#75 三度目の──
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
活動報告における要約あらすじ公開は、先月にて更新を終了しました。
以降はnoteからお読みいただければ幸いです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
スウォルとリリニシアが出会った少女は、現在地がシャファルノールだと語り、自らの名を少し迷った末、”クレン”と名乗った。
一方、シェリル、レピ、リエネ、レツンジパが出会ったヒトに似た怪物は、魔術を使い四人を愕然とさせ、シェリルに痛撃を見舞う。
シェリルの心が折れてしまう中、リエネは切り落とした腕が朽ちて崩れたことから、”魔力核を破壊せずとも倒せる”と判断し、レピに援護を任せる。
「ボロガブザリやあのデカブツと同じ…!魔物だったとしても、シェリルの剣じゃなくても殺せる種類ってことだ!援護しろ、レピ!」
「くっ…分かりました!」
”何か”と睨み合うリエネの依頼に頷いたレピだったが、彼の頭の中にはひとつ、無視しがたい大きな疑問が横たわっていた。
僕がシェリルさんに駆け寄ろうとしたのを見て、アイツは足元の土を僕に向けて蹴飛ばし、妨害してきた。
決して腕を落とされた苦痛から出た、苦し紛れの行動ではない。
明確に僕を狙っていた。
──にも関わらず、何故…同様に走ったラツンジパには見向きもしなかった?
性別で区別し、女性を狙っているのかとも考えたが──それなら逆に何故、僕に向けて土を蹴飛ばした?
何かあるはずだ、性別以外の条件が。
ラツンジパは狙わず、シェリルさんやリエネさんを狙う条件。
そして僕が狙われない側から、狙われる側に変化した条件が──。
「もう一度だ!今度は魔術を使う隙など与えん!」
「はい!氷の魔術!」
必死に条件を探りつつも魔力を扱うだけの集中は途切れさせず、レピはリエネの指示に従い、右腕の断面を凍らせる。
凍りついた右腕を見た”何か”も、先ほどと同様、魔術で対処しようとするが──。
「火の──」
「させん!!」
右腕に意識を奪われた隙に、今度は地面スレスレに斧を走らせ、左の足首を斬りつけた。
緩んだ地面の影響で力を乗せきれず切断には至らなかったものの、表皮から七割ほど深く、その肉を抉る。
「──!!!」
深く穿たれた右足では体重を支えきれず、”何か”は崩れ落ち、右膝を地についた。
「──!!」
「こっちも貰うぞ!」
眼前に迫る振るわれた右腕の、凍り付いた断面をしゃがみ込んで躱したリエネは、斧を返してもう一歩踏み込み右足の膝下を、今度は両断する。
支えを一点失った"何か"は大きな音を立て、文字通り"足元を掬われ"仰向けに倒れた。
「土の魔術!」
「──!!!」
レピはすかさず地面を鋭く尖らせ、まず背中から胸に掛けてを次に両腕、両足を貫き、"何か"の体を地面に縫い付ける。
「リエネさん首を!!」
「でやぁああ!!」
レピの指示を受ける前に首元へ走っていたリエネは、振り上げた斧を思い切り、"何か"の首に叩き下ろす。
断末魔の叫びを上げることもなく、"何か"の首と胴体は分かたれた。
即座に首の断面を凍結させ、レピはリエネを呼び寄せる。
「どうだ…?」
「体の崩壊が始まりませんし…見てください、両足の再生も始まっています」
抉られた足首は既に繋がり、落とされた膝下の傷は蠢き、血液を撒き散らしながら、少しずつ肉塊が伸びてゆく。
「まだ死んじゃいない、か…。気色の悪い…!足の傷は凍らせないのか?」
身動き一つ取らずにいる、首を失った"何か"の体を油断なく睨みつけながら、リエネが尋ねる。
「倒すのを目指す上で、すべての再生を防いでしまっては魔力を浪費させることが出来ないと思いまして」
