#78 最悪の可能性
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
スウォルとリリニシアが元老院のうち二名と対峙し、対話を進めるのと同じ頃、気絶させたシェリルを抱え、二人の後を追うリエネ、レピ、ラツンジパ。
リエネがハリソノイアとユミーナの在り方を語る一方、レピは先程まで戦っていた”何か”について、考えを深めていた。
レピの案に従って適当な場所を見繕った三人は、シェリルを寝かせ、自らも腰を下ろす。
口火を切ったのはラツンジパだった。
「それで、さっきは後回しにされちまったけどよ。"アレ"、なんで倒さなかったんだよ?魔物なんじゃねぇのか?」
「そうだね、その説明からだ。…まずラツンジパ、さっき"アレ"から、一度でも狙われたかい?」
「いや…一回も狙われてねぇな。女しか狙わねぇんじゃねぇのか?」
回想しながら答えるラツンジパに、レピは首を横に振る。
「いや、そうでもないみたいなんだ。真っ先にリエネさんが狙われて、次にシェリルさん。その後、殴り飛ばされたシェリルさんの所に行こうとした時、僕も狙われた。──けど、君は同じことをしても狙われなかった」
「そうだったか?そんなこと気にしてる余裕なかったけど…なんでだ?」
「僕の推測だけど…"マキューロの匂い"だと思う」
「マキューロの?」
首を捻るラツンジパに、レピは続けた。
「あぁ。国外の人であるシェリルさんやリエネさんからは当然、マキューロの匂いはしないだろう。だから狙われたんだと思う」
「待てよ、それなら兄ちゃんだって狙われないんじゃねぇのか?」
「僕はしばらくマキューロを出ていたから、匂いが薄れていたんじゃないかな。それでも完全に消えた訳じゃないから、僕から仕掛けるまで狙われなかった。つまり生きたまま放っておいても、マキューロ人が被害を受けることはないはずだ」
「な、なるほど…?だとして、なんだって魔物が…」
依然として疑問が尽きないラツンジパに、レピはゆっくりと頷いた後、リエネにも視線を配り、答える。
「ここからが"考え事"です。リエネさんも聞いてください」
「分かってる。話せ」
「…これも推測に過ぎないけど、"アレ"はたぶん、魔物ではありません」
無言のまま少しの間が過ぎ、二人はようやく、疑問を声に変え、絞り出した。
「な…なんだと?」
「何言ってんだよ兄ちゃん…。どう見てもただの獣じゃねぇよ、あんなの」
「ならラツンジパは、魔物が"魔法"ではなく"魔術"を使う方が納得できるかい?」
「あ…」
レピの指摘にラツンジパが絶句する横で、リエネは苦い顔で小さく数度、うなずく。
「そうだったな…」
「"アレ"は明確に、"オレム"と言っていた。…魔法を使えない人間が、外から力を借りてまで擬似的に再現したに過ぎない魔術を、だ」
「…」
沈黙する二人に、レピは淡々と続ける。
「仮に"魔術が使える"こと自体に目を瞑るとしても、魔物なら──つまり魔法が使えるなら、わざわざ魔術を使う必要がないんだ。再生し続けていた辺り、魔力が尽きていた訳でもないからね」
しかしリエネは、自らの経験を根拠に食い下がった。
「…待て、全ての魔物が魔法を使う訳ではないはずだ。私が戦った魔物の中には、逃げ帰るまで一度も魔法を使わなかったヤツだって少なからずいた」
「そ、そうか…。あんた、ハリソノイアで魔物の相手してたんだったな」
「あぁ。実際に魔物を相手取った経験で言えば、レピより数段は豊富だと自負している」
リエネの反論に対し、レピは頷く。
「確かに、"魔法を使えない魔物が、代替として魔術を使った"という可能性を、完全に否定することは出来ません。──それも、"魔術を使える"こと自体には、目を瞑った上での話ですが」
「…」
レピが"目を瞑る"と言う"前提"の異質さに、リエネも押し黙らざるを得なかった。
リエネの反論が止まったことを確認すると、レピは続けて切り出す。
「ラツンジパには分からないかも知れないけど、"アイツ"にもボロガブザリや巨大生物と共通する"特異性"がありました」
ラツンジパは、ここまでの道中で聞かされてきた、過去の戦いの話を振り返る。
「確か、近くにいる魔物に反応して教えてくれるはずの"シェリルの剣とスウォルの盾が反応しない"ヤツらだよな」
「あくまで"恐らく"だがな。少なくともボロガブザリの時は、ヤツら自身に反応したのか、側にいた他の魔物に反応したのかは確認できておらん。他に今まで確認できている"特異性"は──」
ラツンジパの解釈に補足し、リエネはそのまま情報の整理を始めた。
「"再生が遅く"、"剣と盾に触れず"、"死ぬまで退かず"、"死骸が崩れ落ちる"こと。…いずれも今回は不明だが。再生は遅かったような気もするが、気にしてる余裕はなかったな…」
