#66 マキューロとハリソノイア
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
活動報告にて、本作を要約したあらすじを公開しています。
復習などにご活用ください。
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以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
レピの個人的な"いつもの"質問に対し、老婆はレピと同じく、過去に"禁じられた魔法"に魅入られ、奇しくも現在は元老院に名を連ねる男の名を告げる。
有力な情報を得たレピは、続けて"人の認識に介入する魔術"について尋ね──。
"魔物が現れる北端から遠く離れたハリソノイアの南端、ヤクノサニユとの国境にある村だけが魔物に襲われ、滅びる"という不自然な状況に、誰一人として違和感を抱かなかった事実を聞き、老婆は数度頷きながら答える。
「へぇ…?つまりあんたが言いたいのは、魔術で"違和感を持つことが出来ない"ように操作されていたんじゃないか、ということだね」
「はい。可能でしょうか」
レピの問いに、老婆は一瞬、笑みを見せた後、僅かに考え込む素振りを見せ、それから慎重に、言葉を選びながら語った。
「…理論上は不可能じゃないね」
「出来るんですか!?」
「そんなことが…!」
シェリルとリエネが驚きに目を剥く一方、レピは淡々と、老婆の言葉を噛み砕く。
「…理論上、ですか。やはり個質魔術の可能性は排除できない…か」
「あぁ。それでも現実的だとは言えないがね」
「あ…あの、すみません。"こしつ魔術"って…?」
二人が深刻な表情で意見を交わす中、シェリルは申し訳なさそうに小さくなりながら手を挙げた。
「おや、お話したことありませんでしたか。僕がこれまで使って見せてきたような、火、氷、風…と言った、修練次第で習得できるものを"基礎魔術"と呼びます」
「ふむふむ」
「対して、ある域に達した熟練の魔術師は、他者には真似できない、人によって異なる"個"人の資"質"に拠る魔術を見出すことがあります。これを個質魔術と呼ぶんです」
「へぇ…!レピさんはどんな個質魔術を使えるんですか?」
目を輝かせるシェリルに、レピは気まずそうに視線を伏せ、首を横に振った。
「お恥ずかしながら、僕はまだ…」
「え…!?レピさんでも…!?」
目を見開くシェリルに対し、リエネは冷静に呟く。
「だが言われてみれば、私たちはレピとリリニシア様以外の魔術を知らん。リリニシア様と比べていたから凄腕だと思っていたが、実は大したことないのか…?」
「さらっとキツいこと言いますね…。未熟なことは否定しませんが」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
苦笑いを浮かべるレピを庇い、ラツンジパが割って入った。
「個質魔術ってのは、魔術が上手けりゃ皆が使えるようになるってモンじゃねぇんだ。どれだけ上手くなろうと、生まれつきの資質がなけりゃ一生使えないんだよ」
「へぇ〜…そういうものなんですね」
シェリルの興味深げに感心する様に、ラツンジパは若干、気を良くしながら、解説を続ける。
「あぁ。だから"個質魔術が使えるかどうか"じゃ、魔術師の腕は計れねぇんだ」
「ま、"使えるなら一級品"であることに間違いはないがね」
「…ではご老体、そういうあなたは?」
リエネの問いに、老婆はニヤリと笑いながら答えた。
「覚えておきな、ハリソノイアのお嬢さん。マキューロで"個質魔術が使えるか"、"使えるならどんな内容か"は聞いちゃならない」
「…何故?」
「使えない者にとっちゃ、"使えない"と言わなきゃならないのが屈辱だから。使える者にとっちゃ、"手の内を探っている"と受け取られるからさ。どっちにしたっていい結果にはならないよ」
「…生来の資質に拠るのなら、使えなくとも恥じる必要はないのでは?」
腑に落ちない様子で食い下がるリエネに、老婆は楽しむように質問を返す。
「あんた、元老院が何を基準に選ばれるか知ってるかい?」
「魔術の腕前と伺っております」
「そう、それだけさ。あんた、他にも知ってんじゃないかい?強さと権力が結びつく国をさ」
「…ハリソノイア」
マキューロとハリソノイアを対比させる老婆の物言いに、ラツンジパはこめかみをピクリと動かした。
「…祖母ちゃん?」
怒気を孕んだ声色のラツンジパを無視し、老婆は続けてリエネに語り掛ける。
「そうさ。──仮に魔術を使えたとして、同じことを聞かれたらどう思う?ハリソノイア人のあんたは」
「…納得しました」
「祖母ちゃん!!」
無視されても怯むことなく、ラツンジパは怒声をあげた。
「なんだい、やかましい子だね」
「何が言いてぇんだ、祖母ちゃん。まるで…マキューロ人とハリソノイア人が近いっつってるように聞こえるぜ」
「当たり前だろう、そう言ってんだから」
「よりにもよって…ハリソノイア人に近いだと!?」
「あぁそうだ。なぁ?若造」
老婆に話を振られ、ラツンジパの怒りに満ちた視線を受けながら、レピはゆっくりと口を開く。
「…スウォルくんに、同じことを言われたことがあります」
「え、スウォルが…そんなことを?」
驚くシェリルに、レピは懐かしむように目を細め、頷いた。
「確か…リエネさんと初めてお会いする前日でしたでしょうか。"魔術が上手ければ元老院になれる"と言うと、"ハリソノイアみたいだ"って言われました。あの時は正直、不服でしたが…今なら分かります。外から客観的に見ると…マキューロ人とハリソノイア人の精神構造は近いんだ、ラツンジパ」
