#106 人類に必要なモノ
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
"損益を重視するなら、連合を拒否する理由は薄い"と問うレピに、ボォンクレェドは同意しつつも抵抗を示す。
その理由を追及され、"マキューロ人として矜持"と答え、変わりゆくマキューロに心を痛めていた事を伺わせた。
そんな中、スウォルは一人、別の事に思考を割いていた。
ハリソノイアからの侵攻に対抗する為、ヤクノサニユやティサンとの同盟を受け入れた当時を、ボォンクレェドは振り返る。
その結果、マキューロという国はハリソノイアに屈する事なく、今日まで永らえた。
その事実は認めながらも、ヤクノサニユとの交わりによって変化していくマキューロを目の当たりにしてきたボォンクレェドは、"姿を変えるくらいなら、マキューロのまま滅んでおくべきだったのかもしれぬ"と、かつての自身、引いては元老院の判断に悔恨を滲ませる。
「ディアモス卿!?なんという事を仰られるのですか!」
「…分からぬだろうな、ジスタム」
国政の中枢に身を置くボォンクレェドの言葉を聞き捨てることは出来ず、強い語気で抗議するガガーニムに対し、ボォンクレェドは小さく首を横に振った。
弱々しい雰囲気のボォンクレェドに困惑し、追及を進められないガガーニムに代わり、クレンが引き継ぐ。
「ディアモス卿はその時から元老院にいたんですもんねぇ」
「もう40年ほど経つか。あの時は…マキューロの存続こそが最優先だと信じていた…。俺も青かったのだ…」
自らの未熟を思い返し、自嘲するボォンクレェドに、レピが問う。
「…そうお考えなら、何故ムータオヒカ卿の殲滅論に賛同なさらなかったのですか?肯定するつもりはありませんが、ディアモス卿の仰る"姿を変えたマキューロ"を元の姿に戻すという意味では、最も確実な手段ではあるのでは…」
対してボォンクレェドは、物悲しそうな微笑を浮かべ、答える。
「確かにそれを認めれば、見てくれだけは"在るべき姿"に戻っていただろう。だが…気に入らぬ者を暴力でねじ伏せ、討ち滅ぼすのでは、ハリソノイアと何も変わらぬではないか」
「…!」
レピはその言葉を受け、目を見開いた。
ボォンクレェドの言葉は、かつてスウォルに言われ、ルヴィニケンプとの対話でも話題に上がった"ハリソノイアとマキューロの類似性"を思わせたからだ。
そして、それを自覚した上で拒否しているかの様に、レピには感じられた。
そんな中、一行が抱き、しかし口に出さずに堪えた疑問が、不意にラツンジパの口をつく。
「…さっき胸倉掴み上げてたのは暴力なんじゃねぇのか…?」
「あ、おい!余計な事を!」
慌ててリエネが諌め、シェリルとリリニシアはリエネに同調する様に頷きながら、一方で"よく言った"とでも言いたそうな微妙な目線をラツンジパに向けた。
「あ…わ、悪い。すんません、どうも…」
「あははっ…だ〜よねぇ〜」
「メジャルカ卿、お静かに…!」
笑いながら堂々と同調するクレンをガガーニムが黙らせると、ボォンクレェドはふと、悲しさの混じらない、素の笑みを見せて答える。
「構わぬ。流石、魔女と並ぶ"もう一人の魔女"の血を引くだけある豪胆さよ。…アレは個人的な怒りからのものではない。伝統を軽んじ、神聖な議場に部外者を──それも他国の者を無断で招き入れた暴挙に対する、元老院として起こすべき"反応"だ」
「私とて、ああなる事は承知の上での事。ディアモス卿の反応が間違っていたとは思いません」
「暴力には変わりないがな。──ハリソノイアは…リエネ、と申したか」
「む…はい」
ラツンジパの疑問を肯定しながら話を戻し、ボォンクレェドは当事者のリエネに対して断り、続ける。
「気を悪くなさるな。俺は──ハリソノイアという国は、"最も本能に忠実な国"だと考えている」
「本能…ですか」
リエネが噛み締める様に繰り返すと、ボォンクレェドは一度、ゆっくり大きく頷いた。
「自分より弱い者は踏みつけて優越に浸り、気に入らぬ者や邪魔する者は叩き潰して、全てが自らの思うがまま…。人間という生き物の根底には、きっとそんな欲がある。我等にもな…」
「ディアモス卿!?何を仰られる!!」
マキューロ人とハリソノイア人を同一視するかのような物言いにロガーメーポが異議を唱えるが、ボォンクレェドは鼻で笑う。
