#76 クレンとシャファルノール
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
活動報告における要約あらすじ公開は、先月にて更新を終了しました。
以降はnoteからお読みいただければ幸いです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
戦線離脱したシェリルをラツンジパに任せ、レピの援護を受けつつ人に似た”何か”と対峙するリエネ。
戦闘の末、地面に固定し、氷漬けにしたレピの言葉に従い、討伐せず、放置して先に進むことに。
錯乱するシェリルを雷の魔術で気絶させ、担いでシャファルノールへ歩みを進める。
僅かに時は遡り、人に似た姿の”何か”にシェリルが殴られ、心折れた頃──。
「クレンさん…ですのね。よろしくお願い致します」
「よろしく」
”クレン”と名乗った、掴み所がなく──どこか不気味な雰囲気さえ纏う少女に対し、”リリー”を名乗るリリニシアと、次いでスウォルが挨拶を投げ掛ける。
「うん」
「クレンさんは、ここにお住まいなんですの?」
「そうだよ。ずっとそう」
「そうでしたか」
クレンの返答を受け、リリニシアは考える。
ラツンジパさんは”若い世代は大体が、レピさんの言う革新主義者”だと仰ってはいましたが…続けて”地域に依る”とも仰っていました。
全員が”原理主義者”である元老院のお膝元であるシャファルノールで暮らして来たという以上、若い…どころか幼い彼女も、思想は原理主義だと考えるのが自然でしょうか。
にしては、ルヴィニケンプ様のような、排他的な意識が感じられませんが…。
「ふふっ…むずかしい顔」
自らを無言で見つめ、考え込むリリニシアを、クレンは笑う。
「え、あ…そ、そうですかしら?」
「うん、とっても。まるで──私が敵か味方か、見極めようとしてるみたい」
「…そんなことは──」
「あははっ」
リリニシアの反論を聞こうともせず、クレンは楽しげに笑い続けた。
「おいリリニ…あー、リリー。この子なんか──」
スウォルが耳打ちしようとするのを遮るように、クレンは手招きする。
「来て」
「え?」
「元老院に会いたいんでしょ?着いて来て」
「会えるんですか!?」
「…あはっ」
リリニシアの問いに笑い声で答えると、クレンは二人に背を向け、脚を動かし始めた。
「あ、おい!…どうするリリー。なんか変だぜ、あの子。ここが本当にシャファルノールなのかもわかんねぇし」
「一面、今までと変わらない森でしかありませんものね…。こんなことなら、レピさんにシャファルノールの特徴、聞いておくんでしたわ」
「…来ないの?」
二人が着いてきていないことに気が付いたクレンは、クルッと振り返り、可愛らしく首を傾げる。
その愛らしさも、今の二人にとってはただ、薄気味が悪かった。
「…スウォル」
「ん?」
「いざとなったら、守ってくれますかしら」
「!…任せとけ」
「頼りにしてますわ」
二人は視線を合わせ頷き合うと、クレンに続いて歩き始める。
「お待たせ致しました、クレンさん」
「何のお話してたの?」
「…シャファルノールって、森なんだね、って話ですわ」
「へぇ、それだけ?」
「えぇ」
「そっかぁ。──私が敵だったらどうするのか、相談してるのかと思っちゃった。…ふふっ」
依然として、全てを見透かすように笑うクレンに、リリニシアは尋ねた。
「クレンさん、お若く見えますが…もしかして凄腕の魔術師だったりなさいます?」
「え?どうして?」
「”腕のいい魔術師には、自然が真実を教えてくれるから嘘が通じない”と聞きましたもので」
「それもルヴィニケンプに聞いたの?」
「…えぇ、そうです。お知り合いですの?」
クレンは悩む仕草を見せた後、少しの間を置き、再び笑う。
「うん、知ってるよ。若い頃から」
クレンの返答を受け、思わずスウォルが声を上げた。
「え、若い頃?あの婆さんの?でも君まだ──」
クレンはピタリと足を止め、バッと二人に振り返る。
「あれ?…お兄さん」
「え?な、なんだ?」
「お兄さんって、人?」
「…え?」
小首を傾げながら尋ねるクレンの顔に、先程までの不気味ながら愛らしい笑顔はない。
暗く沈んだ瞳でまっすぐ見つめながら繰り出される質問に、スウォルは言葉を失う。
「な、なにを──」
「人ですわ!!」
声を張り上げたのは、リリニシアだった。
「どう見たって人じゃありませんの!変なことを仰らないでくださいますこと!?」
「リリニシア…」
「スウォルも!動揺してんじゃありませんわよ!"当たり前だろ"ってハッキリ言いなさいな!」
「悪い…」
「ふふっ…そっか。ごめんね?けど、気を付けないとね、お兄さん」
再びスウォルが視線を向けると、クレンはまた笑っていた。
「気を付ける?」
「そうでしょ?リリニシアお姉さん」
「あ゛」
二人は顔を見合わせ、声を揃えた。
「よ、呼ぶなって言ったでしょう!?」
「悪いって!ついポロッと…!」
「あははっ。かわいいなぁ、二人とも。…でもお兄さん、本当に気を付けてね?」
「あ、あぁ…そうだな、油断するとつい…」
「ううん、呼び方じゃなくて」