「…そうか、殺す為にはむしろ再生させ、魔力を枯れさせねばならん」
「えぇ。──シェリルさんの剣でもなければ」
「…」
警戒をリエネに任せ、レピはチラリと、ラツンジパとシェリルに視線を向けた。
「すげぇ…!リエネさんもそうだけど、兄ちゃんも…!」
視線の先でラツンジパは、背後にシェリルを庇いながら感嘆の声を漏らす。
「おい、見たか!あの二人!行けるんじゃ──」
「おぇええ…!!」
そんなラツンジパの興奮を、シェリルの嘔吐がかき消した。
「シェリル!?」
「けほっ…!はっ…はぁ…!く、首…!嫌ぁ…!!」
シェリルはこれまでに二度、魔物の首を斬り落とす様を目にしてきた。
一度目はハリソノイア北東の防衛戦での戦い。
その時は心理的な抵抗を無理矢理に捻じ伏せ、魔物の胸──魔力核に剣を突き立てた後。
その時も嘔吐したが、それは初めての"自らの手で命を終わらせる感触"に対してのもの。
その感触でいっぱいいっぱいで、直後に意識を失ったこともあり、首を落とした後のことなんて、気にしている余裕もなかった。
ユミーナの下に届ける過程で、何度も落とした首を目にしたが…。
二度目はマキューロに入ってから、巨大生物との戦い。
スウォルとリリニシアが崖崩れに巻き込まれ、激昂に任せ自ら首を斬り落とし、死後の亡骸が崩れるまで、何度も肉を斬り刻んだ。
過去の二度と今とでは、シェリルにとって決定的な違いがあった。
さも、人の首を斬り落としたように見える。
頭では理解している。
魔術を使いこそしたが、斬り落とされた四肢さえ再生して見せた。
ラツンジパの治療がなければ死んでいたような威力で殴られた。
似ているだけで、決して同種ではない。
理解していても──理性を超えた本能が、目の前の光景の許容を拒んだ。
「シェリル…」
ラツンジパは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。
「…ダメだな。シェリルは使い物にならん」
「冷たい言い方ではありますが、そのようですね…」
「なんにせよ、動けない内に全身ズタズタにしてやるだけだ。魔力が枯れるまでな…!」
「──いえ」
決意と共に斧を強く握るリエネに、レピは待ったを掛ける。
「ヤツは放置して先に進みましょう」
「なんだと!?正気かお前!?氷が溶けて再生したら近場のマキューロ人を襲うぞ!!」
「おそらくその心配はありません」
表現を曖昧にしながらも力強く言い切るレピに、リエネは困惑を深めた。
「…どういうことだ」
「戦いの中で考えてたんです。何故ヤツは最初、僕を無視してシェリルさんとリエネさんを狙ったか。何故ラツンジパは狙われず、僕は狙われるようになったか」
「今は御託を聞いてる余裕はない。結論を言え」
リエネに急かされ、レピは頷きながら答える。
「性別で相手を選んでるのかと思いましたが…おそらく違う。"におい"です」
「におい?」
「シェリルさんとリエネさんは他国人だからにおいが違い、狙われた。僕はマキューロ人ではありますが、これまでヤクノサニユやハリソノイアを回った内に他国の"におい"が混じり、魔術で攻撃を仕掛けたことで敵だと見なされた」
「そう言えば前も"ティサンのにおい"がどうこう言ってたな…」
自分の腕に鼻を近付けスンスンと鳴らして嗅いでみるリエネに、レピは続けた。
「それに対してラツンジパはずっとマキューロにいて"におい"の純度も高く、魔術も足元を歪めるだけで攻撃はしていない。だから狙われないんです」
「…待て、その理屈だとコイツは…」
辿り着いた可能性に声を震わせるリエネに、レピは再び、小さく頷いた。
「外敵からマキューロを守護している。…そう表現することも出来ます」
