#103 一つ目の"決"
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
グラウムの受け売り"森より木を見る"を引用し、ハリソノイアを変えようとするユミーナを信じるよう訴えるシェリル。
しかしロガーメーポは、"くだらん"と一蹴する。
「ムータオヒカ卿!他国からの使者がお話している最中に…無礼が過ぎますぞ!」
声を荒らげるガガーニムを無視し、ロガーメーポは弁舌を振るう。
「あざとい小娘よ…!森だの木だの、わざわざマキューロに馴染み深い例えを持ち出して…媚びへつらおうというのが透けて見えるわ!」
「口を慎まれよ!ムータオヒカ卿!」
「そ、そんなつもりじゃ!ただ師匠が言ってたことを、そのまま使わせてもらっただけで…!」
シェリルは両手を前に突き出し、左右に振りながら必死に否定した。
「その例え話でまんまと流された俺がバカみてぇじゃねぇか。間違った例えだとは思ってねぇから別にいいけどよ…」
「はは…」
同じようにシェリルから"森よりも木を見てほしい"と説得され、リエネという木を見極める為に同行を決めた事を思い出しながら、ボソリと呟いたラツンジパに、レピとリエネは乾いた笑いで答える。
彼らのやり取りが耳に届いていないロガーメーポは、マベレムギリアに向き直った。
「流されてはなりませんぞ、マキュラ卿!本当にハリソノイアが在り方を変え、防衛の為の同盟を維持する必要がなくなると言うのなら、関係を断つべきではありませぬか!」
「…」
目を瞑り、思案を深めるマベレムギリアに、ロガーメーポは重ねて問いかける。
「ヤクノサニユなどと交わったが為に、忌々しき忘敬の思想が蔓延ったのは明白!仮にこやつらの言うことがすべて事実ならむしろ、他国との関わりを絶ち、マキューロが在るべき姿に立ち返る好機ですぞ!」
「…なるほど」
ロガーメーポの主張を聞き、今度はレピが、囁くように呟いた。
少なくともマキュラ卿は、規律や伝統を優先し、それに反したジスタム卿を是非もなく切り捨てる…というような方ではない。
最低限、ジスタム卿の考えに耳を傾ける柔軟性を持っておられる。
ディアモス卿は激情家ではありそうが、退くべき時を見極める冷静さも持ち合わせておいでだ。
メジャルカ卿は…やはりよく分からない方だが、ジスタム卿の言った通り、現時点では味方と考えていい。…現時点では。
そしてムータオヒカ卿…。
恐らくは彼が、元老院においてもっとも頑強な隷我者。
彼の口振りからは、ハリソノイアやティサンはもちろん、ディアモス卿が受容的な態度を見せたヤクノサニユにすら敵意が感じられる。
…いや、違うな。
どの国が、という話ではない。
マキューロ以外は敵…とお考えなのだろう。
だとすれば、彼を切り崩すのは難しいか。
マキュラ卿かディアモス卿…であれば、立場の強さも含め、マキュラ卿に実利を訴えるべきだろう。
しかし何故…?
ムータオヒカ卿はお若い頃、"禁じられた魔法"の研究で他国を巡ったという。
他の面々より、むしろ馴染み深いはず…。
レピが思案する中、ひとまずガガーニムは同じ結論──"訴求すべき相手はマベレムギリアである"に辿り着き、ロガーメーポに反論する。
「ヤクノサニユとマキューロが地続きである以上、同盟を破棄したところで今さら国民間の交流を断つことは出来ないでしょう」
「そんなもの、法で抑えつければよい!」
「何を仰られる!ただでさえ対立が深刻化しているのですぞ!そんなことをすれば抑圧された不満が膨張し、やがて破裂するだけです!」
ガガーニムとロガーメーポの舌戦は次第に熱を帯び、互いを"忘敬者"、"隷我者"と罵り合う国民間の対立を投影したかの様に激化した。
「そもそも忘敬者共をここまでつけ上がらせたのが失策だったのだ!最初から儂の言った通り、増長する前に根絶やしにしておけば、対立になどならなんだというに…!」
「慎め、ムータオヒカ」
ロガーメーポが喋り始めて以降、沈黙を守っていたボォンクレェドが、厳かに口を開く。
「ディアモス卿…!しかし──」
「忘れたか。その件、"是"としたのは貴様のみ。既に他の四名により否決されたであろう」
「かつてとは状況が違う!これほどまでに忘敬者が増長することを、儂だけが正しく予測しておったのですぞ!」
「相変わらず、極端なことを仰る方ですねぇ…。もう80を越えてらっしゃるんですし、少しは落ち着かれたらどうです?」
笑みを浮かべながらクレンが口を挟むと、ロガーメーポもすかさず言葉を返した。
「70を越えていると言うに、意義もなく個質魔術を使ってまで若さに執着している貴方に言われたくはありませんな…!」
