せない"と首を横に振りながら、ガガーニムの疑問に代わって答えた。


「実はジスタム卿のお目にかかるより前に、クレン・メジャルカ卿を名乗る方とお会い致しました」

「メジャルカ卿?いったい…」

「目的はよく分かりません。何点かの忠告と、ご自身の年齢を変える個質魔術を見せてくださった後、"お会いした事を伏せるように"と言い、去っていきました」

「…間違いなく本人ですな。勝手なマネを…。いったい何を考えておられるのだ、あの方は…」


 大きなため息と共に、ガガーニムは頭を抱える。


「なんというか…自由な方ですわね、本当に。…その、こちらのお話、進めても?」


 苦笑を浮かべながら尋ねるリリニシアに、ガガーニムは片手で頭を抑えたまま、もう片方の手で促した。


「失礼。もちろん構いません」

「恐れ入りますわ。…こほん。リエネさんには後程お伝えするとして、まずは三人とも。改めて、無事に会えて本当によかったですわ」

「ま、リエネさんとレピさんが付いてるんだし、そっちはなんとかなるだろうと思ってたけどな」


 咳払いと共に真剣な表情を作りながら、シェリル、レピ、ラツンジパの顔を順番に見回してリリニシアが言うと、スウォルは対照的に、嬉しそうな笑顔を見せる。


「スウォル…。そっちも無事でよかった…」

「あの時はどうなることかと思いましたが…お元気そうで何よりです」

「まったくだ。無事じゃなきゃ、文句の一つも言えねぇもんな」

「さっきも"その為に来た"みたいに言ってましたけど、文句って?」


 ラツンジパが同行した動機についてスウォルが首を捻る横で、心当たりのあるリリニシアは、観念したように呟いた。


「"名前と立場を偽ったことについて"ですわよね」

「…そうか、もう話してるんだったか」


 "同じ轍を踏むまい"と意気込んだラツンジパだったが、一瞬ガガーニムに視線を向けた後、クレンの"元老院(私たち)以外にはリリーで通してる"という言葉を思い出す。


「はい、ガガーニム様にはもうお話ししてありますわ。…その節はご無礼を働きました。お詫び申し上げますわ」

「!…おいおい、アンタお姫様なんだろう!?俺なんか相手に頭なんて──」


 "文句を言いに来た"と (うそぶ)いていたラツンジパは、"偽らなければならない身分"のリリニシアが躊躇いなく、そして深く、自分に向けて頭を下げる光景に目を丸くし、驚いた。

 リリニシアは頭を上げ、首を幾度か横に振りながら答える。


「そんなことは関係ありません。ワタクシがウソをついたのですから、ラツンジパさんが腹を立てるのは当然です。…まぁこれが(まつりごと)の場であれば、軽々しく頭を下げる訳に行かなくなるのも確かではあるのですが」

「…」

「今回は違います。ワタクシとラツンジパさん、個人同士の話です。…申し訳ございませんでした。──ですが、"ワタクシの立場では偽らざるを得なかった"ということは、どうかご理解いただきたく思います」


 再び深く頭を下げるリリニシアを、ラツンジパは慌てた様子で止めに入った。


「分かった分かった、やめてくれ!別に本気で腹ぁ立ててる訳じゃねぇよ!仕方ないのも分かってるって!」

「そ、そうですの…?」

「いいのかい?ラツンジパ。絶好の機会だと思うけど」


 大人しく聞いていたレピが、ニヤニヤしながらラツンジパを肘でつつく。


「やめてくれって兄ちゃん…。別に怒ってねぇの、最初から分かってんだろ」

「ふふふ…」

「あー、久々に見ましたわぁ、レピさんのその表情(かお)。矛先ワタクシじゃないのにちょっとムカついて来ました」

「えっ、僕そこまでですか!?」

「…ふふっ。この雰囲気、本当に久しぶりに感じる」


 想定外のリリニシアの攻撃に本気で狼狽えるレピを見て、シェリルが目を潤ませながら微笑んだ。


「姉ちゃん…」


 姉の姿を見たスウォルが涙を貰いそうになる中、リリニシアも僅かに声を震わせながら、それでも自らを律し、切り出す。


「…さて、話を戻しましょうか。離れている間のことも聞きたいところですが、まずはワタクシたちが"ガガーニム様やクレン様と、使者としてどこまで話を進めたか"からお伝えすべきでしょうね」


────────


「なんだ、気付いてたの?」


 洞窟の中で名が挙げられたクレンはというと、リエネが驚くそぶりも見せなかったことにむしろ驚きながら尋ねた。


「確信があった訳ではありませんが」

「ふぅん…。それで入らなかったの?」

「いえ、それはシェリルに話した通りの理由です。貴方が見ていようといなかろうと、私はここに残ったでしょう。…ご用件は?」

「もう済んだわ」

「…はい?あの、どういう──」


 怪訝な表情で、ようやく振り返ったリエネに、クレンは先ほど見せたのと同様、40代頃の姿で、あっけらかんと言い放つ。


「一緒に入らなかった理由が気になっただけ。貴方も一緒に入ってたら、それを見届けて引き返すつもりだったもの」

「…」

「ほら、ハリソノイア人って言うからには、もっと怖いもの無しというか…罠の可能性なんか警戒するんだ、と思って」

「勿論です。それどころか、他国の者より過敏なくらいでしょう。それを臆病と呼ばれるのなら、お好きになさるといい」


 表情一つ変えずに言い放つリエネに、クレンはニヤニヤと──奇しくも、洞窟内でラツンジパをつつくレピと同じ頃、同じ表情で、挑発を続けた。


「ふふふ…気を悪くしたかしら?」

「まさか。自らの力を傲り、無謀で仲間を死地に追い込むのと比べれば、臆病の方がよほどいい」


 リエネの返答を受け、クレンは楽しげに口角を上げる。


「へぇ…。本当に想像と違うわねぇ、ハリソノイア人」

「ハリソノイアという"森"にも、様々な"木"がありますので」

「…なるほどね」


 満足げなクレンに、リエネは質問を返した。


「貴方のご要件が済んだのなら、こちらからお伺いしたい。──先程仰った、"変なニオイ"について」

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は8月3日19時頃にXでの先行公開を、4日19時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

スウォルの"ニオイ"に関するリエネの問いに、クレンは笑みを絶やさず、はぐらかす。

尚も追及するリエネに、クレンは"取引"を持ちかけた。


次回「自分の信じている真実」

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