「あの状況です、仕方ありません。ですので、安易に"アレもボロガブザリの近縁種だ"などと言うつもりはありません。…むしろ、その方がマシなんですけどね」
レピは顔を顰め、呟く。
「マシ?…どういう意味だ」
「僕は…アレは"マキューロ人ではないか"と考えています」
「…は?」
リエネとラツンジパは、気の抜けた間抜けな声を揃えた。
「正確に言うなら、"かつてマキューロ人であったモノ"でしょうか」
「ま…待ってくれ!何を言って…そんな訳…!」
「落ち着いてくれ、ラツンジパ。何度も言うが、これは僕の推測でしかない。あくまでも、"最悪の可能性"だと考えてくれ」
「んなこと言われたってよ…!ニオイってんなら、アイツからマキューロのニオイなんて──」
「しなかった、かい?…本当にそうだった?」
「…どういう意味だ?」
ラツンジパが言葉にしようのない混乱に飲み込まれる一方、リエネは衝撃を受けながらも、冷静にラツンジパの言葉を振り返る。
「さっき言っていただろう。"色々なモノをごちゃ混ぜにしたようなニオイ"だと。その"色々なモノ"の中に、マキューロのニオイってのが混じっていたとしたら…嗅ぎ分けることなど出来るのか?」
「…」
ラツンジパの絶句を肯定と受け取り、リエネは納得したように頷いた。
「…それで"シェリルが起きる前に"か」
「えぇ。シェリルさん自身が斬った訳ではないというのに、リエネさんを…その──」
「人殺し」
言い淀むレピに、リエネは敢えてハッキリと、シェリルが自らに投げかけた言葉を繰り返す。
「…はい。私見ですが、シェリルさんはリエネさんのことを強く信頼していると思います。…その言葉も、決して本心では──」
「分かってる。…余計な気遣いはいい、続きを話せ」
「…」
気丈に先を促すも、リエネが傷を負っていることは、新参のラツンジパにも見て取れた。
「…すみません。ともかく錯乱していたとは言え、自分の代わりに戦い、敵の首を落としたリエネさんに対してまで、その様な暴言を吐いてしまうのですから──"今後、怪物に成り果てたヒトと戦うかも知れない"と聞かされて、耐えられるとは思えません」
眠り続けるシェリルを哀れむような目で見ながら、レピは首を横に振る。
「…まったく、嫌になるな」
リエネも同様、シェリルの顔を見ながら、大きくため息をついた。
「…なにがだよ」
「シェリルの為にと、隠し事が増えていく。私はそういうの、あまり得意じゃないんだがな…」
ラツンジパの質問に、リエネはシェリルの髪を優しく撫でながら答える。
「まだ16歳の子供ですから。真実だけを背負わせるには、あまりに若い」
「…分かってる。文句はないさ」
「ラツンジパも、不用意なことは言わないように気を付けてくれ」
「そうだな…。それ以前に、俺自身も飲み込めてねぇんだけどよ。…なぁ兄ちゃん」
すっかりと肩を落としたラツンジパは、レピに問い掛けた。
「あぁ、なんだい?」
「マキューロ人があんな…魔物か、違うにしてもバケモノみてぇになっちまうなんて話、俺ぁ一回も聞いたことねぇよ」
「…僕もないよ」
「本当に有り得るのかよ?そんなことがよ…」
縋るように、弱々しく声を震わせるラツンジパに、レピは目を閉じ、大きく息を吐き出してから答える。
「分からないよ、ラツンジパ。有り得ないとも、有り得るとも、今の僕には答えられない」
「…」
「分からないからこそ、その可能性を排除しちゃいけないんだ」
レピが心を押し殺し、ピシャリと言い切ると、リエネは懐かしむように目を細めた。
「"何が分からないかを正しく認識する"、そして"答えを無理矢理決め付け、分かった気にならない"…か」
「はい。僕の見当違いならそれに越したことはありませんが、少なくとも想定しておけば心構えは出来ます」
「心構えって言われてもよぉ…」
「んん…」
ラツンジパが、尚も飲み下せない様子を見せ中、眠っていたシェリルが呻き声と共に、僅かに身をよじる。
「む…目を覚ますか。ラツンジパ、受け入れるのは簡単なことではないだろうが、シェリルの前では──」
「わ、分かってる…!正直、自信はねぇけど…」
リエネの忠告を遮り強がって見せるラツンジパだったが、不安を隠しきることは出来なかった。
「ん…ここは…?」
そんな中、シェリルが目を擦りながら体を起こす。
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次回は6月8日19時にXでの先行公開を、9日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
目を覚ましたシェリルは体調に問題はないとしつつ、”何があったか覚えているか”と問われると、覚えていないと答えたにも関わらず、カタカタと全身を震わせる。
対応に悩むレピとリエネに、ラツンジパが提案したのは──。
次回「勇者(姉)の本心」




