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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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79/84

#79 勇者(姉)の本心

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。

noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。

復習などにご活用ください。

https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

”シェリルが起きる前にしたい話”として、出会った”人に似た何か”が、”かつてマキューロ人だったモノ”だという可能性を提示したレピ。

同じマキューロ人であるラツンジパは大きく狼狽え、リエネは努めて冷静に、シェリルへの配慮を汲む。

そんな中、シェリルが目を覚ますのだった。

「目が覚めたか、シェリル」


 体を起こしたシェリルに、まずリエネが声を掛けた。


「リエネさん…はい。あの…?」

「調子はどうだ?痛みや不調は?」

「いえ、たぶん何も…」

「そうか、よかった。何があったか、覚えているか?」

「えっと…」


 リエネの問いに、シェリルは眉根を寄せ、記憶を辿る。


「私、えっと…あれ…?」


 途端に、シェリルが全身をカタカタと、大きく震わせ始めた。


「大丈夫か?」

「あの…ごめんなさい、なんか勝手に…」

「覚えているのか?」

「…いえ」


 そう話す間も、シェリルの震えは止まらないどころか、むしろ大きくなっていった。

 リエネは困惑を浮かべながら、レピに視線を投げる。


「これは…頭は覚えていなくても、心と体が覚えている…ということでしょうか。今はとにかく、心身を落ち着かせてあげるべきかも知れません」

「け、けどよ、兄ちゃん…。落ち着かせるったってどうすれば…」

「僕たちより、リエネさんの方が適任だろうね」

「…と言われても、私だってどうすればいいのか…」


 オロオロとするリエネに、レピが腕を組み唸る横で、ラツンジパは人差し指を立てた。


「人肌じゃねぇか?こういう時はやっぱりさ」

「ひ、人肌?」

「リリニシア…姫も、スウォルが起きた時にこう、ガバッと行ってたしよ。安心するんじゃねぇか?なんとなく」


 人差し指をクルクルと回しながら、その光景を思い出すラツンジパの言葉に、レピは興味深そうに耳を傾ける。


「へぇ…!リリニシア様が、スウォルくんにガバッと…!こんな状況でなければ、ぜひ詳しく聞きたい話だけど…」

「おいレピ…」


 明らかに面白がっていそうなレピの名を、リエネは諌めるように低い声で呼んだ。


「わ、分かってますよ…!だから”こんな状況でなければ”って言ったんじゃないですか…。──ともかく、ラツンジパの案は効果的かもしれません。リエネさん」

「あ、あぁ…。シェリル」


 真剣な表情に戻したレピに促され、リエネも真剣な表情で、震えを抑え込もうと自らの体を抱き締めるシェリルに向き直る。


「はい…」

「失礼するぞ」


 そう言うとリエネは両手を広げ、シェリルに向けてゆっくりと伸ばした。


「リエネさ──」


 自分に向けて伸ばされる腕を見たシェリルの脳は、リエネの腕に、得体の知れない、大きな拳を重ねる。


「ぁ…いや…!いやぁぁあああ…!!」


 途端にシェリルの瞳から大粒の涙が溢れ落ち、両手を前に突きだし、弱々しく振り回した。


「シェリル…。落ち着け、私だ…!」

「来ないで…!やめてよぉ…!!」

「シェリルさん…ここまで…」


 先ほどとは打って変わって、レピは難しい表情で、その様子を見守る。


「くっ…!」


 正常な状態ではないことは理解しつつも、シェリルから強く拒絶されることに心を痛めながら、リエネはシェリルの腕を掻い潜り、強引に体を抱き寄せた。


「あ…」

「大丈夫…大丈夫だ、シェリル。大丈夫…」


 リエネは片手を背に、片手を頭に置き、優しく、そして力強く、シェリルを抱き締める。

 幼い頃、一人で帰りを待つ寂しさと空腹から泣いてぐずる自分に、疲れた顔で帰ってきたユミーナがそうしてくれたことを思い出しながら。


「リエ、ネさ…っ」



確かあの頃、ユミーナさんは──。


”寂しい思いをさせて悪かったね。お腹空いたろう?大丈夫、私がアンタを守ってやるから”



「怖い思いをさせて済まなかった。痛かっただろう。次は必ず、私がお前を守る」



例え本当に、”人殺し”と呼ばれることになったとしても。



「うっ…うぅ…っ!」


 シェリルは腕をゆっくりとリエネの背に回し、すがり付くように抱き締め返した。


「シェリル…」

「リエネ、さん…!私、怖くて…」


 声を震わせるシェリルの頭を、リエネは柔らかく撫で続ける。


「怖いんです…嫌なんです…!痛いのも、殺すのも、殺されるのも…全部嫌なんです…!」

「…あぁ」

「なんで私が、こんな…!私は──」


 予言の子として産まれてしまったが為に物心ついた時から強要されてきた訓練中も、剣を手に取り旅に出てからも──今に至るまで、スウォル以外の前では漏らさなかった、胸の内で燻り続けていた本心。

 皆がそうだと察していて、けれど誰も口にしなかったその言葉を、シェリルは初めて、スウォル以外の前で、ハッキリと口にした。


「──勇者になんて、なりたくなかったのに…!!」


 自身の胸に抱かれ、涙と共に溢れ出た、少女の偽らざる本心を前に、リエネは──。


「…あぁ、分かってる」


 共に声を震わせ、涙と共に頷くことしか出来なかった。


「…兄ちゃん、どうにかなんねぇのかよ…?」


 シェリルの悲痛な本心を聞いたラツンジパに耳打ちされ、レピもまた、沈痛な面持ちで答える。


「そうしてあげたいけど…僕はハリソノイアで、あの剣を刺された魔物が再生できなくなったのを見てる。あの剣じゃなくても殺せる魔物はいたけど、剣の効果が確かなのは間違いない」

