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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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84/95

#84 正常と異常

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。


今月は通常更新に加え31日にも更新を行います。

またそこから始まり8月1日、2日の三日間、連日で更新致します。

具体的なスケジュールは活動報告「流石に厚くなってきたやん」に記載がございますので、よろしければご確認ください。


noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。

復習などにご活用ください。

https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

スウォルと”彼との関係”について自問するリリニシアを残して離席したガガーニム。

二人がガガーニムの言葉の真意を考える一方、ガガーニムは”本来の姿”のクレンと言葉を交わし、ロガーメーポの訪れを報告する。

 ガガーニムの報告を受け、僅かな沈黙の後、クレンは口を開いた。


「あやつか。用はなんと?」

「さて…私を一通り罵って去って行きました」


 答えを聞き、クレンは大きく鼻で笑う。


「相も変わらず、しょうのない男じゃ。…気に入らぬな」

「…何点か気になることが」

「なんじゃ」

「まず──スウォル殿に対し妙なことを口走ったのが気に掛かっております」

「妙?」

「彼の家名が"ドラベレアル"だと聞くと"昔馴染み"の息子だと言い、予言の勇者であると言い当てました。しかしその"昔馴染み"の名を、スウォル殿はご存知ないようで。"似た名の者と間違えた"と言い訳しておりましたが──」

「実際に盾を継いでいる以上、人違いでは話が噛み合わぬな」


 ガガーニムの話に、クレンは興味深そうに耳を傾けた。


「えぇ。若かりし頃には"禁じられた魔法"の研究で国外を渡り歩いたとのことですから、ヤクノサニユに知り合いがいること自体にはなんら不思議はありませんが…」

「ふむ…。確かに妙な話じゃな。それで?」


 "次の話"を促され、ガガーニムは一層、表情を引き締めた。


「こちらは()()()()()に深く関わるかと。スウォル殿に対し、ムータオヒカ卿は──」


────────


 スウォルとリリニシア、ガガーニムとクレンが、それぞれ情報や考えを共有しながら夜を明かす。

 翌朝──。


「おいレピ…。今日中には着けるんだろうな、シャファルノール…」

「えぇ、おそらく夜には」


 依然としてシェリルの側を離れず、周囲に気を払いながら尋ねるリエネに、"ダヲジア卿の死"から持ち直したレピが笑顔を絶やさず答えると、ラツンジパは大きなため息を吐いた。


「一緒に行くって決めたのは俺だが、気が重てぇな…。隷我(れいが)──あーいや、原理主義の巣窟ってのは」


 革新主義者の間に置ける"原理主義者の蔑称"を口に仕掛けるも、"他国(よそ)からの客人に聞かせたくない"というレピの気持ちを思い出したラツンジパは慌てて表現を改めるが、既に発した言葉は、シェリルの耳に届いてしまった後だった。


「れいが?ってなんですか?」

「あー…その…」

「──ありがとう、ラツンジパ。けど、話しておくべきかもしれないね。革新主義者(ラツンジパ)が加わってくれた今、こちらから口にすることはなくても、向こうから言われることは考えられるし。──ラツンジパ、頼むから言われても揉め事を起こしたりしないでくれよ」

「はっ…あっちが起こして来なければな」

「おい二人とも、なんの話を…?」


 レピに諭され、ラツンジパが鼻で笑いながら答える中、話の中身が読めないシェリルとリエネは共に首を傾げる。


「既に話した通り、マキューロでは原理主義者と革新主義者が対立している状況なのですが…この"原理主義"と"革新主義"という言葉は、説明するに当たって僕が便宜上、当てただけなんです」

「そういえば最初に聞いた時、"いわば原理主義"って言ってたような気が…しないでもないな…」


 リエネが顎に手を当て、瞳を泳がせながら回想すると、レピは微笑を浮かべたまま頷いた。


「よく覚えてますね…。はい、確かに言いました」

「じゃあ、さっき言ってた"れいが"っていうのが、マキューロ内での正式な原理主義者の呼び方…ってことですか?…けど、なんでわざわざ?」

「半分正解っちゃ正解かもな」


 疑問を重ねるシェリルに、ラツンジパは難しい表情で答える。


「半分?」

「…兄ちゃん、任せていいか?」

「構わないよ。"隷我者"は革新主義者が原理主義者を罵る時に使う表現なんです」

「え、罵る…ですか?」


 シェリルが驚く一方、リエネは数度、頷きながら呟いた。


「…なるほどな。対立しているなら、罵り言葉の一つがあってなんら不思議はない」

「えぇ。逆に原理主義者が革新主義者を罵る際には、"忘敬者"と。──済まない、ラツンジパ」


 革新主義者(ラツンジパ)の眼前で口にすることに罪悪感を見せるレピに、当の本人はぶっきらぼうに頷き、"気にするな"と言わんばかりに手をヒラヒラと振って見せる。

 改めて直面した障害の大きさに、シェリルは肩を落とした。


「なんか、思ってたより本格的に対立してるんですね…」

「そうですね…。出来るだけ生々しさを見せたくなかったので言い換えた、というのが本音です」


 レピがシェリルの気持ちに寄り添う一方、リエネは続けて疑問を口にする。


「わざわざ言い換えなくても、蔑称じゃなく自称でよかったんじゃないのか?それぞれの陣営の」


 その疑問に、レピはゆっくりと首を横に振った。


「ないんです」

「なに?」

「原理主義者も革新主義者もお互い…"自分達が正常で、相手方が異常"だと考えています。"正常な自分達"に敢えて固有の名を与える必要はなく、呼ぶ際も"我々"でしかないんですよ」

