#82 ムータオヒカ卿
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
リリニシアとスウォルが、元老院に対する警戒を強めつつ、ガガーニムによってひとまずの拠点を得た一方、シェリルとリエネは、レピとラツンジパから元老院の構成員について情報を得る。
その中で、レピは国を離れて知らずにいた、”ダヲジア卿”の死を聞かされた。
翌日の夕方、元老院の集合をスウォル、リリニシアと共に待つガガーニムの元に、コツコツと杖の音を響かせながら一人の老人が訪れた。
「失礼」
「これはこれは…ムータオヒカ卿。ご足労いただき、ありがとうございます」
「よもや就任から2ヶ月も経たぬ小僧に呼び出されるとは思わなんだ。すっかり板に付いたようだな、ジスタム卿?」
ムータオヒカ卿──"ロガーメーポ・ムータオヒカ"が唇を歪ませ、しわがれた声で皮肉るも、ガカーニムは表情一つ変えず答える。
「元老院として為すべき職務と行使できる権利に、歴の長さは無関係だと理解しております」
「ふん…かわいげのないヤツよ。して、そこの童共は?この国の者ではないようだが」
ロガーメーポはスンスンと鼻を鳴らしながら尋ねた。
「ヤクノサニユ王国から、ゼオラジム陛下の命を受けてここまでいらした使者です」
「使者?ヤクノサニユの…」
「詳細につきましては、全員が集まってからお話いたします。…お二人とも、自己紹介をお願いできますか」
ガガーニムから元老院の構成員について簡単な紹介を受けていたスウォルとリリニシアは、目の前に現れた三人目の──そして想像していたような元老院に、緊張からゴクリと生唾を飲む。
「…リリニシア・ルベス・ヤクノサニユと申します」
「ルベス…ヤクノサニユ?では…」
「国王ゼオラジムは、ワタクシの祖父に当たります」
「王の孫娘が使者とな。ヤクノサニユはずいぶんと人材に困っていると見える」
ロガーメーポは蔑むように笑うが、リリニシアは毅然と答えた。
「ワタクシが自ら望んだことです。ご心配には及びませんわ」
「…ふん。それで?」
「スウォル・ドラベレアルです」
面白くない様を隠そうともしないロガーメーポだったが、スウォルが名乗ると表情を変えた。
「…ドラベレアル?」
「え…はい、そうですが」
「…そうか。ではそれがルベスの…。予言の勇者、という訳か」
ロガーメーポは懐かしむように目を細め、スウォルの左腕を──正確には、盾を眺める。
「え…なんで分かったんです?」
「ワーサック・ドラベレアルの倅だろう。儂の昔馴染み──」
「ワーサック?あの…誰ですか、それ?」
「…なに?」
キョトンとした様子のスウォルを見て、元老院に名を連ねる一流の魔術師は、瞬時に嘘ではないことを悟った。
「小童、父親の名は?」
「…クーヤイ・ドラベレアルです」
小童呼ばわりに一瞬、顔をしかめたスウォルだったが、先ほどの煽りを受け流したリリニシアに倣い、感情を乱すことなく答える。
ロガーメーポは一人で納得したように数度頷いた。
「なるほどな、そういうことか…。くだらん男よ…」
「…あの?」
「似た名前の者と取り違えた。貴様が気にする必要はない」
キョトンとして首を捻るスウォルの疑問を、ロガーメーポは取り合いもせずに切り捨てる。
「恐れながら、ムータオヒカ卿。お二人は若年なれど、他国からはるばる王命を携え訪れたお客人。少々態度が目に余りますぞ」
「偉そうな口を叩くようになったものだ。わずか52にして元老院に加わる天才は、儂などどはモノが違う。のぅ、ジスタム卿?」
「…」
過剰なまでに"天才"と強調するロガーメーポを、ガガーニムは何も言わず、ただ鋭い目で睨み付けたが、ロガーメーポもそれに構わず言葉を紡ぎ続けた。
「ダヲジアめがあと数年早く消えておれば、マキュラ卿を超え史上最年少もありえたというに…惜しかったのぅ?」
「口を慎まれよ、ムータオヒカ卿!余りに品位に欠けますぞ」
冷静を貫いてきたガガーニムが声を荒げると、ロガーメーポはそれを心底、楽しそうにせせら笑う。
「クカカカッカッカ…!そう荒ぶるでない、ジスタム卿。なにか都合でも悪いのかのぉ?」
「ムータオヒカ卿…!」
「おぉ怖い怖い!若き天才の激情で捻り潰されては、儂やダヲジアのような老爺などひとたまりもないわ!カッカッカ…!ゲホッ、ゲホッ…!」
ロガーメーポは咳き込みながらも言いたい放題言うと、再びコツコツと杖を突き、踵を返す。
「ではの、忘敬のお飾り。カッカッカ…!ゲホッ…」
そう言い残し、洞窟を後にした。
しばしの静寂の後、口火を切ったのは──。
「なんっ…だよ、あのクソジジイ!?婆さんの比じゃねぇぞ!?」
ルヴィニケンプの態度と重ね合わせ、なお余りある横暴に、スウォルの不満が火を吹いた。
