#85 後発四人と、現れた少女
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
今月は通常更新に加え31日にも更新を行います。
またそこから始まり8月1日、2日の三日間、連日で更新致します。
具体的なスケジュールは活動報告「流石に厚くなってきたやん」に記載がございますので、よろしければご確認ください。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
改めてラツンジパの祖母の言葉を思い返し、和睦の難しさを見つめながらも希望を捨てない意志を確認しあったシェリル、レピ、リエネ、ラツンジパ。
四人がシャファルノールに差し掛かると、一人の幼い少女が声を掛けた。
少女は首を傾げながら、足を止めた四人に歩み寄った。
「!」
「あ、こんにちは。もしかしてシャファルノールの子?」
突如現れた少女に対しリエネが警戒心を露にする中、シェリルは屈み込み、目線を合わせて尋ねる。
「うん、そうだよ」
「よく私たちが”他所の人”だって分かったね?」
「においが違うから。けど、お兄さんたちはマキューロの人」
少女は上体を斜めにずらし、シェリルを躱して"お兄さんたち"──レピとラツンジパに投げ掛けた。
「…はい、その通りです」
レピの言に従い、余計な火種を産み出さないようラツンジパは口を閉ざし、レピは"幼い少女と言えど、シャファルノールに暮らす原理主義者の一人"だと自分に言い聞かせながら慎重に言葉を選び、頷く。
「ふふ、当たった。──ふぅん、そっかぁ…」
少女は言い当てたことを喜ぶのも束の間、シェリルにグッと顔を寄せて呟いた。
「あ、あの…どうしたの?」
「お姉さんからは、変なにおいがしないね?」
「え?そ、そう?」
「うん。双子なのにね」
「!」
シェリルたちはまだ、”双子”について言及していない。
にも関わらず、少女はシェリルに対し、そう言い放った。
「ス…スウォルたちのこと知ってるの!?」
「ふふ…」
変わらず答えようとはしない少女に、リエネは鋭い目を向けながら問う。
「”シェリルからは”とはどういう意味だ?スウォルからはその、”変なにおい”がしていたのか?」
「…」
「さっき、私たちが四人でいることに疑問を抱いていたな。既にスウォルたちから、”三人の仲間とはぐれた”とでも聞いていたのか」
少女はやはり答えず、それどころか目さえ合わせないが、リエネは構わず質問を重ねた。
「ねぇ、お兄さん」
少女はリエネを無視し、再び話の矛先をマキューロ人の二人に戻す。
「おい…!」
「リエネさん!抑えてください!」
「…ちっ」
レピに遮られたリエネは、苛立ちを隠すどころか見せつけるように舌打ちしながら視線を逸らした。
「失礼しました。それで、なんでしょう?」
「ううん、そっちのお兄さん」
「…俺か?」
少女はレピに対して首を横に振ると、静かに状況を見守っていたラツンジパに声を掛けた。
「お兄さんからも、ルヴィニケンプのにおいがするね」
「!!」
「るゔぃにけんぷ?」
その名を知らない三人が声を揃えると、ラツンジパは重々しく、言いたくなさそうに、口を開く。
「…祖母ちゃんの名前だ。リリニ…あー、リリーと合流するまで、兄ちゃんたちには言うなって言われてたのによ」
自分と接触した時と同様、リリニシアが名を偽っている可能性を思い出したラツンジパは、咄嗟に軌道を修正しながら三人の疑問に答えた。
「あ、内緒にしてた?ごめんね」
「そんなことより、なんで祖母ちゃんのこと知ってるんだ。長いことシャファルノールになんか来てねぇはずだが」
「そうだね。最後に会ったの、随分と昔のことだもん。…あははっ」
幼い少女が語る、”随分と昔に、老婆であるルヴィニケンプと会った”という事実と絶やさない意味ありげな笑顔に、四人は気味の悪さを感じ始め、互いに視線を交差させる。
「でも、それだけ強いにおいが残ってるんだから、まだ元気なんだね」
少女は四人の困惑を意にも介さず、事も無げに続けた。
「…あぁ、元気すぎるくらいに」
「そうなんだ。昔から変わらないね」
少女が再び”年齢への違和感”を滲ませると、リエネは感情を抑え、努めて冷静に声を掛ける。
「ただの子供ではないな」
「そう思う?──ハリソノイアのお姉さん」
少女は初めて、未だ”ハリソノイア人だ”とは名乗っていないリエネと目線を合わせ、その問いに答えた。
「なっ…!?」
言い当てる少女にシェリルとラツンジパは言葉を失ったが、レピとリエネはむしろ、合点が行ったように頷く。
