#101 勇者一行と元老院
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
noteにて、文字数を1/3以下に抑え、かつ「これだけ読めば話が追える」という情報量を目指して本作を要約したあらすじを公開しています。
初めての方はお試しとして、既にお読みいただいている方は復習などに、是非ご活用ください。
https://note.com/miso_soup_er/m/m0e9e0ffa3562
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
ついに集ったマキューロの元老院五名。
一人遅れて、勇者一行を伴い現れたガガーニムへの処遇を巡り、意見は割れた。
そんな中、マベレムギリアはラツンジパに対し、ニオイを根拠に"ルヴィニケンプの親族か"と尋ねる。
「なっ…言われてみれば、このニオイ…!」
「あ…え…っと、そう、です。ルヴィニケンプは、俺の祖母です」
ルヴィニケンプの旧友、ロガーメーポが続いて気付き、目を丸くし驚く中、元老院──そしてマキューロの実質的頂点と聞き、それに違わぬ威圧感を放つマベレムギリアの唐突な問いかけに、ラツンジパは困惑しながら、辿々しく答える。
「ほう…」
マベレムギリアは宙に体を浮かべたまま、卓や一行の頭上をふわりと飛び越えてラツンジパの正面、手を伸ばせば触れる距離に顔を寄せると、力強く目と目を合わせ、尋ねた。
「あやつは息災か」
「は…はい、元気です…」
「で、あろうな。これほど強いニオイを嗅ぐわせているのであれば…ふむ」
オドオドと答えるラツンジパと対照的に、予測していたとばかりの薄い反応を示しながら、マベレムギリアはひとしきりラツンジパの全身を見回して満足げに頷き、再びふわりと、自らが先ほど描いた軌跡を辿るように、元の位置に戻る。
話し掛けられたラツンジパ以外の一行が、宙に浮くマベレムギリアの姿を見て驚きもせず、黙したまま見守ることが出来たのは、ここまでの道中でガガーニムから"風の魔術で自らの身を浮かせている"ことを聞いていたからだ。
同時に、"促された時以外、勝手に口を開かないこと"を求められた。
曰く"何がキッカケで、誰が機嫌を損ねるか分からない"。
元老院に属さない者を六名、会議の場に招き入れ、しかも四名はマキューロ人ですらない。
前提の時点で圧倒的に状況が悪く、これ以上悪化することを防ぐため、とガガーニムは語った。
故に一行は、マベレムギリアが突如、自身らの頭上を飛び越えてラツンジパに顔を寄せた事には流石に驚いたが、声には出さず、耐え切った。
「ジスタム卿、そなたの主張を申せ」
元いた位置から、マベレムギリアがガガーニムに促す。
「承知いたしました。彼等はヤクノサニユ王国が国王、ゼオラジム・ルベス・ヤクノサニユ陛下の命によりマキューロにいらした使者の一団です」
「使者だと…?」
クレン、ロガーメーポと異なり、マベレムギリアと共に事情を把握していないボォンクレェドが、眉尻を上げて問う。
ガガーニムは頷きながら続けた。
「曰く、こちらのお二人は、かの勇者ルベスの剣と盾をそれぞれ受け継いだ、あの"予言の子"であると」
「予言の…では、今身に付けているそれらが…?」
二人自身には興味を示さず、マベレムギリアの代弁かの様に、ボォンクレェドは質問を重ねる。
「あれがルベスの"剣"か…」
シェリルの腰に収まる剣の柄を見つめ、ロガーメーポが呟いた。
「如何にも。お二人とも、名を」
「は、はい。…シェリル・ドラベレアルです」
「スウォル・ドラベレアルです」
二人は名乗り、頭を下げながら、周囲の様子を伺う。
先日のスウォルに対するロガーメーポのように、家名"ドラベレアル"に対する過敏な反応が見られないかを確かめる為だったが、初めて名を聞くマベレムギリア、ボォンクレェドにそのような反応は見られなかった。
「…そしてこちらは、ゼオラジム陛下のご令孫であらせられる──」
続けてリリニシアを紹介しようとしたガガーニムの声を遮り、ボォンクレェドの声が再び洞窟を揺らす。
「王の孫だと!?何故そんな立場の者が使者など!?」
「…リリニシア様、名とご返答を」
「しょ、承知いたしました。──んんっ。お初にお目に掛かります、リリニシア・ルベス・ヤクノサニユと申します。この度はマキューロの元老院たる皆様のお目に掛かる機会を賜り、光栄に存じます」
「…」
先の二人と違い、リリニシアは一度咳払いをしてから、懇切丁寧に、優雅に頭を下げる。
まもなく頭を上げると、無言で睨みつけるボォンクレェドの視線に内心では怯えながらも、それを顔に出さぬよう努め、続けた。
「本来は使者の命、シェリルとスウォルに下されたものでした。しかしながらワタクシ自身が祖父に申し入れ…いわばワガママで同行を希望いたしました」
「…何故、そのような希望を」
「二人は幼き日から、長い時間を共に過ごした友であり、ワタクシは血を分けた姉弟の様に思っております。その二人がワタクシを差し置いて旅立つことは、承服いたしかねましたもので」
「…」
ボォンクレェドに視線で問われたマベレムギリアは、自らの口を開き、リリニシアに尋ねる。
「ゼオラジム王はかつて、我が子夫婦を失ったと聞く。なれば汝が王位継承者ではないのか」