「兄ちゃんまで!…っ!」
同じマキューロ人である祖母とレピの言を受け、ラツンジパはやり場のない怒りを踵に乗せ、足元の床に叩き付ける。
「みっともないね。だから青いってんだよ」
「クソッ…!」
「まったく。…確かに他者の意識や認識をいじくる個質魔術の使い手がいる可能性はある。が、これまで騒ぎにならなかったことを見るに、少なく見積もってもヤクノサニユとハリソノイアを広範囲に渡っているはず。それを16年間となると…」
「“現実的ではない”、ですか」
ラツンジパを諌め、話を戻した老婆の言葉に、レピは深く頷いた。
「そうさね…。“ありえない、とは言い切れない”程度になるかね、結論は。…しかし驚いたね、他に気付く者がいたとはね」
「先の反応から、そうではないかと思いましたが…やはり貴方も」
「なに!?」
自らや他のハリソノイア人の誰もが見落としてきた違和感を察していたという老婆に、リエネは目を剥く。
「当時からね」
「…お気付きなら、何故これまで何も声を上げなかったのです?」
レピの問いに、老婆はやれやれと言わんばかりに、首を左右に振った。
「どうであろうが"あたしには関係ないから"ってのが一つ。もう一つは…元老院入りを蹴った代償さ」
「…どういう意味でしょう?」
「"俗世との関わりを断つこと"。それが、連中の提示した条件だよ」
「!」
言葉を失うレピに、老婆は続ける。
「元老院相当の魔術師に、勝手気ままに動かれちゃ困るんだろうね」
「…ですが、今こうして──」
"我々と関わっている"と言おうとしたレピを遮るように、老婆は鼻で笑った。
「ふん、別に是が非でも従わなきゃならない義理はないよ。今まで大人しくしててやっただけ、感謝して欲しいくらいさ」
「…ははは。流石というかなんというか」
圧倒され、レピは乾いた笑いを零すことしか出来なかった。
「それで?聞きたいことは終わったかい?」
「あ…もう少しだけ。ここの前に崖の上の集落に足を運んだのですが…誰もおらず、破壊された後でした。そちらの方々はここに避難されたんですか?」
「そんなことかい…」
多少なり面白い話題が終わり、老婆は面倒臭そうにラツンジパに視線を投げる。
「あぁ。全員ではないはずだけど、ほとんどは来てる」
「そうか、ありがとう。少し話したいから探してみるよ。…最後に、シェリルさん。剣を抜いてください」
「え?」
「剣!?な、なんのつもりだよ!?」
"剣を抜く"と聞き動揺を見せるラツンジパに、レピは両手のひらを向け、なだめた。
「落ち着いて。スウォルくんの盾に弾かれた時、あんまり痛くなかったんだろう?比べてみてくれ。さ、シェリルさん」
「わ、分かりました…?」
レピの考えを掴めないまま、促されるままに剣を抜く。
「横から触ってみてくれ」
「わ、分かった。…ぐあっ!?」
剣に向けて伸ばされた手は、大きな音を立てて弾き飛ばされた。
「どうだい?」
「ぜ、全然ちげぇよ!いってぇ…!」
「…分かった、ありがとう。シェリルさん、もう結構です。…僕からは以上です。お二人は何かありますか?」
「いや、ない」
「私もありません」
剣を収めるシェリルとリエネが首を横に振る様を確認し、レピはおもむろに椅子から立ち上がる。
「色々とお聞かせいただき、ありがとうございました。大変参考になりました」
「もう出るのかい」
「はい、集落の方と話したら、スウォルくんとリリニシア様を追うつもりです」
「そうかい」
「…あの、やはりお名前を教えていただくことは出来ませんか?」
一度は拒否した名の開示を、改めてレピに求められた老婆は、少し考えたあと、笑みを浮かべ答えた。
「ふん…ただ名乗るんじゃ面白くないね。追い付いたらお姫様に聞きな」
「!」
「リリニシアには教えたんですね!」
態度を軟化させた老婆に、シェリルは嬉しそうに目を輝かせた。
「まぁね。あんたとはまた違う意味でだが、あの娘も気に入ってるんだよ、あたしは」
「風の魔術と媒介作り…?を、教えてくださったんですもんね!ありがとうございます!」
「…早く行きな。あんたと話してると毒気抜かれちまうよ」
「あ、はい…すみません…?じゃあ行きましょう、二人とも!お二人とも、本当にありがとうございました!」
しっしっと手を振り、追い払うような老婆の仕草を受け一瞬、困惑を見せたシェリルだったが、すぐに向き直り、レピ、リエネと共に頷くと、ラツンジパと老婆に頭を下げて礼を残し、扉を開けて外へ去っていった。
「…やっと行ったかい。思いの外、長話になっちまったね。疲れちまったよ」
三人を見送り、扉が閉まるのを待った老婆がため息を漏らす。
「…俺がいない間、リリ…ニシア姫とどんな話してたんだよ?」
「言ったろ?女同士の話に、男が首を突っ込むんじゃないよ」
「…なぁ祖母ちゃん、俺さ──」
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時を遡ること4日。
リリニシアは、ラツンジパを追い出した老婆と対峙していた。
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~次回予告~
シェリルたちが村を訪ねる4日前、スウォルを寝かせたラツンジパを"水を汲みに行け"と追い出した老婆と、リリーを名乗るリリニシアが"女二人で"対峙していた時のこと。
次回「老婆とお姫様」




