#107 "魔女"マベレムギリア・マキュラ
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
ヤクノサニユ、ティサンとの三国同盟が成立して以来、変わりゆくマキューロを見つめ続けた苦悩と葛藤を語り、ハリソノイアの変化に"賭けたい気持ちもある"と明かしたボォンクレェド。
ロガーメーポは彼を"何も分かっていない"と糾弾し、一行に"ヤクノサニユという国、ゼオラジムという王"を語ろうとするも──。
「無様を晒すな、ムータオヒカ卿」
"ヤクノサニユを信用してはならぬ"と吠え、困惑する一行に"貴様らの王は──"とまで言いかけたところで、マベレムギリアが口を挟んだ。
「マ…キュラ、卿…」
「聞くに堪えぬ」
「…くっ」
マベレムギリアに一喝され、ロガーメーポはバツが悪そうに視線を伏せた。
「な…なんなんですのよ…?ヤクノサニユが…貴様らの王がいったい、なんだって言うんですの…!」
「…」
震えた声のリリニシアの問い掛けに、ロガーメーポはただ黙するのみ。
マベレムギリアは無情にもリリニシアの──勇者一行の疑問を汲むことなく話を進めた。
「ハリソノイアの客人よ」
「…はい」
マベレムギリアの使命を受け、リエネが緊張と共に姿勢を正す。
「今後のハリソノイアについて、汝の見解を聞きたい」
「では、恐れながら…皆様がハリソノイアを警戒なさるのは最もです。私とて、それらの懸念を否定し切る事は出来ません。ですが少なくとも、我が主ユミーナは本気でハリソノイアに変革を齎すつもりでおります」
「…」
誰も口を挟まず、リエネの次の言葉を待つ。
「…私は3つの頃、当時11のユミーナ様に拾われました」
「リエネさん…」
「え、そうなんですの?…あ、失礼しました…」
思わず口にしてしまったリリニシアをはじめ、唯一、本人から事情を聞いていたシェリルを除き、一様に驚きが表情に現れた。
「当時から、ユミーナ様は強かった。若かりし頃の"グラウム・イブキミチ"と戦い、楽しみ、生きて帰った程です」
「グラウム…!ヤクノサニユの"神槍"か…!」
目を丸くし驚くボォンクレェドに、そのグラウムによって負った頬の傷を撫でながら、リエネは頷く。
「えぇ。そこらの大人じゃ、幼いユミーナ様に手も足も出せなかったと聞きます。──ですが彼女は…今にして思えば当時から、飢えに喘ぐ中にあっても、貴方の言う"本能のまま"というハリソノイアの在り方に抗っていました」
次第にリエネの口調に、熱が籠り始めた。
「それだけの力がありながら、彼女は奪う事をしなかった。"いずれ誰もいなくなり、奪う相手もいなくなる"…と。代わりに彼女は、"取引"を選びました」
「…」
リエネは一瞬、同じ"取引"と称してユミーナの情報を求めたクレンに、視線を投げる。
「自分自身や、私に食わせる食料を得る為に当時の彼女に差し出せた、価値ある唯一の対価は…自分自身でした」
「なに…?」
「…」
シェリルがギリ、と歯軋りを響かせながら顔を伏せ、他の面々は顔を顰めた。
「ただ二つ、彼女が"力で奪い取った"例外が…大王の座と──コレです」
沈む空気の中、リエネは首飾りを外し、高く掲げて見せる。
「これはハリソノイアの大王が代々、先代から玉座と共に奪い取って来た…いわば、"大王である証"です」
「…何故それを汝が持つ」
マベレムギリアが尋ねると、リエネは力強い眼で見つめ、答えた。
「ユミーナ様は、コレと玉座を奪う所までは、ハリソノイアの仕来りに従いました。ですが、それはあくまで形式として則っただけで、ユミーナ様にとってコレは価値を持ちません。"旅の途中、金に困ったら売れ"と渡されました」
「大王の証を、ねぇ…♪」
首飾りを付け直すリエネの言葉を、クレンが楽しいのか嬉しいのか、上機嫌に繰り返す。
「私は旅を終えた後、お返しするつもりでおりますが。…私が幼い頃から見てきた"ユミーナさん"は、そういう人です。私の言葉に嘘がないのは、皆様であれば分かるはず」
「…」
沈黙を肯定と受け取り、リエネは続けた。
「彼女は昔から、ハリソノイアの"常識"に抗って生きてきました。その彼女が、本気でハリソノイアを作り変えようとしております。──急激な上、真逆とも言っていい方針転換が、民にとって受け入れがたく、反発を受けているのが現実です。しかしながら彼らの力で、変化の兆しは見受けられました」
シェリル、スウォルを指し示す。
「ほう…?」
「我々がハリソノイアを発った時点で、ハリソノイアが連合に加わるか、国としての回答は出ていません。ですがユミーナ様は、必ず参加を推し進めていると確信しております。それこそ、反対する者を全員殴り倒してでも」
「…いい話だったのに」
ラツンジパが漏らすと同時に、張り詰めた空気が僅かに弛緩した。
「いざとなれば本当にやりそうなのが困りますわよね、ユミーナ様…」
「えぇ、まぁ…。確実にハリソノイア人ではありますね…」
リリニシアの囁きに頷くレピを脇目に、リエネも表情を緩める。
「連合が強固になる程、ハリソノイアを変えてゆくユミーナ様の助けになることでしょう。それはおそらく、マキューロにとっても有益かと存じます。どうか、未来を見据えた賢明なご判断を願います」
深く頭を下げ、リエネは話を結んだ。
「面を上げよ。本件、慎重な検討を要すると見た。よってこれは採決ではない。連合について、現時点での見解を述べよ。…ムータオヒカ卿」
「認めてはなりませぬ…!断固として拒絶すべきです!」
