#72 侵食
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
活動報告における要約あらすじ公開は、先月にて更新を終了しました。
以降はnoteからお読みいただければ幸いです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
二手に別れたシェリルとリエネ、レピとラツンジパは奇しくもそれぞれ、ハリソノイア大王ユミーナについて言及していた。
ラツンジパがレピとの会話を終え眠るところに戻ってきたシェリル達の表情は暗い。
見張りを買って出たレピは二人にさせたことを悔いながら、二人が眠りに落ちるのを見守った。
シェリルとリエネ、レピとラツンジパが、それぞれ言葉を交わしていたのと同じ頃──。
「そろそろ休みましょうか、スウォル」
「…あぁ、そうだな」
先行するスウォルとリリニシアも、手頃な場所を見付け、休息を取る準備に取り掛かっていた。
「…なぁ、リリニシア」
「なんです?」
「その…いや、なんでもねぇ」
「まだ転がしてたこと根に持ってますの?悪かったと言ってますのに」
「そうじゃねぇよ…」
村を出てまもなくの会話が消化できておらず、腰を下ろした二人はややギクシャクとした雰囲気を漂わせる。
「じゃあなんですの?」
「リリニシアは、覚えてんのか?崖から落ちて、どうやって助かったのか」
「言ったでしょう。気が付いたら地上にいて、どうやって地上に辿り着いたのかは分かりません」
「…そうだったな」
そう言うと、スウォルは深く項垂れ、大きく息を吐いた。
「それがどうしたんですの?」
「いや…なんでもねぇ」
「アナタね…。何年の付き合いですの?ワタクシがそれで納得すると、本気で思ってる訳じゃないでしょう?」
「…」
リリニシアの追及に、スウォルは小さく、首を横に振る。
「なんか…分かんねぇんだ」
「はい?」
「何がか、は分かんねぇんだけどさ。…なんか、怖くてよ」
「…怖い?」
スウォルの口から飛び出た似つかわしくない単語に、リリニシアは思わず聞き返した。
「どういう意味だったんだ、アレ」
リリニシアの問いに答えず、スウォルは尋ねる。
「なにが…?」
「“ちゃんとスウォルだ”っつってたの」
「…!」
リリニシアは静かに、目を見開いた。
「俺は…寝てる間、俺じゃなかったのか?それとも、寝る前か…?」
スウォルが目を覚まし、らしさを見せた直後の、心底の安堵からポロリと溢れた本音。
迂闊だったと、リリニシアは悔いた。
「なぁリリニシア…。何か知ってるんじゃないのか…?」
「な…何を言ってるんですの。スウォルはスウォルに決まってるじゃありませんの!」
「じゃあアレは…どういう…?」
「それは…その、長く意識を失った後、人格が変わってしまうことがある、なんて話を聞いたことがあるものですから…そうでなくてよかった、と。それだけの話ですわ!」
「…」
敢えて明るい声色で語るリリニシアを、スウォルは横目でチラリと眺め、再び視線を落とす。
「…夢を見た気がすんだ」
「夢…?」
「起きてから時間が経って、なんとなく…変な話だけど、寝てる間のことを思い出してきたっていうか…分かってもらえねぇかもしんねぇけど──」
「…」
「盾に飲み込まれちまうような…そんな感覚で…」
「…!」
対照的に弱々しい声で、自らの左腕と盾を見つめるスウォルに、リリニシアは息を飲んだ。
スウォルの語る“夢”が、自らが見た異形の──盾とスウォルが一体になっていた姿と符合したからだ。
「な…何を言ってるんですったら!ただの…悪い夢ですわ、そんなの!」
リリニシアは努めて、明るい声を出し続ける。
“声が震えてはいないだろうか”と内心、怯えながら。
「分かってる。分かってるけど…」
「スウォル…。──2日も眠っていたということは、それだけ疲労が溜まっていたのでしょう。そんな状態なら、誰しも悪い夢のひとつくらい見ますわよ」
「…」
「不安になるのも当然です。──ワタクシが、側にいますから」
「リリニシ──え…?」
自らの“不安”を誤魔化すように、リリニシアはスウォルを柔らかく抱き締めた。
「大丈夫、一人じゃありません。ワタクシがいます。シェリルやレピさん、リエネさんも、きっと無事なはずです。ですから…大丈夫ですわ、スウォル」
「リリニシア…」
「…もう、情けない声。スウォルらしくありませんわよ?小さい頃から言ってたじゃありませんの、“俺が世界を救ってやる!”…でしょう?」
「…」
「今日はこのままお眠りなさい。ワタクシがついています。また悪い夢にうなされるようなら、魔術で叩き起こして差し上げますわよ?」
「…ははは。頼もしいな。ありがとうな、リリニシア」
「えぇ。おやすみなさい、スウォル」
リリニシアの腕に抱かれ、脳裏で彼女が発した言葉を繰り返しながら、スウォルの意識は遠のき、やがて眠りに落ちた。
“ちゃんとスウォルですのね”。
“スウォルらしくありませんわよ”。
──俺らしいって…なんだ?
俺らしくなくなっちまったら、もう俺じゃねぇのかな…?
一方、スウォルが寝息を立て始めた事を確認したリリニシアは、ほっと胸を撫で下ろしながら、ゆっくりと横たわらせ、考える。
スウォルの言う”夢”…。
ワタクシが見たあの姿と無関係だとは、到底思えません。
スウォル自身が認識していなかった、”崖から落ちた当時の記憶”が蘇ってしまったのでしょうか。
あるいは──盾がスウォルの意識に働きかけた…?