「バカな…魔物が、国を守護だと…!?」
「本当に魔物…でしょうかね、コイツは」
「だとしたら…スウォルとリリニシア様は!?二人もコイツから見れば外敵…!」
レピの呟きも耳に入らず、リエネは先行していた二人が、既に襲われた可能性に思い至る。
レピは首をゆっくりと横に振った。
「…その可能性はあるかも知れません。それを確かめる意味でも、今は先を目指すべきかと」
「くっ…!」
「現時点でどれだけの魔力を残していて、どの程度の傷を、あと何回再生できるのかも分かりません。ボロガブザリやあの化け物は、たまたま切れかかっていたから手早く倒せただけかも知れない…」
「…分かった、お前に任せる」
「ありがとうございます。そうとなれば…中級・氷の魔術」
魔力を枯渇させる方針を捨てたレピは、より溶けるまでの時間を稼ぐため、全身を覆う巨大な氷柱に"何か"を閉じ込める。
「これで、当面は身動きも取れません。少なく見積もっても、僕たちがシャファルノールに着くまでは」
「…スッキリしない決着だ。おい、レピ」
リエネは舌打ちと共に、斧を背に納めると、レピに手招きしながらシェリルとラツンジパの元へ駆け寄った。
「大丈夫か、シェリ──」
「嫌ぁぁあああ!!来ないで…来ないでぇ!!」
声を掛けようとするリエネを遮り、シェリルは頭を抱え、縮こまる。
「錯乱してるか…。落ち着け!私だ、リエネだ!」
「来ないで…!人殺しぃ…!!」
シェリルの言葉に、リエネはカッと目を見開いた。
「っ…落ち着けと言うんだ!アレは人じゃない!」
「お、おいシェリル…!」
声を荒げるリエネとの間に、さっとラツンジパが割って入る。
「アンタが言ったんじゃねぇか、人殺したことねぇって!しっかりしてくれ!」
「嫌ぁ…!来ないでよぉ…!父さん…スウォルぅ…!」
尚も不在の二人に助けを求めるシェリルの背後から、レピが首筋に掌をかざした。
「失礼します。…雷の魔術」
「!!」
一瞬、ビクンと体を強張らせた後、シェリルの体はレピに寄り掛かる形で弛緩する。
「おいレピ!?」
「大丈夫だ、気絶させただけだ」
動揺を露にするリエネに、ラツンジパは両掌を向けながら語り掛けた。
張本人のレピも、優しくシェリルの体を抱き止め、続ける。
「少々乱暴ですが、埒が開かなさそうなので。…彼女には時間が必要でしょう。…リエネさん、申し訳ありませんがシェリルさんを運んでいただけますか?」
「…あぁ」
少し悲しそうな顔で、リエネは弱々しく頷いた。
レピもそれを受け、やりきれない表情のままラツンジパに向き直る。
「ラツンジパ、進もう」
「え!?放っとくのか!?」
「大丈夫だ。詳しいことは後で説明するよ」
「…けどよ、どうすんだ?アレ」
「アレ?…あ」
ラツンジパの指差す先には、シェリルの持つ勇者の剣が転がっていた。
「シェリルしか触れねぇんだろ?寝かせちゃ運ぶことも出来ねぇんじゃねぇか?」
「あー…こう、シェリルさんの手を上から握って、触らないようにとか…。あ、土の魔術で持ち上げて…?」
「鞘には触れる。そんなことせんでも切っ先を引っ掻けて持ち上げて、滑らせて納めればいい」
シェリルの鞘を手に取ったリエネは少々手間取りながらも、無事に剣を鞘に納めることに成功。
その後シェリルを肩に担ぎ、歩き始めた。
ラツンジパと、疑念を抱くレピと共に──。
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~次回予告~
シェリルが殴られ心折れたのと同じ頃、スウォルと”リリー”を名を偽ったリリニシアは、クレンと名乗る少女との対話を試みていた。
クレンが原理主義者か確信主義者か、対応を見極めようとするリリニシアに、クレンは──。
次回「クレンとシャファルノール」