「え?じゃあ、なんに?」
前に向き直り二人に背を向けたクレンは、再び足を動かしながら言う。
「…あはっ」
「誰かいるのか?」
クレンが笑うのと同時に男の声が聞こえ、すぐに木々の隙間から声の主が姿を表した。
「…誰だお前たち!?マキューロ人じゃない…いや、一人は別か…!?」
三人の姿を認め、スンスンと鼻を鳴らし即座に警戒を示す男に、リリニシアは両手の平を見せ、敵意がないことを示しながら男の問いに答える。
「ちょ、ちょっとお待ちください!ワタクシたちは敵ではありませんわ!く、クレンさん!ワタクシたちが無害だって説明してくださいませんこと!?」
「…クレンだと!?」
クレンの返事を待たず、男はその名に、過敏に反応した。
「そ、そうです!彼女はマキューロ人ですわ!」
「お、おい…君も何か話してくれよ…!」
「…あはっ」
目の前の男に呼ばれたマキューロ人に取り囲まれる中、スウォルに懇願されたクレンは、またも楽しげに笑う。
「このガキ…こともあろうに、メジャルカ卿の名を騙ってやがるのか!」
「元老院の名を語るとはなんと不届きな…!」
「元老院!?」
男たちの口から飛び出た単語を、スウォルとリリニシアは声を揃えて繰り返した。
二人の驚きなど知ったことではない男たちは、動揺する二人に詰問する。
「何を白々しいことを…!貴様らは何者なんだ!?」
「あ…わ、ワタクシたちはヤクノサニユ王ゼオラジムの命で使者として、元老院の皆様にお会いすべくやって参りました!」
「ヤクノサニユからの使者だと…?なんの用で来た!」
「国家同士のこと、皆様にお話することは出来ません!ですが、マキューロの皆様を害する目的でないことはお約束できますわ!」
両腕を開き、必死に敵意がないことを表現するリリニシアに、男の一人が尋ねた。
「名は?」
「わ、ワタクシはリリーと申します」
「スウォルだ」
「ヤクノサニユから二人で来たのか?」
「いえ、他に仲間が三人おりますが、はぐれてしまいました。その三人も、ここに向かっているはずです。その内の一人はマキューロ人ですわ」
一人の男がリリニシアと問答を繰り広げる中、他の男たちは小さな声で、"どうする"、"信用出来るのか"と囁き合う。
クレンは彼らに向けて、一切の笑みを浮かべず真顔で言い放った。
「どうするも何も、おじさんたちにそれを決める権限なんてないでしょ?」
「なんだと!?」
「連れて行かなきゃダメでしょ?元老院のところに」
「このガキ…っ」
男たちはクレンに言い返せず押し黙り、互いを見合う。
先程までリリニシアと問答していた男が、ため息と共に答えた。
「…その通りだ。分かった、俺が連れて行く。だが手首は繋がせてもらうぞ」
「もちろん、構いませんわ」
「両手首を背中で合わせろ。…拘束・土の魔術」
男が唱えると、従ったリリニシアたちの足元から土が登り、体を這いずりながらやがて手首に辿り着くと、力強く固定する。
「…土に這い回られるの、イヤ〜な感覚ですわ」
「同感だけど仕方ねぇよ。我慢してくれ、リリー」
「ふふっ」
「無駄口も叩くんじゃない」
同じ失態を繰り返さぬよう、スウォルは油断しないよう意識を集中し、”リリー”を呼んだ。
両腕を固定され、先導する男の指示に従い口を開くことなく森の奥に少し進むと、三人の前に大きく口を開ける洞窟が姿を見せた。
「止まれ。いいか、勝手なことはするなよ」
男は三人に言い含めると、洞窟に向け、大きな声で言う。
「ヤクノサニユからの使者を名乗る者共をお連れしました!いかがなされますか、ジスタム卿!」
それからまもなく、洞窟の奥から一人、壮年の男が姿を現れた。
「ヤクノサニユの使者?」
「はっ。この者たちです」
見たところ50代と言った風貌の”ジスタム卿”に、リリニシアとスウォルは口を開かず、静かに頭を垂れる。
「しかしこちらの幼い少女に限り、ヤクノサニユではなく──」
「あぁいい、もう結構。こちらのお三方のご対応、私が預かろう」
「ですがメジャルカ卿の名を──」
「結構だと言っている。拘束を解いて差し上げなさい」
「…はっ」
不服を隠さない様子ながら、男は三人の手首を解放した。
「お三方、中へ」
ジスタム卿に促され、共に洞窟の奥へと進む三人。
しばらく歩き最奥に辿り着き、ジスタム卿は手頃な岩に腰を下ろした。
「さて、色々と伺わねばなりませんが、最優先で改めるべきは…ご説明いただきましょうか、メジャルカ卿」
「えー、もうバラすの?もうちょっと遊ばせてよ〜」
「個質魔術まで使って、他国からの使者で遊ばないでいただきたいものですな…。よりにもよって、元老院の一人ともあろう貴方が」
スウォルとリリニシアの目の前で、ジスタム卿は確かに、クレンに向けて”元老院の一人”と言い放った。
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~次回予告~
男たちと同様、クレンを”メジャルカ卿”と呼び、”元老院の一人”だとも言うジスタム卿。
驚くスウォルとリリニシアの前でクレンは、ジスタム卿に対して親しみを通り越し、馴れ馴れしささえ感じさせる口調で答える。
次回「”主”の勇者と”従”のお姫様」




