#71 ユミーナ・クオシャー
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
活動報告における要約あらすじ公開は、先月にて更新を終了しました。
以降はnoteからお読みいただければ幸いです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
スウォルとリリニシアに遅れること2日、追って村を発ったシェリルたちを更に追いかけたラツンジパは、同行を願い出る。
リエネ──ハリソノイア人との確執に一度フタをし、行動を共にした最初の夜、シェリルは稽古としてリエネを連れ出し、ユミーナとの間柄を問う。
"3歳の頃に拾われた"。
ユミーナとの間柄を問われ、リエネが口にした答えに、シェリルは目を丸くし驚いた。
「え、3歳って言うと…18年前、ですよね?…ユミーナ様、お若く見えましたけど…?」
「今は29。当時は11歳だった」
「じゅっ…11って…ユミーナ様も子供じゃないですか!」
「あぁ。ちょうど戦で神槍…グラウム様と戦った帰りだったそうだ」
「師匠と…」
驚きに声が出ないシェリルに、リエネは頷きながら続ける。
「ユミーナ様は当時から、それこそグラウム様の記憶に今でも焼き付く程の力があったが…お前の言う通り、幼い子供。いくらハリソノイアでも、強いだけではどうにもならないことだってあった」
「…」
「力で奪えば、その場限りは解決するが…やがて孤立する。そうなれば、もう奪うことも出来なくなる。わたしを抱えて移動するのも楽ではない。だからユミーナ様は…奪うのではなく、取引を選んだ」
「取引…?」
「そうだ。なんの使い道もない私の為に、幼かったユミーナ様は…!」
リエネは深く項垂れ、歯を食いしばりながら、首を小さく左右に振りながら語った。
その様子を見て、シェリルはひとつの可能性に思い至る。
「リエネさん、まさか…ユミーナ様が──」
「やめろ!…やめてくれ。それ以上、言わないでくれ…」
「…」
リエネが項垂れたまま拳を握りしめ、か細い声で答える姿を見て、シェリルは自身の胸の中に、ドス黒い感情が広がっていくのを感じていた。
「…そして、私がハリソノイアで生きていけるよう、力をくれた」
「力…」
「あぁ。拷問と言って差し支えないような、地獄のような…。当時は何度も泣かされたし、ぶつけた恨み言も数え切れん。手が緩むことはなかったがな」
「リエネさん…」
形容とは裏腹に、大切な宝物を扱うように、リエネは目を細め、懐かしむ。
「気まぐれだった、と聞かされたことがある」
「…なにがです?」
「"神槍と楽しく戦り合った直後でご機嫌だったから、気まぐれで拾った"と」
「…」
やはり口にすべき言葉が見つからないシェリルをよそに、リエネは声を震わせた。
「私がユミーナ様の…いや、ユミーナ・クオシャーという、一人の少女の人生を狂わせたんだ」
「…な、にを…言ってるんですか…」
「本来ならユミーナ様は…取引になんて、手を染める必要はなかった…。たまたま神槍と戦った帰りに、私を見つけてしまったばかりに…!」
「やめてください、リエネさん…」
「私のことなど見捨てておけば──」
「リエネさん!!」
制止を聞かず言葉を紡ごうとするリエネを、シェリルは叫び、遮った。
「ユミーナ様の前で同じこと言えますか!?」
「…っ」
「リエネさんのために、必死で泥を啜ったユミーナ様の前で!今の言葉、言えるんですか!?」
「それは…」
リエネの脳裏に甦ったのは、出立前日、ユミーナと語らった際に聞かされた言葉。
“アンタのせいで苦労したんじゃなくて、アンタの為なら何でも出来たの”。
「ユミーナ…さん…!」
リエネの頬を、零れた涙が伝い落ちる。
「ユミーナ様の思いを踏みにじるようなこと…言わないでくださいよ…。リエネさんだけは…!」
「けど…私が…!私のせいでユミーナさんは…!」
「まだ言うんですか!?本当はリエネさんだって分かってるでしょ!?」
「黙れ!お前に何が分かる!?何も知らないで──」
「分かりますよ、断片的に聞いただけでも!ユミーナ様がリエネさんを愛してることぐらい!!」
「!!」
涙に濡れる目を見開くリエネに、シェリルは続けた。
「…それに、リエネさんがユミーナ様を愛してることも…。分かりますよ、それくらい…」
「…」
二人は何も言わず、しばらくの間、ただリエネ喉を震わせる音だけが、静寂に響く。
先に静寂を切り裂いたのはシェリルだった。
「なのに、どうしてなんですか…?」
「…なにがだ」
「リエネさんはどうして、ユミーナ様に挑んだんですか…?」
「…」
「ユミーナ様を討ってまで、大王になりたかった訳じゃないんですよね…?」
「…あぁ」
シェリルの問いに、リエネはゆっくりと、一度だけ頷いた。
「なら、どうして…?」
「…私は──」
────────
「なぁ、兄ちゃん」
同じ頃、難しい顔で、ラツンジパもレピに疑問を投げ掛けていた。
「なんだい?」
布の上に寝転んだレピは、宝石──リリニシアが作った媒介を眺めながら、言葉だけで答える。
「兄ちゃんはなんで…ハリソノイア人と?」
「…なんで、か」
「…」
リエネを受け入れていることが信じられない、と言った表情で見つめるラツンジパに、レピは笑みを浮かべながら続けた。
「そもそもの話、僕はリエネさんが加わる前、ヤクノサニユの三人だけで旅をしてた中に加えてもらってね。同じように、他国の人間が加わることは想定していたんだ」