「じゃあ、誰か別のヤツが剣を──」


 レピは小さく、首を横に振った。


「忘れた訳じゃないだろう?君だって触れずに弾かれたんだ。盾を別け合ったスウォルくんですら、剣には触れなかったと聞くよ」

「そうだけどよ…。こんな…」


 ラツンジパは再び、シェリルに視線を戻す。


「うぅ…!うあぁ…!!」

「もうあんな思いは、私がさせん…」

「リエネさん…。リエネっ、さん…!!」


 歯を食い縛りながら、顔をしかめて呟いた。


「見てらんねぇよ…」

「…あぁ、僕もだ」


 ラツンジパの呟きに頷きながら、レピはここまでの共に歩んできた旅路を思い返す。



それが本音だと、これまでの言動から、理解はしていた。

決して、望んで得た”役割”ではないと。

それでも彼女は、与えられた役割と向き合い、理解し、必死に勇者という役割を()()()きた。

その役割の為に、ティサンとの向き合い方で説教までされた。


恐らく、演じる彼女を精神的にも、肉体的にも支えていたのがリリニシア様と──何より、スウォルくん。

幼馴染みと血を分けた弟が側にいたからこそ、自分を律して、ここまで演じて来られたのだろう。


その二人がいないと、こんなにも脆いものなのか。

やっぱり──。



「無力だな、僕は…」

「兄ちゃん…」

「あんなに泣きじゃくる少女に、何をしてあげることも出来ない。…自分の不甲斐なさを呪うよ」


 レピが腕が震えるほど強く拳を握り締める一方、リエネは変わらず、シェリルの頭を撫で続ける。


「進もう、シェリル」

「でも…私、もう…!」

「ゴチャゴチャ考えるのは後でいい。ただ、スウォルやリリニシア様と会うために、先に進むんだ。…今は、それだけでいい」

「…!」


 二人の名を聞き、シェリルの声色が、ほんの少しだけ力を取り戻した。


「スウォル…リリニシア…」

「絶対に私が守って見せるから…もう一度、立って歩こう、シェリル」

「リエネさん…」


 シェリルはそっと、リエネの胸から頭を離し、目線を上げる。


「シェリルが一人で、全てを背負う必要はないんだ。私が請け負える部分は、私に預けてくれ。…頼りないかも知れんが」

「そんなこと…。ありがとうございます、リエネさん…」

「あぁ、どういたしまして」


 リエネの目を見つめるシェリルの瞳には再び、小さな輝きが宿っていた。


「ひとまずは、どうにかなった…かな?」

「…そう、だね」


 その様子を見て顔をほころばせるラツンジパの問いに、レピは歯切れ悪く答える。

 ”問題の先延ばしにしかなっていない”と、敢えて口にすることはしなかった。


 それからまもなく、シェリルは自らの足で立ち上がり、スウォルとリリニシアとの合流を果たすべく、仲間と共にシャファルノールへの道を歩み始めた。


────────


 その頃、スウォルとリリニシアはシャファルノールにて、元老院に名を連ねるクレン・メジャルカとガガーニム・ジスタム両名を相手に、残る構成員との面会を打診する為、これまでの旅とハリソノイアの動きについて説明を続けていた。


「…なるほど。お二方のご説明は理解いたしました」


 ガガーニムは難しい表情で、絞り出すように続ける。


「率直に言って、ハリソノイアの変化については信じがたいところですが…」

「お気持ちは分かりますけど、これが俺たちの目で見てきた事実なんです」


 話す内にどんどん崩れていくスウォルの言葉遣いにリリニシアが頭を抱える横で、当のスウォルはまっすぐにガガーニムの目を見て答えた。


「むぅ…メジャルカ卿、どうお考えか?」

「私はいいと思うなぁ。ユミーナって人の話が本当なら面白そうだしさ」

「…そうでしょうな、貴方は」


 ガガーニムは”聞く相手を間違えた”とばかりに、首を大きく横に振ると、大きくため息を吐く。


「承知しました。残る三名に取り計らいましょう」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「感謝申し上げます」


 スウォルは勢いよく、リリニシアはゆったりと、それぞれ頭を下げて謝意を伝えた。


「しかし実際に全員が集うまで、数日はお時間を頂かねばなりませんぞ」

「無論、承知してございますわ。ワタクシどもとしても、先ほどお伝えした通り、はぐれた仲間を待たねばなりません」

「あ!」


 リリニシアが答えると、クレンは思い出したように大きく声を上げる。


「そうだ、言っておかないと。その仲間の中に、男のマキューロ人がいるんだよね?」

「あぁ…じゃねぇ。はい、います」


 リリニシアに小突かれ、慌てて言い直すスウォルを気にした風でもなく、クレンは重苦しい表情で続けた。


「じゃあ…危ないかも知れないなぁ…」

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は6月15日19時にXでの先行公開を、16日19時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

”マキューロ人の男がいるなら危ない”というクレンガガーニムは、困惑するスウォルとリリニシアに対しシャガルノールで起こっている異変について語る。


次回「元老院との交渉」

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