#81 "分からない"から
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
交渉の末、他の元老院三名と話す機械を作ってもらえるよう取り付けたスウォルとリリニシア。
洞窟を去ったガガーニムとクレンをリリニシアが怪しむ一方、クレンはガガーニムを”嘘吐き”と呼び、ガガーニムもそれを否定しなかった。
「怪しいって…何がだよ?いい人たちだったじぇねぇか。そりゃあ、クレン…様は、ちょっとおっかない感じするけど」
スウォルは反論するが、リリニシアは意味深げに、ゆっくりと首を横に振った。
「それがむしろ怪しいですわ」
「はぁ?どういうことだよ?」
「…ただの"いい人"じゃ、国を運営することなんて出来ませんわ」
リリニシアは、自らの抱く"祖父への疑念"を重ね、寂しげに呟く。
「…リリニシア?」
「いえ…。あのお二人、友好的すぎるんですわよ。孫のラツンジパさんが認める”ゴリゴリの原理主義者”のルヴィニケンプ様は初めてお会いした際、ワタクシが魔術を扱えることを知るまで、取り付く島もありませんでしたの。スウォルは寝ていましたけれど」
「…そうなのか?」
ピンと来ていない様子のスウォルに、リリニシアは”スウォルの記憶の範囲”から情報を取り出した。
「あなたが起きた後、すぐに追い出されたのは覚えているでしょう?”嫌な婆さん”って言ってたじゃありませんの」
「あぁ、それはまぁ…」
「レピさんは”元老院は全員が原理主義者”だと言ってましたわ。そしてこれも貴方は寝てましたけど、ラツンジパさんに至っては元老院を指して、ハッキリと”老害”とまで言いました。…あのお二人から、そんな感じがしましたか?」
「確かにクレン様は”老”って感じじゃなかったよな」
「そうじゃねぇわよ!!」
「わ、分かってるよ…。冗談だって…」
緊張感のないスウォルの言動にため息を吐きながら、リリニシアは続けた。
「まったく…。ともかく、明らかに不自然なんですのよ。原理主義者の言動として。なにか裏がある気がしてなりませんわ…」
「単に個人差じゃねぇのか?たまたま、元老院の中でも話が分かる人たちと最初に会えたってだけで」
「…その”たまたま”も怪しいモンですわね」
スウォルの発言を受けて、リリニシアは顎に手を当て、考え込む。
「なにが?」
「考えてもご覧なさい。”元老院の一人”が、変装の為に”個質魔術まで使って”、なんの用もなくあんな森にいると思いますの?」
「…って言ったって、俺たちが来ることなんか知らなかったんじゃねぇか?」
「さっき貴方も言ったでしょう、”信じらんねぇ”って。個質魔術は信じられないことを起こせるんですわ。…もし、”未来を視る”ような個質魔術を持つ者がいたら?」
リリニシアの話は仮定でしかないが、スウォルを黙り込ませる程度の説得力は持っていた。
「ひょっとしたら…貴方たちがルベスの剣と盾を継ぐという”予言”も、マキューロ人によるものなのかも知れません。──ともかくスウォル。あのお二人、特にクレン様は、全面的に信用するのは危険です。少なくとも、今はまだ」
「…あぁ、分かった」
真剣な顔付きで諭すリリニシアに、スウォルも応じて、しっかりと頷いた。
「んで、結局んところ個質魔術ってなんなんだよ?それにぼーけーしゃ?だっけ、アレも」
「あぁ、そうでしたわね。説明しますわ。まず個質魔術ですが──」
リリニシアは人差し指を立て、どこか得意気に語り始める。
「ワタクシも扱えるような火や癒しと言った"基礎魔術"とは別に、生まれつきの才能で決まる、その人専用の魔術…ということらしいですわ、ルヴィニケンプ様曰く」
「へ〜、専用」
「これは"魔術が上手ければ出来るようになる"というモノではないらしくて、それこそ元老院に名を連ねる程の腕でも、"生まれつきの才能"がなければ扱えないんですって」
「それでガガーニム様も…」
腕を組んで深く頷き、分かったような反応を返すスウォルに、リリニシアの声色は一段、高くなった。
「次に忘敬者。これはさっきも言った通り、原理主義者が革新主義者を蔑む表現みたいですわ」
「蔑む…」
「"自然への敬意を忘れた者"ということですわね。反対に、革新主義者が原理主義者を蔑む表現が"隷我者"。こちらは"我を捨て、自然に隷属する者"という意味ですわ」
「…お互いを罵り合ってる訳か」
俯き、無念そうに呟くスウォルを見て、リリニシアの上ずった声色は元に戻る。
「そうですわね…。レピさんの言っていた通り、対立は深刻なようですわ」
「…なぁ、リリニシア。本当に出来ると思うか?全部の国で和睦なんてよ」
ふとスウォルが漏らした弱音に、リリニシアは目を丸くして驚く。
「…何を言ってるんですの」
