8・別れとはじまり
姉の呪いが解けると同時に、侯爵家の皆様全員の呪いも解けた。
呪いが解けて自分の衣装に気がついた両親は、運良く気絶した。そして運良く自宅にいたため、使用人が一丸となって、意識が戻る前に着替えさせた。
そして忌まわしい服を全て隠して、何事もなかったようにお世話した。
「何か悍ましいものを身に纏っていたような……」
「夢でございます」
「赤いトサカの」
「夢でございます」
ナイス執事。
実は、事前に使用人達には、今回の作戦のことを話しておいた。もしも呪いが解除されたら、すぐに普通の服に戻すようにと。その為にトビア氏から、気を失う薬も貰っていた。
ちなみに使用人も、以前から彼らを助けようとすると、呪いに巻き込まれるのは身をもって知っていたらしい。時々トサカをつけたメイドが歩いていたもんな。
だからこそ、無の境地でお仕えして、呪いに対処していたのだという。
よっ、使用人の鏡、である。
そして、姉のセンスが戻った事件は、国中に箝口令がしかれることになった。
まず、彼らに真実は言えない。言ったら『お前んち、ずっと変な衣装で外を歩いていたんだぜ』ってばらすことになる。それは、お願いそれだけは、やめてあげて……。
呪った犯人は、まあ名前は知らんけど、やっぱり王子の婚約者候補の一人だった。
自分が王妃になるために、候補者全員呪っていたらしいが、効果が出たのがバルディーニ侯爵家だけだったらしい。何その運の悪さ。
「呪うのはけっこう難しいんだぞ」
そう言うのは、トビア氏だ。
今、我々は神殿の彼の部屋で、お茶を飲んでいる。今回のお疲れさん会である。
「そういえばどうして呪いに、トサカが使われたんでしょうね?」
「あれは逆だ。呪いを祓うために、トサカが使われていた」
「どういう意味です?」
トビア氏が『呪いQ&A』を見せてくれた。闇魔法の一部の記述を示す。
「呪いの原動力である闇魔法は、基本『夜』を示す。その夜を祓うものは」
「朝ですか?」
「そう。その朝を呼ぶものが『ニワトリ』だ。恐らく侯爵家の皆は、無意識に魔を祓おうとしていたんだ。それが表面に現れていたと」
「それがトサカですか。あいつ一応仕事していたんですね」
「あと、羽もな。効果はゼロだったが」
絶対、逆効果だったよな。というか、
「無意識にそれをチョイスする時点で、お姉様はセンスがないのでは?」
「それを言ってはいけない」
お姉様、すまぬ。
「犯人は、一人でやっていたんですか?」
「本人はそう言うが、多分家族は知っていたと思うぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。家に行ってみたが、酷い有り様だった」
彼女の部屋は、真っ黒だったらしい。そして扉を開けると、黒い粉のようなものがこぼれてきたのだという。
その粉は風もないのにふわりと舞い上がり、そのまま消えていくのだと。その粉はどこへいったのか。どこに溶けたのか。
「呪いには代償がいる。まあ、買い物したら金を払うのと一緒だな。今までの分、払い終えていればいいけどな」
「何で払っていたんでしょうね」
「さあな。寿命か生贄か。そこまで面倒は見切れねえよ」
呪いの代償か。
代償と言えば、私にもそれがな。
「お姉様の衣装を通常のものにしておいたおかげて、呪われていたことがお姉様にばれずにすんだのですが」
「それはよかったな」
「よくないですよ。姉は私が着ていた衣装を見て『お前のセンス最悪だな』って、思っちゃいまして。しかもなぜか、お屋敷に隠してあった今までの衣装も、すべて私が作らせたものだって話になりまして。世話になってるくせに、金遣いの荒い、酷い妹だと言われるようになりましたよ」
姉のものを奪う妹ってのもあったな。
「おかげで寮暮らしになりました。もうあの家には、いられないです」
箝口令があるから、誰もお姉様に真実は告げられない。
でも、それでいいんだ。あの家族が幸せなら。
ずずずと音を立ててお茶を呑む。お菓子も食べる。あ、これ美味しい。
「お前は優しいなあ」
「侯爵家の皆さんには、お世話になりましたからね。これくらい当然ですよ」
「これからどうするんだ?」
「予定通り就職を目指します。コネがありましたら、よろしくお願いします」
「任せておけ」
結局お姉様は、王妃にはならなかった。
実は王子の野郎、好きな子がいたんだって。隣国の公爵令嬢で、国同士のあれやこれやがあって、なかなか結婚できなかったらしい。
隠れ蓑に、お姉様のドレスセンスネタを使っていたようだ。あいつ、呪いてえ。
お姉様にも良いご縁があるようで、目下そちらも調整中である。
私はと言うと、王城で就職が決まった。身をもって姉を庇った功績を評価されてのことだというが。
結局がんばって魔力とかの勉強したけど、成績は普通程度だったし。だとしたら、いいとこ就職出来たと前向きに考えよう、うん。
卒業するとき、叔父様が訪ねてきてくれた。
「本当に、すまない」
叔父様だけは、呪いのことを聞いたようだ。でも真実を、家族に告げることは出来ない。仕方ないよね。
なんとか話を調整して、私のセンスのなさを知りつつも、叔父様が調子に乗ってドレス作ってあげちゃったとかなんとか……にする方向だそうな。せめて散財説は否定の方向にしてくれると助かります。
それでも、お姉様や叔母様に会ったら『このセンスなし散財娘』とか言われるんかな。泣いちゃうな。
でも、叔父様がわかってくれているなら、いいや。
「叔父様や皆様には本当にお世話になりました。だからご恩返しが出来て、私すごく嬉しいんです」
「ありがとう。何か困ったことがあったら、何でも言ってほしい」
その言葉が、本当に嬉しかった。
*****
そして、今。
「どうして私はここにいるのでしょう」
「ここが仕事場だからだ」
そう、私の職場は王城のはずだったのに、なぜか神殿のトビア氏の部屋にいるのだが。
「お前はどうして自分が呪いにかからなかったのか、考えたことがあるか?」
「たまたま?」
「んな法則あるか。お前は呪いに干渉されにくい体質なんだろう。多分?」
「そんなアバウトな」
「だから、助手になっただけだ」
「お城仕事がこっちですか?」
「俺の助手だから、こっちでいいんだ」
「はあ」
私の仕事は、トビア氏の助手となった。魔法も普通程度は使えるようになったから、なんとかなるか。
「……王の『訳あり』の助手なんだから、王城の仕事だろ」
トビア氏がなんかぼそぼそ言ってる。
「なんか言いました?」
「いや別に」
「まあいいや。とりあえず、よろしくお願いします」
「おう。まずは裏の列の整理からだな」
「出待ち・入り待ちのご令嬢、戻ったんですか?」
「トサカ姿も素敵ねってことになった」
「よかったですね」
「サクラを入れて、洗脳させた」
「やっぱあんたサイテーだな」
ちなみにこのサクラがトサカからヒントを得て、頭に小さな冠や帽子をつけるブームを巻き起こすのだが。
それによって、お姉様と和解するまであと少し。
おしまい
読んでくださり、ありがとうございました。