「…流石、博識であらせられますわ。仰る通り、ワタクシの両親は既に──亡くなりました」
「にも関わらず、王は継承者たるそなたの"ワガママ"を認めたか」
「認めさせました。もちろん、祖父が折れやすい様な"言い訳"はワタクシが用意いたしましたが」
「ほう…」
マベレムギリアは前のめりに、"一国の王が、実の孫娘にして唯一の王位継承者を国の外に放り出す"に足る、リリニシアの作った"言い訳"に興味を示した。
リリニシアがチラリと視線を送ると、ガガーニムは頷く。
「一つはワタクシの、生来の性格です。許諾が得られぬのなら、勝手に抜け出して付いていくだろう。それならいっそ、正式に任を受けた二人を"主"、ワタクシを"従"という形で認め、二人に監督させようとした…と言ったところでしょうか」
リリニシアはシェリルとスウォルを手で示しながら語ると、二人共に内心で"自分を監督させようとしたって自分で説明するの、どんな気分なんだろう"と思いながら、ガガーニムの言葉に従い、口をつぐんだ。
「ふむ」
「二つ目が理屈。王位を継ぐとなれば、他国とのお付き合いは必ずついて回ります。そんな椅子に座るのが自国のことしか知らぬ者でいいのか…そう訴えました。そして最後が──能力です」
「ほう、能力」
リリニシアは"ルヴィニケンプに明かした時の反応"を思い返しながら、とっておきの切り札を切る。
「ワタクシが二人の助けになれること、ワタクシ自身の身を守る手段を持っていること──魔術を扱えることを話しました」
「こほっ…!」
リリニシアの想定通り、マベレムギリアは僅かながら確かに目を見開き、同時に驚きから咳き込んだ。
他の面々もロガーメーポを皮切りに、次々に驚きを口にする。
「魔術!?」
「バカな、ヤクノサニユ人が!」
ボォンクレェドも驚愕する中、これまで机に突っ伏したままニコニコと見守っていたクレンは、腕の中に顔を沈め、密かに──二人と同様、"それは私も聞いてないよ!?"と、驚愕を隠せずにいた。
「とはいえ、その時点で扱えたのは初級の"火"と"癒し"だけでしたが…旅の中でこちらのレピさん等からご指導を頂き、今は"氷"と"風"も扱えるようになりました」
マベレムギリアはリリニシアが手で示した先──レピに目をやり、一瞬、迷いを見せたものの、リリニシアへの追及を優先する。
「…何故、ヤクノサニユ人のそなたが魔術を?」
「まさしくお祖父様の"言い訳"を作る為です。二人がいずれ旅に出る事は、ワタクシたちが幼い頃から決まっておりましたので…八年間ほど、独学で学んでおりました」
「八年…ヤクノサニユで…」
リリニシアの想定した通り、マベレムギリアは感心した様子で吐息を漏らした。
ガガーニムがおずおずと割って入る。
「恐れながらマキュラ卿。リリニシア様の仰った"等"のうちの一人がこの私です。僅かな時間、風の魔術を指導いたしましたが、目を見張る成長速度でした。凄まじい才覚の持ち主です」
「ほう…」
ロガーメーポは悔しさを隠さず、吐き捨てた。
「ヤクノサニユ人が魔術など…!」
「…続けてよろしいですかな」
ガガーニムは意にも介さず仕切り直す。
「では、レピ殿」
「はい。…レピ・エルトナです。既にお分かりのことと思いますが、僕はマキューロ人です」
レピが名と素性を伝えると、マベレムギリアは問う。
「殿下は"旅の中で指導を受けた"と申したが」
「はい。個人的な事情でマキューロを離れて旅をしており、その最中で皆さんと出会いました。それから同行させていただいております」
「ほう、事情」
「はい。…"禁じられた魔法"について調べています」
「なに…!?」
レピはチラリとロガーメーポに目をやると、ロガーメーポの方もレピを見つめ、驚いた表情を浮かべていた。
「ムータオヒカ卿もかつて、"禁じられた魔法"の事を調べておられたと伺いました。ぜひ後程、お話をお聞かせいただければと思っております」
「…」
ロガーメーポからすれば、レピは既に"他国人と共に、神聖な会議の場を荒らした重罪人"であり、彼からの目は鋭く、厳しい。
レピも元よりそれを理解しており、動ずることなく受け流す。
「ラツンジパ殿」
敵意を隠さないロガーメーポの纏う雰囲気を変えるべく、ガガーニムは先ほど反応を示した"旧友の孫"を指名した。
「わ、分かりました。…ラツンジパ・ウティムカホア、です」
改めて聞かされた家名に、やはりロガーメーポは反応し、張り詰めた空気は霧散する。
「ウムティカホア…」
「…最後に、リエネ殿」
その反応に、ロガーメーポにとってのルヴィニケンプという存在の大きさを感じながら、ガガーニムはとうとう最後の一人、リエネを名指しした。
それを受けリエネは一度、ゴクリと唾を飲みこみ、緊張した様子で名乗る。
「…はい。リエネ・セキュトノウ。──ハリソノイア人です」
その瞬間、場の空気が凍り付くのを、一行は確かに感じ取った。
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~次回予告~
リエネが"ハリソノイア人"だと聞き、元老院の面々は目の色を変える。
激昂するロガーメーポとボォンクレェドを、マベレムギリアは制する。
次回「元老院と使者の本題」