「…正常と、異常」


 リエネは自らの国と主を思い出し、軽く視線を伏せて呟く。


「えぇ。互いが”自らを正常だと認識している”という点で、自らを異常者と定義し、その上でハリソノイアにおける”正常”を書き変えようとしているユミーナ様とは異なりますが…やはりマキューロ人とハリソノイア人の精神的な類似性は否定できないのでしょうね」

「おいレピ…」

「…」


 レピの言葉を受け、再びラツンジパの怒りを誘うことを危惧したリエネがチラリと様子を伺うが、ラツンジパは感情に任せ喚いたりはせず、バツが悪そうにそっぽを向いた。

 シェリルは恐る恐るレピに尋ねる。


「あの…レピさんから見て、仲良くするのってやっぱり難しそうですか?」

「…そう、ですね。少なくとも、一朝一夕に解決する問題ではないんじゃないでしょうか」


 その真っ直ぐな問い掛けに、レピは僅かな間、目を閉じて言葉を探した後、答えた。


「そうですよね…」

「ラツンジパのお祖母様が仰った事は…やや極端ではありますが的外れではないと、僕は思います」


 レピの言葉に喚起され、シェリルは老婆の言葉を思い出す。


”誰からの反対もなく、すぐにでも対立をなくす方法を教えてやろうか。──全員殺しちまうのさ。そうじゃなけりゃ、大なり小なり対立は起こる。起こらないなら、それは誰かが我慢して、妥協してるからさ”


 シェリルの歯軋りが静かな森に小さく響く中、レピは続けた。


「とりわけ原理主義と革新主義の対立の争点は、言ってみればマキューロという国の根幹である”自然への敬意の在り方”です。…平和的な解決は難しいのではないか。それが僕の本音です」

「そう、ですか…」

「──ですが、絶対に不可能だ、とも思っていません」

「…え?」


 ”本音”に似つかわしくない、明るく力強い声色で断言するレピに、シェリルは思わず気の抜けた返事を返す。


「魔術増幅と同じで、まだ最終的な結論を出せる段階じゃないんです。”恐らくはそう、だけど分からない”としか言えません。であれば、諦めるには早いでしょう?…それに一つ、これまでと今とで大きな違いがあります」

「違い…ですか?」

「えぇ、僕たち──ヤクノサニユの使者団の介入です。これによって、状況に変化が生じるかもしれません。もちろん、それが必ずしもいい変化とは限りませんが…現に、ほら」


 レピが足を止め、一点をじっと見つめると、シェリルとリエネもその視線を追う。


「…あん?な、なんだよ、揃いも揃って」


 自分達と出会ったことで、敵であるハリソノイアへの考えに変化が生じた実例──ラツンジパへと辿り着いた。


「ね?」

「…まぁ、マキューロ人に限らず言えば、私だってそうだしな」

「ふふ…そうですね!」

「俺を見ながらニヤニヤすんじゃねぇよ、三人とも…」


 ”可能性は未知であり、故に諦めない”と改めて確認しあった四人は、再度シャファルノールに向け歩みを進め──やがて日が傾いた頃。


「まもなくシャファルノールに入ります。…ラツンジパ、繰り返しになるけど、揉め事は起こさないでくれ」

「はいはい、分かってるよ…。隷我って言わなきゃいいんだろ?」

「それは勿論だけど、売り言葉に買い言葉、なんてのもダメだ。頼んだからね」

「分かってるっての」


 面倒くさそうに顔を背け、手をヒラヒラと翻すラツンジパに一抹の不安を抱くレピだったが、その返事を信じ、頷く。


「お二人も、彼のお祖母様で身に染みてるとは思いますが、基本的に原理主義者は排他的な傾向が強いです。気分の良くない思いをすることもあるかもしれませんが、穏便にお願いします」

「は、はい…!」


 緊張を隠せず、シェリルは声を震わせながら頷き、対照的にリエネは落ち着いた声で答えた。


「あぁ、そのつもりだ」

「リエネさん、ここでもヤクノサニユ人として扱わせていただきます。恐らく元老院の面々には見抜かれるでしょうが…」

「それも分かってる。お前に任せるさ」

「ありがとうございます。…では、進みましょう」


 打ち合わせを済ませ、シャファルノールに踏み込もうとする四人の動きを止めさせたのは──。


「…来た、他所の人。…あれ?でも四人いる…。まぁいっか」


 6、7歳ほどの、幼い少女の声だった。

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は7月20日19時にXでの先行公開を、21日19時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

シャファルノールの少女は、レピとラツンジパがマキューロ人、シェリルとリエネが他国人であることを匂いで見抜くと、シェリルに対して意味ありげに呟いた。

"お姉さんからは、変なにおいがしないね?"


次回「後発四人と、現れた少女」

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