7・慰労会にて
学園でパーティが催された。
長期休暇前の慰労会のようなもので、毎年恒例の行事だ。貴族の皆様はもちろん、平民クラスの我々も参加可能だ。
もちろん礼装参加。用意できない平民は制服である。私は以前叔母様が作ってくださったドレスを着る予定。
その予定であった。
慰労会当日、会場では皆、ある女性を見て驚愕していた。そう、ソニアお姉様だ。
なんと、お姉様が!
「おい、ソニア嬢が」
「なんてこと、ソニア様が」
「「「普通のドレスだ」」」
皆、口がぱっかーんと開いたままだ。紳士淑女どこいった。まあ、それほど衝撃だったようだ。わかる。
お姉様は、私用に作った青いドレスを着ている。本人は少々不満げではあるが。
話は少し前に戻る。
この慰労会は、あくまでも学園の行事の一環である。そのため、衣装などの仕度は学園で行うのだ。そう、自宅の呪いは強烈だ。でもここ学園ならまだ大丈夫かもと、我々はミッションをスタートしたのだ。
「あ、あの、ソニア様」
先程隅でジャンケンに負けた令嬢が、静々とソニアお姉様に声をかけた。先程隅で、ちっくしょーとか叫んでいたけど。
「あの、今日のドレスも素敵ですわね」
後ろで仲間が小声で指示を出している。もっと具体的に聞けとか言ってる。少し待ってやれよ。
お姉様は潤んだ瞳で、持っていた扇子を少し広げて口元に当てる。
「まあ、お褒めいただき、嬉しく思います。ですが……地味じゃありませんこと?」
「「「いえいえいえ」」」
全員が首と手を横に振る。
「皆様、そんな気を使わなくてもよろしいのですよ。実はこのドレスは……」
皆、息を呑む。
「妹がどうしても、お姉様のドレスが欲しいと言って……」
全員の呼吸が止まった。
「最近、妹が何でも欲しがるのです。お姉様の衣装が欲しい。羽が欲しい。トサカが欲しいと」
超高速でみんなが私を見た。
私の今日の衣装は、姉がこの日のために用意した、とっておきのものだった。
赤と金の横縞のドレス。銀と黒の左右別々の色の羽。そして当社比1.5倍の真っ赤なトサカ。それを、私が装着しているのだ。血の涙を流しながら!
姉は、欲しがり妹にみんなとられちゃったのーって顔しているけど、そんなことねえ!お前を守っているいいやつだぜって、みんな、そう目で語ってくれてる。中には泣いてる人もいた。
みんな、わかってくれて、ありがとう!今、我々は一つになった!
だが、そんな空気の中で、違う動きをする者もいる。
姉に近づいてきたのは、三人のご令嬢。確か名前はバネッサ・モラレス侯爵令嬢だったか。彼女とその取り巻き二名様である。
「ごきげんよう、ソニア様。まあ、その衣装……」
バネッサ嬢は姉のドレスをじっくり見ていた。そして、
「そのドレス、とてもよろしいですわね。前から思っていたのです。あなたには青がよくお似合いですわ」
「そうでしょうか。私には地味ではないかと思っていたのですが」
「たまには冒険も必要でしてよ」
「そうかしら」
お姉様がおしゃれトークを楽しんでいる。すごい。
そっか。バネッサ嬢は、純粋におしゃれが好きな人だったのか。
だが、彼女の取り巻きの一人が、
「ですが、いつものドレスのほうがお似合いでしてよ」
と、さらりとディスった。
考えて欲しい。
今の姉は、普通である。そんな正常な状態の衣装の姉を褒めるのは、通常の感性の持ち主である。
もしもそれを違うと言うものがいたら、それは。
「みーつけた」
そう、呪った奴である。
私はポケットから取り出した当社比2.5倍のトサカを、彼女の脳天にペターンと貼り付けた。かなり強力なのりって聞いたけど、ま、いーか。
「な、何をなさいますの?」
令嬢はトサカを剥がそうとするけど、それ、取ると痛いよ。
「ああ、髪に張り付いて、いた、いたたた」
「ダメですよ、剥がしちゃ」
「なんとかしなさいよ!」
「もちろんです。それではよろしくお願いします」
私が手を叩くと、奥からトビア氏とアラン先生がやってきた。
「みんな離れろ」
アラン先生に言われて、皆彼女から離れた。そしてトビア氏が持っていた杖で、彼女の頭のトサカにふれる。
途端に雷のような光が走った。皆、悲鳴をあげて更に離れる。だが、様子が気になるのか視線ははずさない。
彼女はガクガクと震えると、その場に倒れた。
「よし、もういいな」
トビア氏はようやく杖を離して、ソニアお姉様を呼んだ。
「何でございましょう?」
「ソニア嬢。君の妹の衣装、どう思う?」
「えっ?」
姉は怪訝そうな顔で私を見て、そうしてトビア氏にはっきりと告げた。
「あまり良いセンスではございませんね」
「「「えーっ!!」」」
(意訳:その服だっさ)