「ハリソノイアでも、国の連中とユミーナ様が対立してただろ?マキューロでも…。同じ国のヤツらでもそんな感じなのに、本当に国を越えて纏まることなんて…」
「それは…分かりませんわ、正直」
容易く”出来る”などと言えないのは、リリニシアも同じだった。
しかしリリニシアは敢えて、力強く表明する。
「けれど、だからって諦めるのも嫌ですわよ、ワタクシは。だって”分からない”んですもの」
「リリニシア…」
「可能性がゼロじゃない以上、排除しちゃいけませんわ!」
ヤクノサニユで祖父・ゼオラジム王との謁見後、シェリルとスウォルが父の小屋を改めている間、レピ、リエネと三人で王の不審点を整理していたに得た知見を思い出し、拳を固く握りしめた。
「…そうだな、仰る通りだよ。やってみなきゃ分かんねぇもんな!」
「そうですわ!前を向くんですの!」
覇気を取り戻したスウォルの声に、リリニシアも歓喜に満ちた声で応じる。
それからしばらく後、ガガーニムは単身で洞窟に戻った。
クレンの不在を問われたガガーニムは、"元老院として、会議に向けた準備に取り掛かった"と語り、”元老院に召集を掛けたこと”、”はぐれた仲間が現れたら案内するよう手配したこと”を伝え、改めて元老院五名が集うまでの間の拠点として、今いる洞窟を貸し与えることを約束した。
────────
「それで、元老院ってのはどんな連中なんだ?名前ぐらいは分からんのか?」
一方、シャファルノールを目指す道中、シェリルの側を離れず周囲を警戒しながら、リエネは先を歩くレピとラツンジパに尋ねた。
「おいおい、バカにすんなよ?名前ぐらいは分かるぜ?…名前と歳ぐらいは」
鼻を鳴らして胸を張るラツンジパに、レピは笑みを受かべながら委ねる。
「なら、君からお二人に説明してあげてくれるかい?」
「いいぜ。まずは”マベレムギリア・マキュラ”って名前の、100歳近い婆さん。こいつが事実上、マキューロの頂点って話だ。なんせ50年以上も元老院やってるらしいからな」
「へぇ…100歳…。すごいですね…」
リエネの後で、ビクビクと周囲を見回しながら、シェリルが呟いた。
「そんで次に長いのが”ボォンクレェド・ディアモス”って爺さんで、コイツも俺の父ちゃんや母ちゃんがガキだった頃から元老院やってたはずだ。たぶん80歳とかなんじゃねぇかな?」
「マベレムギリアとかボォンクレェドとか、長ったらしい名前だな…」
リエネが毒づくと、レピは笑いながら頷く。
「そうですね。昔のマキューロ人には名前が長い人、多かったらしいんですよ。もちろん、一つの傾向でしかありませんが」
「んでその次が”クレン・メジャルカ”って70ぐらいの婆さんか。俺がガキの頃に加わったはずだから…10年とか15年ぐらいか。その次が、例の”ロガーメーポ・ムータオヒカ”」
「”禁じられた魔法”を研究してた人、でしたよね」
聞き覚えのある名に、シェリルがピクリと反応を示した。
「えぇ。僕にとっては、彼にお会いすることも目的の一つです」
「祖母ちゃんと同い年っつってたから81歳かな」
「…あの老婆、そんな歳だったのか。元気なご老体だ」
リエネはまだ見ぬロガーメーポよりも老婆の年齢に関心を持ち、呆れたように言う。
そんな中、レピはラツンジパに異を唱えた。
「…ところでラツンジパ、一人抜けてるよ。ムータオヒカ卿よりダヲジア卿の方が長かったはずだろ?」
「え?…あ、そっか。他所の国に行ってたから知らねぇのか。死んじまったんだってよ、ソイツ」
「え!?」
「2、3ヶ月ぐらい前だったかな。そんでその後釜に座ったのが…なんつったかな。ガガ…なんとかって言う、50そこそこのオッサンだと」
「へぇ、50代…。聞いてる感じ、元老院ではかなりお若いんですね」
衝撃が抜けきらないレピを尻目にシェリルが食いつき、リエネもその意図を汲み取る。
「若い分だけ柔軟な考えを持ってるかも知れんし、元老院としての歴も極端に浅いから…もし"原理主義"に染まっていないとすれば──その新入りが、もっとも話せるかも知れんな」
「そうだと助かるけど、どうだかな。そういう意味じゃ少なくとも、ロガーメーポってのは昔の祖母ちゃんの友達って時点で期待出来そうにねぇな…。どんなヤツなんだか」
リエネが希望を見出す中、レピは一人、誰にも届かぬ小さな声で呟いた。
「亡くなった…ダヲジア卿が…」
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次回は6月29日19時にXでの先行公開を、30日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
翌日の夕方、ガガーニムと共に洞窟で待機するスウォルとリリニシアの前に、杖の音を響かせながら、一人の老人が現れる。
ガガーニムを”小僧”と呼ぶ、その老人は──。
次回「ムータオヒカ卿」