「お見苦しいところをお見せし、申し訳ない」
「ガガーニム様のせいじゃないっすよ!あーゆーの"老害"っつーんだろうな…!」
スウォルが憤りを隠さない一方、リリニシアは顎に手を当て、呟く。
「妙な話ですわね…」
「なにが!?っていうか、なんでそんな落ち着いてられんだよリリニシアは!?」
「貴方が代わりにキレ散らかしてくれてるからですわよ。…疑問点はいくつかありますが、妙なのは──」
リリニシアはそう言うと、人差し指を立てた。
「スウォルの名字を聞いて予言の勇者であることを理解し、その理由として昔馴染みの"ワーサック"なる人物の名を挙げた。──仮にその…あの方の仰る通り、"ドラベレアル"に似たお名前を持つワーサックさんがいたとしても、それがスウォルに繋がるはずがありません」
「…あのジジイの名前、言いたくねぇんだな」
「今の論点はそこじゃないですわよ」
ガガーニムは二人のやりとりに頬を緩め、大きく息を吐きながら頷く。
「ムータオヒカ卿は、"ワーサックの倅"だから"予言の勇者である"という論法で話しておりました。人違いであり、スウォル殿が"ワーサックの倅でない"のなら、予言の勇者であることには結び付きませんな」
「いったい何が"そういうこと"で、何に納得したのでしょう。"くだらん男"と言っていたのも気にかかります…というのが、まず一つ。次に──ガガーニム様」
「…えぇ」
リリニシアに問い掛けに、ガガーニムは静かに応じた。
「いくつか気になることを仰っていましたが…まず、最後の言葉は、いったいどういう…?」
全員が"原理主義者"であるはずの元老院が、その対である"革新主義者"への蔑称で呼ばれる不可解への疑問に、ガガーニムは答えに迷う仕草を見せる。
「昨日のご様子から察するに、リリニシア様はマキューロ内部における対立を把握しておられると存じます」
「ある程度は。スウォルにも一通りの説明はしてありますわ」
「はい、聞きました。一応は」
「ムータオヒカ卿の"忘敬のお飾り"という表現は、ある程度的を射ています」
「…ご説明をお願いしても?」
聞きづらそうに尋ねるリリニシアに、ガガーニムは自嘲しながら頷いた。
「お恥ずかしながら私は、魔術の腕だけで元老院に加わった訳ではありません」
「では…?」
「激化するマキューロ人の対立を抑制する為、いわゆる"忘敬者"の思想を元老院に組み込む意図から、私が選ばれたのです」
「…ということは、ガガーニム様ご自身の思想は…その、そちらなんですの?」
ガガーニム自らが用いたとは言え、蔑称を口にすることを避けながら、リリニシアは追求する。
「私自身としては中立的な立場のつもりですが…従来の元老院から比べれば、かなり忘敬寄りでしょうな。…そしてムータオヒカ卿は、私の加入に最も強く反対しておられました」
「そっか…。それであんなに攻撃的だったんだな…」
「ありがとうございます、ガガーニム様。…質問を重ねて申し訳ないのですが──」
「ダヲジア卿について、ですね」
リリニシアが恐縮しながら尋ねようとすると、内容を察していたガガーニムは、先回りして答えた。
「その方が亡くなったことで、ガガーニム様が元老院に…というお話のようでしたが」
「その通りです」
「あの方の口ぶりでは、その…」
リリニシアが口籠ると、ガガーニムは"気遣いは不要"とばかりに、自らその先に触れる。
「私がダヲジア卿を謀殺した。…そう言いたいようでしたな、ムータオヒカ卿は」
「…そう言っていると解釈いたしました」
「この場で確たる証拠を示すことはできませんが、無論、私がダヲジア卿を手に掛けた訳ではございません。…と言ったところで、証拠もナシに信用しろ、という方が難しいでしょうな」
「…」
リリニシアは沈黙を持って、その回答とした。
「これから話すのは機密事項です。このマキューロ内で知る者は元老院の五名のみ…。混乱を避ける為、民には伏せておりますが──正確には、ダヲジア卿の死亡は確認できておりません」
「…どういうことですの?」
「昨日お聞かせした話、覚えておいででしょうか」
リリニシアに先んじて、スウォルが革新に触れる。
「…行方不明、っすか?」
ガガーニムは黙って頷いた。
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次回は7月6日19時にXでの先行公開を、7日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
”行方不明か”とのスウォルの問いに頷いたガガーニム。
リリニシアから”民に伏せている理由”を問われ、その意図を明かす。
次回「お姫様の自問」