普通に考えれば荒唐無稽な話ではありますが…あの盾、どう考えても”普通”ではありませんもの。
先日の大きな怪物のような例外もあるようですが、魔物の接近を感知し、光って震える機能。
ハリソノイア北東での戦いで見せた、魔法による火球の吸収──に見えた現象。
その際、強靭な魔物の拳を受け止めたり、怪物との戦いでは振り回される首を受け流して凌いだり…明らかに人の物と思えない、異常な力も見せた。
そして…スウォルの言葉を借りるなら"飲み込まれ"…侵食されたような、あの姿。
──いえ、それ以前の、そもそもの話。
”千年前の勇者のものだから”と考えることもせずに受け入れていましたが…スウォル以外は弾かれて触れることも出来ない、という時点で普通の──いえ、まともな盾ではない。
スウォルの盾だけの話ではありませんが──。
そこまで考え、リリニシアはハッと顔を上げた。
シェリルの…剣…!
そうですわ、千年前に勇者が使っていた盾がスウォルをあんな姿に変化させたのだとしたら…剣を使うシェリルも…!?
あちらはあちらで、通常の武具では起こり得ず、歴戦のグラウム様ですら聞いたことがないという"魔術増幅"なんて異常な現象を…!
アレだって、"何をすれば発生するのか"は明らかになりましたが、"何故そんな現象が発生するのか"は謎のまま…。
…いったいなんなんですの、勇者って。
二人はいったい──
「何を背負わされているんですの…?」
スウォルの盾を見つめるリリニシアがふと漏らした呟きに、答える者はいなかった。
────────
同時刻、シェリルが寝息を立て始めると、見計らったかのようにリエネが上体を起こした。
「…休める時に休む、ではありませんでしたか?」
左の人差し指の先に小さな火の魔術を灯し、右手で本を捲りながら、レピは小声で尋ねる。
「眠れない時くらいある。それは…ユミーナ様から受け取った本か?」
「はい。ラツンジパのお祖母様が仰った"ロガーメーポ"なる人物とお会いする前に、"禁じられた魔法"に関わる記述を見落としていないか、再確認しておこうと思いまして」
「何かありそうか?」
「残念ながら。…どうしたんです?」
レピは首を横に振って答えると、質問を返した。
「僕の考えるリエネさんなら、眠れなかったとしても、諦めて無駄話するより少しでも心身を休めることに注力しそうな気がしますが」
「…私は失敗したのかも知れない」
リエネは大きく息を吐き、シェリルの寝顔を伺いながら悔恨を滲ませる。
「失敗、ですか」
「話すべきではなかったのかも知れない」
「いったい何の話を?」
「私と…ユミーナ様の、その…過去だ」
首飾りを握り締めながら、口にするのが嫌そうに、リエネは辿々しく言葉を区切り、答えた。
「お二人の、過去ですか」
「あそこまで話すつもりじゃなかった。…きっと、話すべきでもなかった」
「…だとしたら、僕のせいでもあります」
「…なに?どういう意味だ?」
無関係なはずのレピの自白に、リエネは困惑しながら尋ねる。
「正直な所、ユミーナ様とリエネさんの関係が、ただの"大王と挑んで返り討ちにあった戦士"じゃないことには、僕も気が付いていました。もちろん、具体的な間柄までは分かりませんが」
「…」
「リエネさんが北東への同行を命じられ、準備で外している間、ユミーナ様は"リエネの忠誠は私ではなく国に対して"だと仰っていました」
レピは当時を思い返しながら、リエネに語って聞かせた。
「そんなことを…」
「それから"国を愛するが故に、国の流儀に則った上で破壊しようとする自分に従うしかない"とも」
「…」
「なんらかの理由でユミーナ様が嘘をついたのか、本気でそう思い込んでいるのかは分かりませんが…その評価が正確でないことと、リエネさんがユミーナ様に関わる何かを抱えていることは、僕にも分かっていたんです」
リエネに続き、レピも横目でシェリルを窺い見る。
「そしてシェリルさんも気が付いているだろう、と思っていました。リエネさんの抱える何かがあなたの心を蝕んでいて、僕が首を突っ込むより、シェリルさんに任せた方が得策だと考えていました。シェリルさんなら貴方の心を晴らせると楽観視していたんです」
「…」
「逆にシェリルさんが蝕まれ、侵食されてしまう可能性に思い至らなかった。気付けていれば、シェリルさんにすべて任せることはしなかったはずなのに。…僕のせいです」
レピは弱々しい声で懺悔し、項垂れた。
「結果論だ。お前は知らないのだから、気付けという方が無理な話だ」
「逆ですよ。知らないからこそ慎重になるべきだった。だからリエネさんだけの責任ではありません。僕も背負います」
「…済まん」
リエネの声が震えていたことに、レピは気付かないフリをする。
「謝らないでくださいよ。僕たちがシェリルさんの支えになり、償いましょう」
「あぁ…!」
肩の荷が少し、軽くなったリエネは再び横たわり、今度こそ眠りに落ちていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。
また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。
次回は24時頃にXでの先行公開を、5日19時に本公開を行う予定です。
よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。
~次回予告~
翌朝、目覚めたスウォルは立ち直った様子を見せ、リリニシアを安心させた。
4日後、シャファルノールについて話しながら二人を追うシェリル、レピ、リエネ、ラツンジパの四人に、一つの影が忍び寄る。
次回「それぞれの邂逅」




