第三話
少女が外に飛びし、中型を誘導してから既に30分は経過している。中型は完全に彼女を標的と捉え、彼女の思惑通りに追い続けて来ている。
「ここまで離れれば問題なさなそうね。」
既に先程の建物からは十分離れ、大きな広場付近まで逃げてきた。少女は深く深呼吸をし、魔法を発動しようとしたその時だった。
突如、中型が頭を低く構えた。
次の瞬間、爆発が起きたような勢いで、地面を後ろ足で蹴り、少女へ向かって一気に突進してきた。
「残念だけど、こっちは既に準備が出来ているわ」
少女はその場に立ち止まる。それと同時に身体から魔力が溢れて、白く発光する。右手を突き出すと、足元に白い光の円が広がり、そこから二本の光が地面を這うように伸びていく。
光は突進してくる中型の左右の前脚へ絡みつき、そのまま太い帯へ変わった。そして、その帯の端を固定するように、魔獣の両脇へ光の杭が打ち込まれる。
一瞬で帯が張り詰めた。それにより、中型の身体が急ブレーキをかけたように減速し、勢いを殺しきれなかった巨体が前のめりになる。
「このまま……!」
少女は右手で拘束を維持したまま、左手を頭上へ掲げた。中型の頭上に光が集まり始める。
最初はただの光の塊だったそれが、少しずつ細長く形を変え、やがて巨大な槍の姿になった。先程、小型に放ったものとは比べものにならない魔力量だ。拘束した状態で、あれを撃ち込むつもりらしい。
だが、中型もただ黙って待っているわけではない。
低い唸り声を上げながら、拘束された前脚を力任せに持ち上げようとする。それでも、光の杭もそれに繋がる光の帯も耐える事が出来た。
だが、このままではその杭が打ち込まれている地面がもたない。石畳がひび割れ、一方の杭が少しずつ傾き始めた。
「まずいな……」
広場の外れにある崩れかけた建物の陰から、中型と少女の戦闘を眺めていた俺は、思わずそう呟いた。
中型がさらに一歩踏み出す。光の帯に引っ張られ、少女の身体が前へずれた。杭の力が弱まり、少女への負担が大きくなっているのだ。中型の頭上の作りかけの光の槍も大きく揺らぐ。
拘束を維持する方へ力を割かれ、あの攻撃魔法にまで回せなくなっている。あんな大きな2つの魔法に同時に力を割いていたら当然と言えば当然だ。
すると、中型がさらに一歩踏み出した。それに伴い、光の帯も引っ張られ、少女の身体が前へずれた。同時に、頭上へ作りかけていた光の槍が徐々に形を崩しつつある。
(このままでは押し切られる)
俺は近くの瓦礫の陰に身を伏せ、両肘を地面につけて拳銃を構えた。この豆鉄砲の弾丸を、あの分厚い殻に正面から撃ったところで、大した傷にはならない。なら、狙う場所は一つだ。右目の下から口元へ伸びている、すでに壊れた殻の隙間だ。
呼吸を整える。中型が頭を振るたび、傷も左右へ大きく動く。
標的が動く上に、明らかにこの銃の射程外だ。だが問題はない。そこは俺の力で補完できる。焦らずに、撃てる瞬間だけ狙えばいい。
弾はあるが、状況的に撃てるのは二発が限界だろう。俺は慎重にその時を待つ。
「......今!!」
その狙いが射線に入った瞬間、俺は引き金を引いた。発射された弾丸が中型の顔の裂け目へ吸い込まれ、着弾と同時に爆発を起こす。その衝撃で中型の頭が横に跳ね、黒い液体が飛び散る。
中型が苦しげに吠え、こちらへ顔を向ける。その動きを追いながら俺は二発目を撃った。それは、一発目と同じ場所に着弾し、またも傷口で爆発が起きる。
顔の傷を立て続けに攻撃されたことで、中型の注意が完全にこちらへ向いた。
「そう、それでいい」
少女へ向かっていた圧力が緩む。当然、少女もその隙を逃さなかった。
右手を開き、そのまま外側へ大きく振るう。二本の光の帯が中型の前脚を左右へ引き開き、踏ん張りを失った巨体が前へ崩れた。
胸から落ち、頭が大きく下がる。完全な無防備な状態だ。
「そこ!」
少女が左手を振り下ろす。それと同時に、俺は遮蔽物に再び身体を隠した。
頭上で形作られていた光の槍が、俺が狙った傷のある顔の部分に目掛けて一直線に落下する。そしてそのまま、白い光は中型の顔全体を押しつぶすようにめり込んでいく。
「はああああ!!」
少女の身体から一気に魔力が噴き出し、槍の力が増していく。次の瞬間、中型の傷を中心に顔全体にひびがはいり、そこから光が噴き出していく。
それと同時に中型が大きく口を開き咆哮する。
「グガァァァァァァァァァァァ!!!!」
しかし、その咆哮は最後まで続かなかった。侵食した光が内側から身体を崩壊させていき、中型の頭部がザクロの実のように吹き飛んだ。前脚から力が抜けていき、巨大な身体から徐々に勢いがなくなっていく。そして、光の槍が消えると同時に抵抗を放棄するかのように動かなくなった。
しばらくすると空気の振動が無くなり、俺は遮蔽物から身を乗り出す。
「.....やったのか?」
ここからは巨大な中型の身体は見えるが、あの少女の姿は見えない。俺が中型に向かって歩いていくと、少女はまだ光の帯を解除せずに中型の拘束を続けていた。十分に距離を取りながら慎重に様子を見ている。
まだ、警戒をしているのだろう。だがすでにこいつからは魔力反応はない。
俺が声をかけようとしたその時に、少女はこちらに気づき、右手を下ろした。すると、前脚を縛っていた光の帯が消え、地面へ打ち込まれていた杭も淡い粒子となって消えていく。
顔を上げた少女の目と俺の目が合う。
彼女は何も言わず、一度だけ頷いた。俺も拳銃を下ろしながら、それに頷き返した。




