#102 元老院と使者の本題
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
ガガーニムに促され、一行は元老院の面々に、自らの名と素性を語っていく。
最後に残ったリエネが"ハリソノイア人"だと告げると、場の空気が瞬く間に凍り付いた。
「…なに?」
リエネが語った自らの素性を聞き、マベレムギリアは目を鋭くし、ロガーメーポは驚愕した。
「ハリソノイアだと!?」
「…♪」
リリニシアの告白の衝撃から冷静さを取り戻したクレンは、再び腕の中で楽しげに唇を歪める。
「どういう了見だ、ジスタム!!」
ボォンクレェドは立ち上がり、その大きな体でガガーニムに詰め寄った。
「曲がりなりにも同盟国のヤクノサニユだけならまだしも、ハリソノイア人をこの場に連れ込むだと!?貴様、何を考えている!?」
「…どうか落ち着かれたい、ディアモス卿。本題はここからです」
「ふざけるな!もはや許しがたい…!今すぐにこの場から──」
「ジスタム卿」
追放を命じようとするボォンクレェドの言葉を遮り、マベレムギリアはガガーニムに尋ねる。
「その"本題"とやらで、ハリソノイア人をこの場に招き入れる正当性を訴えられると言うのだな?」
「そう確信しております」
「…よかろう。下がれ、ディアモス卿」
目を反らずキッパリと言ってのけたガガーニムの主張を、マベレムギリアは認めた。
──しかし、今度ばかりはボォンクレェドも退かない。
「何を仰られるのですか!幾度となく我が国に戦火をもたらしたハリソノイア人だと言うのですぞ!」
「然り…!如何にマキュラ卿と言えど、此度ばかりは認められませぬぞ!!」
ロガーメーポも同調し、声を荒げると、ここまで声に出さずにニヤけるだけだったクレンが、声を上げて笑った。
「あは。あはは…!」
「何がおかしい!?貴方はハリソノイア人の侵入までもを是となさるおつもりか!!」
激昂するロガーメーポに、クレンはやはり楽しそうに、笑みを絶やさず答える。
「いやぁ、"同盟国ならともかく"って言うから。ティサン人だったらよかったのかなぁと思って」
「…なに?」
レピが"忘敬者の極致"と例えた、隷我者にとってはある意味、ハリソノイア以上の仇敵と言える国の名に、ロガーメーポとボォンクレェドは一瞬、動きと思考を止めた。
「言われてみれば、確かにティサンは戦火を持ってきた訳じゃないし、ヤクノサニユと同じ同盟国。──私、てっきりお二人はティサンとの同盟なんて望んでおられないのかと思ってたのですけれど…存外、大切にしてらっしゃるんですねぇ?うふっ…あはは…!」
「ぐっ…ぬぅ…!貴様ァ…!!」
これまでの、建前として整えた最低限の礼節さえ捨て、ロガーメーポはクレンを睨みつける。
「…言ったはずだ、メジャルカにまともに付き合うなと」
しかしボォンクレェドは一度、鼻から大きく息を吸い、吐き出すと、至って冷静にロガーメーポを諫めた。
「この場に居もしないティサンのことなど、今はなんの関係もない。論点をずらしているに過ぎん」
「ディアモス卿…。そ、そうですな…」
「へぇ、否定はなさらないんですねぇ」
「黙れメジャルカ。今この場で論ずるべきは同盟の是非ではない。ティサンなど尚のこと」
「ならどうします?また決でも採りますか?連れてきたガガちゃん──じゃないや、ジスタム卿は当然"是"。私も"是"のまま。ってことはぁ、お二人がマキュラ卿を説得できないなら、またお流れになるだけじゃありません?」
クレンはニヤニヤしながらそう言うと、チラリとマベレムギリアを見る。
「…」
「くっ…」
ボォンクレェドも続いて、口を開かず、ただ静かにフヨフヨと宙を漂うマベレムギリアを見ると、顔を背け、歯噛みする。
彼女を翻心させられるだけの"武器"が手元にないことを、よく理解していた。
その悔しそうな表情を見たクレンは、満足げに一行に視線を移し──。
「ふふ…」
「!」
中でもリエネと目を合わせると、"約束通り、私は協力したよ"と言わんばかりに、片目をパチリと閉じて見せた。
それが善意からではなく、彼女自身の目的の為に利用されているという事実を噛み締め、同時に"貴方はどう?"と回答を迫られているように、リエネには感じられた。
──そしてリエネは、現時点でその回答を出せていない。
レピへの相談を決めたリエネだったが、二人で話す機会を作ることが出来なかった。
マベレムギリアの到着、それに伴う会議の開始が想像以上に早かったのは、ガガーニムにとってだけではない。
"昨晩の内に一人で見張るレピと話しておくべきだった"と悔いながら、リエネは小さく頭を下げる。
「…続けよ、ジスタム卿」
ボォンクレェドとロガーメーポの反論が落ち着いたと見たマベレムギリアは、言葉少なに話を戻す。
「承知いたしました。…お二人とも、お願いします」
ガガーニムに促され、シェリルは一度スウォルを見て頷きあうと、一呼吸置いて切り出した。
「…はい。ヤクノサニユ王国はハリソノイアを含む全ての国家に対し、和睦を申し入れます」
「なに…?」
「和睦だと!?」
「バカな、有り得ぬ…!」
