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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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71/83

#71 ユミーナ・クオシャー

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。

noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。

復習などにご活用ください。

https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562


活動報告における要約あらすじ公開は、先月にて更新を終了しました。

以降はnoteからお読みいただければ幸いです。


以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

スウォルとリリニシアに遅れること2日、追って村を発ったシェリルたちを更に追いかけたラツンジパは、同行を願い出る。

リエネ──ハリソノイア人との確執に一度フタをし、行動を共にした最初の夜、シェリルは稽古としてリエネを連れ出し、ユミーナとの間柄を問う。

 "3歳の頃に拾われた"。

 ユミーナとの間柄を問われ、リエネが口にした答えに、シェリルは目を丸くし驚いた。


「え、3歳って言うと…18年前、ですよね?…ユミーナ様、お若く見えましたけど…?」

「今は29。当時は11歳だった」

「じゅっ…11って…ユミーナ様も子供じゃないですか!」

「あぁ。ちょうど戦で神槍…グラウム様と戦った帰りだったそうだ」

師匠(せんせい)と…」


 驚きに声が出ないシェリルに、リエネは頷きながら続ける。


「ユミーナ様は当時から、それこそグラウム様の記憶に今でも焼き付く程の力があったが…お前の言う通り、幼い子供。いくらハリソノイアでも、強いだけではどうにもならないことだってあった」

「…」

「力で奪えば、その場限りは解決するが…やがて孤立する。そうなれば、もう奪うことも出来なくなる。わたし(役立たず)を抱えて移動するのも楽ではない。だからユミーナ様は…奪うのではなく、取引を選んだ」