「ふん…貴様がその体現であろうが」
「なんですと…?」
「気に入らぬ忘敬者の殲滅を唱える貴様と、いったい何が違うと言うのだ」
「なっ…!」
ボォンクレェドは顔を戦慄かせながら反論の言葉を探すロガーメーポから、リエネに視線を戻し、続けた。
「ご覧のようにな。…それを誤魔化す事なく、もっとも忠実に形にするのがハリソノイアという国であり、民なのだ」
「…はい」
「だが誰も彼も本能のまま、好き勝手に振る舞えば…人は必ず衝突する。相手を滅ぼすまで争い続け、それが済めば今度は先ほどまでの味方の中から敵を作り出す。今のマキューロがいい例だ。──人間は、二人いれば対立できる生き物なのだ」
「…!」
シェリル、レピ、リエネ、ラツンジパは目を見開く。
ボォンクレェドの口から出た言葉が、ルヴィニケンプが口にしたモノとまったく同じだった。
「ハリソノイアは他国の領土と民を吸収し、拡大して来た。だが仮にハリソノイアが全ての国を制圧すれば…それは敵の消滅であり、吸収する外部の人民の消滅だ。そうなれば必ずや、内部に敵を作り出す。…俺はそう確信している」
「…おそらく、そうなるでしょう」
リエネは苦い表情を浮かべながら、外部に魔物という明確な敵がいる今ですら"同じ国民であれど弱者を人と思わない"祖国を思い、肯定する。
「外部から人民を取り込めなくなったとて内乱はなくならず、人が死んで減ってゆき、その先に待つは滅亡のみ。それがハリソノイアの…そして忘敬者を絶やす道を選んだマキューロの行く末なのだ」
「それが、殲滅に異を唱えた理由ですか」
レピが改めて問うと、ボォンクレェドは頷いた。
「うむ…。ハリソノイアが国としての姿を保てているのは、他国や…今は魔物を"敵"と定めておるから故。──なればこそ、全ての国での連合が成立し、しかしユミーナとやらがハリソノイアを変えることが出来ぬまま代替わりした時を思うと…な」
「ハリソノイアには敵が必要、とお考えですか」
「マキューロにも…いや、あるいは人類という生物には、かも知れぬ」
「…そんな」
レピに答え、虚しく笑うボォンクレェドに、黙していたシェリルが口を開いた。
「そんなの…寂しすぎませんか…?」
「…」
「敵がいなければ一つになれないなんて…そんなの…」
「…そうだな」
目の前の心を痛める少女に、ボォンクレェドは静かに同調して見せる。
その姿を見守りながら、ガガーニムは再びクレンと視線を交えた。
"これだけマキューロを思い熱弁を振るう男か、民を素体にした人造魔物の製造などに手を染めるだろうか"。
個質魔術も不明、熱弁も擬態である可能性は残る為、まだ完全に排除は出来ないが"ディアモス卿の線は薄いのでは"。
「だが、もし本当にハリソノイアが変わる未来があるのなら…賭けてみたい思いもあるのだ。もしハリソノイアでそれが成されるのなら、マキューロ人の対立に解消の兆しが見えるやも──」
「甘い…!」
歩み寄ろうとしたボォンクレェドの行く手を遮るように、ロガーメーポが吐き捨てた。
「貴方は何も分かっておられぬ!マキューロが変わる必要などない。否、変わってはならぬのだ!!」
「ムータオヒカ…!」
「ハリソノイアだけではない!ティサンはもちろん、ヤクノサニユも…あの様な国、信用してはならぬ!」
その絶叫には、元より思想が対立するティサンだけではなく、明確にヤクノサニユへの嫌悪感が籠もっていた。
「いったいヤクノサニユの…何を知っておられるんですの…?」
リリニシアが漏らしたのは糾弾ではなく、戸惑いと疑問の結実。
"禁じられた魔法"の研究で各国を巡り、"ワーサック・ドラベレアル"なる聞き覚えのない名を知る老人は、リリニシアの知らない何かを知っているのではないか──。
王への不信も合わさり、リリニシアは弱々しく囁くように呟いた。
「く…かかかっかっか…!無知とは哀れなものよな!貴様らの王は──」
「無様を晒すな、ムータオヒカ卿」
マベレムギリアが、久方ぶりに言葉を発した。
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~次回予告~
マベレムギリアに制され、ロガーメーポは口を閉ざした。
そのままマベレムギリアは、リエネに"今後のハリソノイアについて"の見解を問う。
対してリエネは"警戒はもっとも"としながら、"自身の知るユミーナ"を語る。




