第43話 死線
スラッシュと付く技名が多いので、シュレディンガー・スラッシュをシュレディンガー・カットに変更します。
……ネーミングセンスが欲しい。わりと真面目に。
「……だめだ! 分かんねえ! どうやったら相手の剣気を読めるんだ!?」
何度意識をレジーナに向けてもザンには剣気を読み取れない。その事にザンは思わず叫んだ。
「出来なきゃ死ぬだけにゃ!」
「ふふっ、余計な事をする前に殺してあげるわ!」
レジーナが暴威を振るう。マオは何とか初撃を止め、その隙にザンが反撃することで対抗していた。
だが防戦一方。連携でなんとか戦闘を維持できているが、いつ均衡が崩れてもおかしくはなかった。
「勝負って言うのはね、戦う前から勝敗が決まっているのよ。事前に力を付けて準備しておいた方が勝つの。その最たるものが暗殺者よ。勝つべくして勝つ。戦いになる前に殺す。それが出来れば剣頂にだって勝てる!」
レジーナの攻撃がついにマオに届いた。脇腹を斬られマオが顔を歪ませる。
「戦闘中に都合よく成長する事を期待する時点であなた達の負けよ」
痛みに僅かに怯んだマオへとレジーナが追撃を放つ。マオの姿が消えた。シュレディンガー・カットである。
「無駄よ」
「にゃ!?」
見えないはずのマオの攻撃をレジーナが受け止めた。必中といってよいはずの攻撃に対応されたことにマオが驚く。
「実体をなくす剣技のようだけど、剣気を読めば攻撃の位置くらい分かるわ」
マオの奥の手は、レジーナにとっては大した脅威ではなかった。マオが消えるのはマオの攻撃が当たるまで。そして剣気による行動の読みあいはレジーナに一日の長があった。マオがどこを狙おうと鋼化により防御され、命中判定となってしまう。そしてレジーナの間合いの中で攻撃後の隙をさらすことになる。
「まず一匹」
迫る手刀。咄嗟にマオが避ける。しかし無理な体勢で避けたため、二撃目への対応が遅れた。
「全力気合スイング!」
そこへザンが割り込んだ。手刀を横から弾きマオを逃がす。
「助かったにゃ!」
「マオ! やっぱり剣気のコントロールは出来そうにねえ! どうやればいいのかさっぱりだ!」
レジーナがザンに蹴りを放った。そのつま先は速すぎてザンには見えない。そのため今度はマオが割り込んで蹴りを防いだ。
「今できる事で対応するしかねえ。マオ! 十秒だけ一人でレジーナを止めてくれ!」
「十秒も!? 無理にゃ! 死ぬにゃ! 三味線にゃ!」
「一番威力がある技を使う! でも溜めが必要なんだ! それが効かなかったらどの道負ける!」
そう言うと返事を聞かずに剣を振り上げるザン。そのまま剣気を発動し剣に纏わせ、圧縮し始めた。
「ああもう! 仕方ないにゃ!」
レジーナの前に出るマオ。それまでのやり取りは当然のごとくレジーナにも聞こえていた。
「何をするつもりか知らないけど、させないわ!」
「にゃあ!」
シュレディンガー・カットを発動し消えるマオ。だがレジーナには効かない。ゆえにマオは連続して発動した。消えては攻撃してを繰り返す。
「無駄よ!」
相打ちの形でレジーナの貫手がマオの肩を抉った。一方マオの爪は鋼化に止められたためレジーナは無傷である。
「マオ!」
その間にもザンは剣気を溜めていた。全力気合砲の準備である。その数秒の溜めの間ザンは動けない。助けに入る事は出来なかった。
まだ残り七秒もある。レジーナがザンに迫った。それを追いかけ背を斬り付けるマオ。しかしレジーナの後ろ蹴りにより吹っ飛ばされた。
「これで終わりよ」
無防備なザンへと、レジーナが手刀を向けた。
突如、どこからか飛来した斬撃がレジーナに直撃した。
「掛かれー!」
号令が響き渡った。そして一斉に放たれる剣技。その剣技は全てレジーナに向けられていた。
とっさに周囲を見回すレジーナ。そしていつの間にか討伐隊に囲まれていることに気付く。盗賊を全滅させた彼らは、本気を出したレジーナの気配を察知し集結していたのである。
マオとザンを圧倒するレジーナ相手に並の剣士が介入したところで、邪魔になるのは目に見えていた。ゆえに彼らは気配をひそめ、戦いを見守っていたのである。
「なんとしてでも女を止めろ! 少年の邪魔をさせるな!」
近づけば人質にされる可能性もある。ゆえに彼らは遠距離剣技を一斉に放った。無数の斬撃がレジーナに向かい爆発が起きる。
「ちょっと! 服がメチャクチャじゃない!」
土煙の中から酷い有様で出て来るレジーナ。しかし体の方は無傷だった。レジーナが討伐隊に斬撃を飛ばす。それだけで十人余りが斬り飛ばされた。
その惨状に目もくれずレジーナがザンへと突進した。生き残った討伐隊がそれを止めに入る。
ここが雌雄の分けれ目と剣帝クラスに無謀な突撃をする討伐隊。戦力差は歴然。剣士が束でかかっても剣帝には勝てない。しかし、唯一の勝機を逃がさないために、彼らは体を張って時間を稼いだ。
「邪魔!」
レジーナが回し蹴りを放った。右足を横に薙ぎ一回転。近くにいた剣士は胴を断ち斬られ全滅した。残り三秒。
「に゛ゃあ゛あ!」
マオがレジーナに斬りかかった。しかしカウンターを受け左胸から血が噴き出す。斬り飛ばされたマオは背中から地面に激突した。
残り二秒。もうザンを守る者は、いない。
溜めは不完全。レジーナは待ってくれない。ザンはそのまま全力気合砲を放つことを決心した。威力に不安は残るが、やむを得ない。
剣にチャージした剣気を一斉に放出するのが全力気合砲。直撃すれば剣王でも一撃で倒せる威力がある。しかし放てば最後、気力が枯渇しザンは動けなくなる。外せば負けが確定する最後の切り札である。
射線上に味方が倒れているが問題はない。全力気合砲はザンが狙った相手にしかダメージを与えず、それ以外はすり抜ける。ザンはレジーナへと狙いを定め、剣を振り下ろした。
「全力気合ほ――」
「縮地!」
レジーナが消えた。今までのどの高速移動よりも上の、時間をも置き去りにする速度であった。
レジーナは一瞬で距離を詰め、ザンを袈裟斬りにしたのだった。