「…あ゛?」
これまでになかった怒気がクレンの声に宿った事に気付き、スウォルが小さく声をあげた。
「あー…」
「え?な、なに?」
それに気付き、耳打ちして尋ねるシェリルに、スウォルも耳打ちを返す。
「あの人、ホントの歳の話されんの嫌みたいでさ。ガガーニム様も何回か、歳の話は止めろって言われてたなって」
「そ、そうなんだ…」
「けど、そん時はあそこまでキレてる感じじゃなかったし…そんだけ仲悪いんだな、あのジジイと」
「まぁ仲が悪いのは、見てたらよく分かるけど…」
「お二人とも、お控えください」
「あ、すみません…」
ガガーニムに諌められたシェリルとスウォルが声を揃えて詫びる一方、ロガーメーポはクレンに対する"反撃"を続けていた。
「何か誤りでもございますかな?この神聖な会議の場において、必要もないのに姿を偽り年齢を誤魔化しているのは、くだらぬ見栄と美意識が故では?いやはやまったく…無意味に使ってしまえる個質魔術なようで、羨ましいことですな。儂など一度使えば、激しく消耗してしまうというに」
「くだらない…?随分と好き勝手に言ってくれますねぇ…?」
クレンが敵意をその身で表現するように体を起こし、机に手を付き立ち上がろうとするが、ボォンクレェドは二人を一喝した。
「見苦しいぞ貴様ら!」
「ディアモス卿…!くっ…!」
「子供染みた言い争いは止せ!…曲がりなりにも他国の使者の前だ、恥を晒すな」
ロガーメーポが不満を隠さず顔を背ける。
二人のやり取りを見たボォンクレェドは、ロガーメーポの見解の過激さに嫌悪感を見せ、相対的に一行に対する悪感情は軽減しているようだった。
クレン改めて座り直してガガーニムに視線を投げると、ガガーニムは小さく頷いて答えた。
「ジスタム卿」
レピとリエネ、リリニシアが"クレンはロガーメーポを孤立させ今の形に持ち込む為、敢えて反撃しやすい年齢の話で仕掛け、キレて見せたたのでは"と勘ぐる中、再びマベレムギリアがガガーニムに問う。
「はい」
「ハリソノイアの変化、和睦の提案…そやつらの言葉がすべて真なるものとして、何故この場に招き入れた。汝が窓口として話を持ち込めば事足りたのではないか」
"子供染みた言い争い"に流されることなく、淡々と話を戻すマベレムギリアに、ガガーニムは一度息を飲み、答えた。
「…元老院の末席を与えられたと言えど、皆様と比べて私はあまり未熟。そして此度の件、ともすればこのマキューロの…あるいはこの世界、そして人類すべての命運さえ左右しかねません」
「…」
「未熟者が背負うには、あまりに荷が勝ちすぎます。故に"特例"として、私を通すのでなく各々、ご自身の目で見定めていただくべきと考え、お連れしました。特に──ハリソノイア人である、リエネ殿を」
「!」
名が挙げられたリエネが無意識に背筋を伸ばす一方、ガガーニムの回答を受け、マベレムギリアは意味ありげに、僅かに口角をニヤリと吊り上げ──。
「…ふん、よかろう。マベレムギリア・マキュラ、ジスタム卿の判断を──"是"とする」
「なっ…マキュラ卿!?」
マベレムギリアの賛同により退けられた二人の内、ロガーメーポは驚きの声をあげる。
「それじゃあ──」
身を乗り出そうとするスウォルの前を手で遮り、シェリルが制した。
「待って!」
「え…姉ちゃん?」
その説明をシェリルがするより早く、マベレムギリアは言葉を続ける。
「"否"が二名に対し、"是"が三名。よって──特例を認める」
「チィ…!」
「…」
「んふ…♪」
「ありがとうございます」
舌打ちする者、黙して決を受け入れる者、したり顔で笑みを溢す者、そして深く頭を垂れる者…。
四人がそれぞれの反応を示す中、シェリルは手を下ろしながら、スウォルに語り掛ける。
「"私たちをここに連れてきた事"に対しての採決だよ、今の」
「…そっか。これからだよな…」
スウォルの呟きに応じたかのように、マベレムギリアは宣言した。
「次に──ヤクノサニユからの提言についての審理に移る」
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次回は10月12日19時頃にXでの先行公開を、13日19時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
宣言と共に場の空気が張り詰める中、マベレムギリアに見解を問われたガガーニムは、"個人的には歓迎すべき"と答えた。
それに対し、ロガーメーポは──。
次回「ヤクノサニユという国」