「やはり…」
「君は既に、スウォルやリリーと接触しているな」
「ふふ…なんでそう思うの?」
不思議そうに、しかし楽しげに首を傾げる少女に、リエネはラツンジパを手で指しながら語る。
「彼の祖母ルヴィニケンプは、断ったとはいえ、元老院への勧誘を受けた凄腕の魔術師だと聞いている。その彼女でさえ、私が人種を偽っていることは分かると言っていたが、ハリソノイア人であることは”前もって聞いていた”から知っている、と語るに留めた。──つまり、仮に君が元老院級の腕を持っていたところで、”人種を偽っている”ことは察知できても、本来の人種の特定までは出来ないはずだ」
「…」
「それが出来たのなら、同じく”事前に知っていたから”としか考えられん」
「──あるいは」
「む?」
シェリルとラツンジパがルヴィニケンプの言葉を思い返す中、リエネの推測にレピが口を挟んだ。
「魔術師としての感覚ではなく、例えば”心が読める”などの個質魔術の持ち主か、です」
「…”考えられん”と言い切った後に他の可能性を持ち出されると、私が格好つかないんだが」
バツが悪そうに頬を掻くリエネに、レピは小さく詫び、続ける。
「はは…すみません。個質魔術であろうとなかとうと一つだけ…貴方が少なくとも、魔術師として僕より遥かに格上である、ということだけは言い切れます」
「…」
”年端も行かぬ少女が、遥か格上”──。
レピの宣言に、三人は息を飲み、冷や汗を垂らす。
「個質魔術を使えるのならば言うまでもなく。そうでなくとも、ルヴィニケンプ様の腕前が規格外であることを考慮した上で、そして一度お会いしているとはいえ…においで彼女に近しい人間を見抜くことは、今の僕には到底出来ません。──貴方は、いったい何者でしょうか?」
レピの問い掛けで、全員の視線を一身に受けた少女は──。
「…あの二人の方が面白かったなぁ、反応」
先ほどまでとまた違う、歪んだ笑みを浮かべそう答えると、固唾を飲む四人に続けて語り掛ける。
「お兄さんたちはマキューロ人だから知ってると思うけど…私、クレン・メジャルカって言うの」
「なっ…」
「はぁ!?」
幼い少女が名乗った名に、レピは言葉を失い、ラツンジパが仰天する一方、他国人であるシェリルとリエネは顔を見合わせる。
「え…リエネさん、確か…」
「元老院の一人…だったはずだ…。いったい、どういうことだ…?」
「あ、もう聞いてた?そうだよ、元老院」
四人がそれぞれ、クレンの言葉を飲み下そうと必死に脳を働かせる中、当のクレン本人はあっさりと頷いた。
「いや、だが…年齢が…?」
「そ、そうだ!70は超えてるはずだぞ!」
「あ!なんで歳言うの!知らなかったら誤魔化せたのに!」
首を捻るリエネに、狼狽しながらラツンジパが同意すると、クレンは唇を尖らせる。
その反応を受け、レピもキョロキョロと目を泳がせながら、改めて尋ねた。
「で、では…その、メジャルカ卿ご本人であると…?」
「そう言ってるじゃない」
「その…年齢については、どう説明なさるのです?」
レピの追及に、クレンは見せつけるように大きなため息を吐く。
「はぁ…。ガガちゃんと言い、男ってのはどうしてこうも歳の話が好きなの?」
「いえ、女性のリエネさんも言ってますし、そもそも好きとかそう言う話では──」
「しょうがないなぁ…。待ってね、今見せてあげるから。──ぎっ…ぐぁあ…!」
クレンがレピの抗議を遮ると、ミシリ、ゴキリと骨を鳴らしながら、少しずつ幼い体を成熟させていった。
「ひぃ…!」
「なっ…」
「おいおいおい…!?」
「これは…」
およそ現実と思えない光景にシェリルは目を覆い、リエネは絶句し、ラツンジパは仲間の顔を見回し、レピは目を奪われる。
まもなくするとその変異は──。
「ふぅ…。やっぱりこのくらいが一番ちょうどいいかしら。まったく、年々若くなるのがしんどくなっちゃって…嫌になるわ」
40代半ば程に見える姿で落ち着いた。
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次回は7月27日19時にXでの先行公開を、28日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
肉体の変容を、聞くこと自体が禁忌とされる"個質魔術か"と問われ、クレンはこともなげに頷く。
リエネの追及に答える形で、スウォル、リリニシアと接触済みであることを明かしたクレンに、レピはさらに質問を重ねる。
次回「シャファルノールの"森"」