「覚悟が出来てたってことか」
「うん。それに彼女──リエネさんは、仲間になるより前に、しばらく一緒に行動していてね」
「仲間になる前に…?」
ラツンジパは理解が及ばず、不思議そうに首を捻る。
「僕たちがハリソノイアに伺ったのは、大王が交代して間もない頃でね。新しく大王の座に着いたのが、君のお祖母様の言っていたユミーナ様だ」
「確か、ハリソノイアを変えようとしてるって…」
「うん。すごい方だった。同じハリソノイアの国民を、“野蛮”だの“バカみたい”だの…」
「えぇ…?」
「彼女は、自分のことを“異常者”とも言っていた。…ハリソノイア人の中では、ね」
「なんでそんなヤツが…?」
素朴なラツンジパの疑問に、レピは少し吹き出した。
「はは…そうだね。"国を捨てることも考えた"と仰ってたよ」
「だよな、やっぱり。そうするよな…?」
「けどハリソノイアが変わらないなら、どこに移ったって、やがてはハリソノイアに脅かされることになる。それならハリソノイアの流儀に従い、国を乗っ取ってから異常者に合わせて作り変えてしまおう…というお考えらしい」
「…すげぇなそりゃ、確かに」
感嘆のため息を漏らすラツンジパに、レピは深く頷く。
「だろう?…シェリルさんの言った通り、"こんなハリソノイア人もいるんだ"と思わされたよ」
「…」
「リエネさんは、ユミーナ様のご命令で、僕たちを彼女の元まで案内してくれたり、一緒に魔物と戦ったり…合わせて二ヶ月以上、一緒に動いてたんだ」
「…長ぇな」
「うん。彼女がどんな人間かは、なんとなく理解できた。信用できそうだって…。だから彼女が仲間になることに、何も抵抗はなかった」
「森じゃなく、木を見たから…」
シェリルに言われた言葉を、ラツンジパは重ね合わせる。
「まぁ、僕も完全にそれが出来てる訳じゃないんだけどね」
レピはリリニシアの媒介を懐にしまい込むと、気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「…そうなのか?」
「うん…。マキューロに入る前、ヤクノサニユで、ティサン人の少女と出会ってね」
「ティサン人…!」
「意識してそうしてた訳じゃないんだけど…僕は、彼女の名前を一度も呼ばなかったらしい。それでシェリルさんに怒られた。"いずれティサンにも行くのに、そこでティサン人たちに喧嘩を売るつもりか"って」
「…」
「シェリルさんの言うことが正しいし、僕が改めるべきだとも思う。…けど本音を言うと、心のどこかで抵抗してる、まだ納得が行ってない自分がいるんだ」
「兄ちゃんでも、そうなのか…」
囁くようなラツンジパの声に、レピは複雑そうな表情で頷く。
「だから、ラツンジパの気持ちも分かるつもりだよ。特に君の場合は、ご両親のこともある」
「…」
「焦らなくていい。時間を掛けて、リエネさんって"木"を見極めればいいんだ。僕も…時間を掛けて、ティサンとの向き合い方を考えるつもりだよ」
「兄ちゃん…ありがとな」
「どういたしまして」
感謝を口にするラツンジパは、先ほどまでとは比較にならない、晴れやかな表情を浮かべていた。
「…あ、そういえばもう一つ、聞きてぇことがあったんだ」
「なんだい?」
「リリニシアに"原理主義"だの"革新主義"だのって話したんだろ?なんでそんな言い方したんだ?"隷我者"と…言いたかねぇが、"忘敬者"って呼び方があんのによ」
ラツンジパの問いに、レピは僅かに目を伏せ、答える。
「"言いたくない"…それが全てだよ」
「…?」
「"我を捨て自然に隷属する"隷我者も、"自然への敬意を忘れた"者も…互いを罵り合う言葉だ。他所からのお客様に、そんな話はしたくないだろう?」
「ふぅん…そういうモンか」
それからしばらくの時が経ち──。
「今戻っ──なんだ、しっかり寝てるじゃないか」
「zzz…」
「…そう、ですね」
戻ってきたリエネは、しっかりと寝息を立てるラツンジパに、思わず呆れた笑みを零した。
レピは苦笑いを浮かべながら、二人を迎える。
「お疲れ様です、お二人とも」
「お前も寝ててよかったんだぞ?」
「そうは行きませんよ、一応見張りは立てておきませんと」
「レピさんこそ…お疲れ様です」
「…いえいえ」
"稽古"を終え、戻ってきたシェリルは暗く沈んだ表情を浮かべており、リエネも露骨に見せはしないものの、どこか苦々しげな顔をしていた。
レピは二人の様子を見て、かつて推測した通り、リエネが抱えている“何か”にシェリルが触れた事、そしてそれが二人にとって影を落としたことを確信した。
「…僕が起きておきますので、お二人とも休んでください」
「あぁ…済まない」
「後で代わりますから、起こしてください」
「はい、そうさせていただきます。…おやすみなさい、お二人とも」
レピは、二人で話す機会を与えたことを僅かに悔いながら、懐から一冊、本を取り出した。
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次回は24時頃にXでの先行公開を、4日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
同じ頃、スウォルとリリニシアも就寝する準備に取りかかっていた。
ギクシャクした空気の中、スウォルは”崖から落ちて、どうやって助かったのか覚えているのか”をリリニシアに問う。
"覚えてないと既に話した”というリリニシアに、スウォルは質問を重ねる。
次回「侵食」