「取引…?」

「そうだ。なんの使い道もない私の為に、幼かったユミーナ様は…!」


 リエネは深く項垂れ、歯を食いしばりながら、首を小さく左右に振りながら語った。

 その様子を見て、シェリルはひとつの可能性に思い至る。


「リエネさん、まさか…ユミーナ様が──」

「やめろ!…やめてくれ。それ以上、言わないでくれ…」

「…」


 リエネが項垂れたまま拳を握りしめ、か細い声で答える姿を見て、シェリルは自身の胸の中に、ドス黒い感情が広がっていくのを感じていた。


「…そして、私がハリソノイアで生きていけるよう、力をくれた」

「力…」

「あぁ。拷問と言って差し支えないような、地獄のような…。当時は何度も泣かされたし、ぶつけた恨み言も数え切れん。手が緩むことはなかったがな」

「リエネさん…」


 形容とは裏腹に、大切な宝物を扱うように、リエネは目を細め、懐かしむ。


「気まぐれだった、と聞かされたことがある」

「…なにがです?」

「"神槍と楽しく()り合った直後でご機嫌だったから、気まぐれで拾った"と」

「…」


 やはり口にすべき言葉が見つからないシェリルをよそに、リエネは声を震わせた。


「私がユミーナ様の…いや、ユミーナ・クオシャーという、一人の少女の人生を狂わせたんだ」

「…な、にを…言ってるんですか…」

「本来ならユミーナ様は…取引になんて、手を染める必要はなかった…。たまたま神槍と戦った帰りに、私を見つけてしまったばかりに…!」

「やめてください、リエネさん…」

「私のことなど見捨てておけば──」

「リエネさん!!」


 制止を聞かず言葉を紡ごうとするリエネを、シェリルは叫び、遮った。


「ユミーナ様の前で同じこと言えますか!?」

「…っ」

「リエネさんのために、必死で泥を啜ったユミーナ様の前で!今の言葉、言えるんですか!?」

「それは…」


 リエネの脳裏に甦ったのは、出立前日、ユミーナと語らった際に聞かされた言葉。

 “アンタのせいで苦労したんじゃなくて、アンタの為なら何でも出来たの”。


「ユミーナ…さん…!」


 リエネの頬を、零れた涙が伝い落ちる。


「ユミーナ様の思いを踏みにじるようなこと…言わないでくださいよ…。リエネさんだけは…!」

「けど…私が…!私のせいでユミーナさんは…!」

「まだ言うんですか!?本当はリエネさんだって分かってるでしょ!?」

「黙れ!お前に何が分かる!?何も知らないで──」

「分かりますよ、断片的に聞いただけでも!ユミーナ様がリエネさんを愛してることぐらい!!」

「!!」


 涙に濡れる目を見開くリエネに、シェリルは続けた。


「…それに、リエネさんがユミーナ様を愛してることも…。分かりますよ、それくらい…」

「…」


 二人は何も言わず、しばらくの間、ただリエネ喉を震わせる音だけが、静寂に響く。

 先に静寂を切り裂いたのはシェリルだった。


「なのに、どうしてなんですか…?」

「…なにがだ」

「リエネさんはどうして、ユミーナ様に挑んだんですか…?」

「…」

「ユミーナ様を討ってまで、大王になりたかった訳じゃないんですよね…?」

「…あぁ」


 シェリルの問いに、リエネはゆっくりと、一度だけ頷いた。


「なら、どうして…?」

「…私は──」


────────


「なぁ、兄ちゃん」


 同じ頃、難しい顔で、ラツンジパもレピに疑問を投げ掛けていた。


「なんだい?」


 布の上に寝転んだレピは、宝石──リリニシアが作った媒介を眺めながら、言葉だけで答える。


「兄ちゃんはなんで…ハリソノイア人と?」

「…なんで、か」

「…」


 リエネを受け入れていることが信じられない、と言った表情で見つめるラツンジパに、レピは笑みを浮かべながら続けた。


「そもそもの話、僕はリエネさんが加わる前、ヤクノサニユの三人だけで旅をしてた中に加えてもらってね。同じように、他国(よそ)の人間が加わることは想定していたんだ」

「覚悟が出来てたってことか」

「うん。それに彼女──リエネさんは、仲間になるより前に、しばらく一緒に行動していてね」

「仲間になる前に…?」


 ラツンジパは理解が及ばず、不思議そうに首を捻る。


「僕たちがハリソノイアに伺ったのは、大王が交代して間もない頃でね。新しく大王の座に着いたのが、君のお祖母様の言っていたユミーナ様だ」

「確か、ハリソノイアを変えようとしてるって…」

「うん。すごい方だった。同じハリソノイアの国民を、“野蛮”だの“バカみたい”だの…」

「えぇ…?」

「彼女は、自分のことを“異常者”とも言っていた。…()()()()()()()()()()()、ね」

「なんでそんなヤツが…?」


 素朴なラツンジパの疑問に、レピは少し吹き出した。


「はは…そうだね。"国を捨てることも考えた"と仰ってたよ」

「だよな、やっぱり。そうするよな…?」

「けどハリソノイアが変わらないなら、どこに移ったって、やがてはハリソノイアに脅かされることになる。それならハリソノイアの流儀に従い、国を乗っ取ってから異常者(じぶん)に合わせて作り変えてしまおう…というお考えらしい」

「…すげぇなそりゃ、確かに」


 感嘆のため息を漏らすラツンジパに、レピは深く頷く。


「だろう?…シェリルさんの言った通り、"こんなハリソノイア人もいるんだ"と思わされたよ」

「…」

「リエネさんは、ユミーナ様のご命令で、僕たちを彼女の元まで案内してくれたり、一緒に魔物と戦ったり…合わせて二ヶ月以上、一緒に動いてたんだ」

「…長ぇな」

「うん。彼女がどんな人間かは、なんとなく理解できた。信用できそうだって…。だから彼女が仲間になることに、何も抵抗はなかった」

「森じゃなく、木を見たから…」


 シェリルに言われた言葉を、ラツンジパは重ね合わせる。


「まぁ、僕も完全にそれが出来てる訳じゃないんだけどね」


 レピはリリニシアの媒介を懐にしまい込むと、気恥ずかしそうに頬を掻いた。


「…そうなのか?」

「うん…。マキューロに入る前、ヤクノサニユで、ティサン人の少女と出会ってね」

「ティサン人…!」

「意識してそうしてた訳じゃないんだけど…僕は、彼女の名前を一度も呼ばなかったらしい。それでシェリルさんに怒られた。"いずれティサンにも行くのに、そこでティサン人たちに喧嘩を売るつもりか"って」

「…」

「シェリルさんの言うことが正しいし、僕が改めるべきだとも思う。…けど本音を言うと、心のどこかで抵抗してる、まだ納得が行ってない自分がいるんだ」

「兄ちゃんでも、そうなのか…」


 囁くようなラツンジパの声に、レピは複雑そうな表情で頷く。


「だから、ラツンジパの気持ちも分かるつもりだよ。特に君の場合は、ご両親のこともある」

「…」

「焦らなくていい。時間を掛けて、リエネさんって"木"を見極めればいいんだ。僕も…時間を掛けて、ティサンとの向き合い方を考えるつもりだよ」

「兄ちゃん…ありがとな」

「どういたしまして」


 感謝を口にするラツンジパは、先ほどまでとは比較にならない、晴れやかな表情を浮かべていた。


「…あ、そういえばもう一つ、聞きてぇことがあったんだ」

「なんだい?」

「リリニシアに"原理主義"だの"革新主義"だのって話したんだろ?なんでそんな言い方したんだ?"隷我者(れいがしゃ)"と…言いたかねぇが、"忘敬者(ぼうけいしゃ)"って呼び方があんのによ」


 ラツンジパの問いに、レピは僅かに目を伏せ、答える。


「"言いたくない"…それが全てだよ」

「…?」

「"()を捨て自然に()属する"隷我者も、"自然への()意を()れた"者も…互いを罵り合う言葉だ。他所からのお客様に、そんな話はしたくないだろう?」

「ふぅん…そういうモンか」


 それからしばらくの時が経ち──。


「今戻っ──なんだ、しっかり寝てるじゃないか」

「zzz…」

「…そう、ですね」


 戻ってきたリエネは、しっかりと寝息を立てるラツンジパに、思わず呆れた笑みを零した。

 レピは苦笑いを浮かべながら、二人を迎える。


「お疲れ様です、お二人とも」

「お前も寝ててよかったんだぞ?」

「そうは行きませんよ、一応見張りは立てておきませんと」

「レピさんこそ…お疲れ様です」

「…いえいえ」


 "稽古"を終え、戻ってきたシェリルは暗く沈んだ表情を浮かべており、リエネも露骨に見せはしないものの、どこか苦々しげな顔をしていた。

 レピは二人の様子を見て、かつて推測した通り、リエネが抱えている“何か”にシェリルが触れた事、そしてそれが二人にとって影を落としたことを確信した。


「…僕が起きておきますので、お二人とも休んでください」

「あぁ…済まない」

「後で代わりますから、起こしてください」

「はい、そうさせていただきます。…おやすみなさい、お二人とも」


 レピは、二人で話す機会を与えたことを僅かに悔いながら、懐から一冊、本を取り出した。

お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ評価・ブックマークなどお願い致します。

また温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は24時頃にXでの先行公開を、4日19時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

同じ頃、スウォルとリリニシアも就寝する準備に取りかかっていた。

ギクシャクした空気の中、スウォルは”崖から落ちて、どうやって助かったのか覚えているのか”をリリニシアに問う。

"覚えてないと既に話した”というリリニシアに、スウォルは質問を重ねる。


次回「侵食」

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