マベレムギリアが目を丸くし、ボォンクレェドとロガーメーポも口々に拒絶を示す中、シェリルは努めて冷静に続ける。
「既にハリソノイアとは対話を済ませており、大王ユミーナ様からは前向きなご返答をいただいております」
「…あのハリソノイアが。どうした風の吹き回しだ…?」
"少なくとも、シェリルは何も偽っていない"ことを感じ取り、マベレムギリアは驚きを隠さなかった。
シェリルに代わり、今度はスウォルが答える。
「ユミーナ様は数ヶ月前、当時の大王を討ち、ご自分が玉座に就かれました。彼女は、ハリソノイアを作り変えることが目的だと仰られました」
「どう変えるというのだ」
「信じられないだろうとは思いますが、和睦を打診するより前、俺たち──あ、失礼しました。我々がハリソノイアを訪れた時点で、既に"平和と外交を重んじる政策"を打ち出しておられました」
思わず溢した素の一人称に、ガガーニムは一瞬、顔を顰め、内心ヒヤリとしたが、マベレムギリアは言葉尻を捉えることなく、問い返した。
「平和?外交だと?ハリソノイアがか」
再びシェリルが頷き、答える。
「はい。もっとも、それはあくまでユミーナ様個人のお考えです。言うまでもなく国民からは強い反発を受けておられました」
「…野蛮な連中よ」
ロガーメーポは敢えて、ハリソノイア人であるリエネを視線で鋭く射竦め、国全体を侮辱する。
しかしリエネは、ピクリとも表情を変えず、澄ました顔で頷いた。
「仰られる通りかと」
「ふん…」
反応のなさに、ロガーメーポは不快感を隠さず鼻を鳴らす。
対してボォンクレェドは落ち着いていて、マベレムギリアを納得させる材料を探すべく、話を掘り下げた。
「その野蛮な国民の理解を得られていないのであれば、それはユミーナとやらの妄言に過ぎぬ。前任のように討たれれば、次の王がまた立場を変えるだろう」
ボォンクレェドの言葉を受け、リリニシアはルヴィニケンプからも同じ指摘を受けた事を、改めて思い返す。
そしてその際に交わした問答は、今回も同じ話になることが想定されるとして議場までの道中、一行の中で既に共有されていた。
リリニシアがルヴィニケンプに語ったという答えを、シェリルが繰り返す。
「その危惧はごもっともです。しかしながら、ユミーナ様がご健在の内に他国全てが手を結ぶことができれば、万一ユミーナ様が没されたとしても、後任者にとって強い圧力になる。──すなわち、抑止力を持つことになると考えております」
「ふむ…。単に綺麗なだけの絵空事ではない、と?」
マベレムギリアの問いに頷きながら、シェリルは更に続けた。
「はい。加えて、国民の考えについても、些細ながら変化の兆しは現れております」
「ほう。何故そう考える」
「ユミーナ様の策で、私たちは…魔物を討伐する依頼を請け負いました」
シェリルは当時の──勇者の剣で、初めて命を奪った事を思い出し、少しだけ声を震わせ、剣の柄に指を沿わせながら答える。
「ハリソノイアの防衛線を脅かしていた、強大な魔物でした。そんな魔物を私たちに倒させる事で、国民に"他国と協力する利点"を理解させよう、と…」
「ほう…」
マベレムギリアが興味深げに吐息を漏らす中、スウォルが付け加えた。
「実際、倒した魔物の首を持って帰ったんですが、ハリソノイア人からの扱いは変わったんです。"強いヤツがエラい"って国なのもあって、結果を出した俺たちを認めてくれたというか。…あ、我々を!」
ボォンクレェドが眉根を寄せて呟く。
「首を…なんと悍ましい…」
「ホンットですわぁ…」
リリニシアは深い同意を示すよう、力強く頷いた。
一瞬、苦笑いを浮かべたシェリルだったが、すぐに表情と話を戻した。
「こほん。…こちらのリエネさんは、ハリソノイアではユミーナ様の元へと案内してくれた他、魔物と戦った時にも共同戦線を張り、その後はユミーナ様の命ではなく、ご自身の意思で以降の同行を決めてくださりました。──大切な仲間です」
「ふむ…」
値踏みするよう目を細め、リエネを眺めるマベレムギリアに、シェリルは続ける。
「確かにハリソノイアへの印象は、決してよくないと思います。それで当たり前だとも思います。…ですが、そんなハリソノイアという"森"の中にも、ユミーナ様やリエネさんのような"木"がいて、森を変えようとしているんです」
シェリルは師・グラウムから聞かされ、レピのカロニアに対する態度を咎めた際や、リエネを敵視するラツンジパに対して度々引用してきた言葉を、この場でも繰り返した。
「…」
「ひょっとしたら森に歯が立たず、飲み込まれてしまうかも知れません。けど、試しもしない内から切り捨ててしまうには、あまりに勿体ないのでは──」
「…くだらん!!」
静かに聞いていたロガーメーポが、明確に妨害する意思を持ち、大声でシェリルの言葉を遮った。
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~次回予告~
ガガーニムから使者に対する無礼を咎められながらも、ロガーメーポの舌鋒は鈍ることなくシェリルを糾弾し、そのままマベレムギリアに対し和睦に対する持論を訴える。
次回「一つ目の"決"」