「で、あろうな。…メジャルカ卿」
「採決であっても、私は"是"ですよ〜?ユミーナって人、すっ…ごい面白そうじゃないですかぁ…!」
極めて軽い根拠を、ヘラヘラと口にするクレンを一瞥し、マベレムギリアは視線を移した。
「ディアモス卿」
「…少しばかり、時間をいただきたいですな」
先にマベレムギリアが繰り出した異例の"留保"を、ボォンクレェド自身も自らの"見解"として主張する。
「構わぬ。…ジスタム卿」
「加わるべきと考えます」
「…よかろう。ヤクノサニユが使者よ」
「は、はい…!」
マベレムギリアの呼び掛けに、一行は背筋を伸ばした。
──一人を除いて。
「お、おい…スウォル…!」
「え…あ、うん…」
ラツンジパに後ろから小突かれ、スウォルも遅れて姿勢を正す。
それを確認したマベレムギリアが続けようとした所──。
「本件──ぐっ…げほっ…!こほっ…しまっ…!」
「マキュラ卿!…む?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「くぅっ…はっ…はぁっ…!」
咳き込み始めると同時に体を包み、浮かび上がらせていた魔術による風が霧散し、地に膝を付く。
「…ん?」
「!」
レピが小さく首を捻ると同時に、クレンとガガーニムは互いに視線を送りあった。
ガタリ、と音を立てながら立ち上がるボォンクレェドを手で制し、心配そうに見つめるシェリルを見つめ返しながら息を整え、再び風を纏って体を浮かせ、仕切り直す。
「くっ…本件、元老院にて協議を重ねた後…追ってヤクノサニユへ使者を遣わし回答する。返答を待つよう、ゼオラジム王に伝えよ…こほっ…」
「あ…は、はい!ありがとうございます…!」
リエネと同じだけ、シェリルも頭を下げた。
「ふぅー…。──済まぬが…調子が優れぬ。元老院各位、先の見解を元に考察を深めよ」
元老院の面々が頭を下げ、一行も慌てて見様見真似で続く。
頭を垂れる十名を残し、到着直後と同様に一行の頭上を飛び越え──そのまま立ち去るかと思いきや、ピタリと止まり振り返る。
「…ラツンジパよ」
「え?あ、はい…?」
突如名を呼ばれ、困惑しながらバッと顔をあげたラツンジパに、マベレムギリアは問う。
「我の元に来ぬか」
「え!?」
「な…マキュラ卿!?何を!?」
声をあげたのはボォンクレェドだったが、思う所は皆同じだった。
そんな中、ロガーメーポは一際強く、大きく声を上げる。
「まさか…こやつを!?こやつはルヴィニケンプの──」
「なればこそ。ルヴィニケンプの血を引くだけあって…くくく。いい素材だ」
ロガーメーポを遮り、マベレムギリアはニヤリと口元を歪めた。
「なっ…!どうか、どうか再考を!」
ロガーメーポの必死の哀願を気にも止めず、マベレムギリアが尋ねる。
「我が弟子とならぬか、ラツンジパ」
「お…俺が…!?だ、だって婆ちゃんからは毎日の様にコキ下ろされて──」
「それはお前をより強靭に育てんが為。あるいは魔術の腕に反して、あやつに見る目がないか、だ。…こほっ」
「…!」
マキューロ最高の魔術師──"魔女"によって下された才能への評価に、ラツンジパの顔には喜びと困惑が同時に表れていた。
追い打ちをかける様に、マベレムギリアは続ける。
「急がねば…我が命尽きる前に成さねばならぬ…。汝が必要だ、ラツンジパ」
「マキュラ卿!どうか…!」
「おい、ムータオヒカ…!いったいなんだと言うのだ…」
尚も食い下がり、一行を掻き分けて追い縋ろうとするロガーメーポを止めながら、ボォンクレェドは戸惑いを隠せない。
一方ラツンジパは、故郷の村からシャファルノールまでの道中を共にした仲間たちに視線を向けながら、マベレムギリアの言葉を受け止めていた。
「けど…俺は…」
「…お好きなようにしてください、ラツンジパさん」
「シェリル…」
「そうだな。惜しくないと言えば嘘になるが…自分の道は自分で選ぶといい」
「魔術師的にはこれ以上ない機会だと思いますわよ、ラツンジパさん」
シェリルに続きリエネとリリニシアからも判断を委ねられたラツンジパは、続いてレピの見解を視線で問う。
「ラツンジパ…」
「ごほっ…!ごほっ…」
レピが言葉を掛けようとするのと同時に、再びマベレムギリアが咳き込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「はぁ…ぐっ…!…気に食わなければ帰ってもよい…。ともかく、一度我が元に来い。それから決めても遅くはあるまい」
「──分かりました。行きます…」
「そうか…!くくく…!」
再び笑みを漏らすマベレムギリアを背に、ラツンジパは一行に向き直り、頭を下げた。
「短い間だけど、世話になった。いい経験させてもらったよ。…頑張れよ、お前ら」
「はい…!ラツンジパさんも、頑張って!」
シェリルの声と一行の視線に見送られる中、ラツンジパはマベレムギリアと共に去って行く。
感傷に浸る間もなく、ガガーニムは振り返った。
「ムータオヒカ卿、何故あれほどまで──な!?いない…!?」
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~次回予告~
誰にも気付かれることなく、忽然と姿を消したロガーメーポ。
一行が困惑する中、ボォンクレェドはスウォルを一瞥すると、"マキュラ卿は何故なにも"と呟き、立ち去った。
残された面々は、ロガーメーポの消失が"彼の個質魔術"である可能性を検討し始める。
次回「消えたロガーメーポ」




