5・副神官長のお宅探訪
今私は、馬車に乗っています。
先程神殿裏から出た途端、窓から顔を出して、堂々と身バレしたアホと一緒の馬車です。バレないように、そっと出ていく手順でした。咄嗟に身を隠した私を、後で褒めてあげようと思います。
そしてここは、侯爵家の前です。正面玄関から少し離れた所に馬車を停めて、様子を伺っています。
「お前、さっきから何ブツブツ言ってんの?」
「現場から中継を……」
「意味のわからんことを」
「私もわかりません」
動揺して、意味不明な行動をとってしまった。
「んで、隊長、お屋敷見てどんなもんです?」
相変わらず、侯爵家のお屋敷及び周辺は、どおおおおおんとした雰囲気に包まれている。お屋敷とか芝生とか、近所のネコまで真っ黒だ。ネコは可愛いから許す。
「私には、どおおおおおんとして見えるんですけど」
「なんだそら。ほら、入るぞ」
「ええっ!まさかのお宅探訪?」
「中を見ないと意味ないだろ?」
私がアワワしているうちに馬車は動きだして、お屋敷の玄関前に到着してしまった。
トビア氏がさっさと馬車を降りる。来客に気がついた執事が玄関に現れて、彼を迎えた。
「恐れ入りますが、お客様は……」
「ご、ごめんなさい、私のお客様なの!」
私も慌てて馬車から飛び降りて、執事に走り寄った。
「アメリアお嬢様?」
「これは、急に来訪いたしましたことをお詫びいたします。私、神殿の副神殿長のトビアと申します」
あ、なんか光線でた。何割かイケメン率アップさせた。執事の後ろにいたメイドさんが倒れて、執事もなんか、ときめいている。
「あ、光線出しすぎた……さて、本日は、アメリアお嬢様の魔法の授業の一環で、こちらに参りました。入ってもよろしいですか?」
「……はいっ♪」
執事の声が裏返ってる。両手を組んで、片足横にちょいとあげてる。背景にハートも見える。この人強面でちょっと苦手だったけど、どうしよう。今度顔見たら、思い出して吹き出しそう。
とりあえず、応接室に案内してもらった。その間も、トビア氏はさりげなく辺りを見回している。お茶のご用意をと執事が部屋を出ていき、ようやく息を吐き出す。
「寿命、縮まりそう」
「もったいないですねえ」
「誰のせいだと思っているんです?」
「呪いのせいだろ?」
「あ、そうだった。なんか目的変わってた。で、どうです?」
「せっかちだなあ。本人に会わないと確信は持てない」
「そっか。あ、今日ご家族皆さんお屋敷にいたはず……」
コンコンと、ノックの音が響いた。
「どうぞ」
部屋に入って来たのは、ワゴンを引いたメイド。そしてその背後には、カーニバルの群れが潜んでいた。
「これはこれは、副神殿長、ようこそお越しくださいました」
叔父様を筆頭に、叔母様とソニアお姉様が入って来た。
全員真っ赤な服で。もちろん羽とトサカもある。
羽は全員金色で、トサカは叔父様は赤、叔母様はピンク、お姉様は銀だった。
ゴージャス一家の降臨だーっ!
のおおおおおおおおっ!
「急に訪問致しまして申し訳ございません。私、副神殿長のトビアと申します。いやあ。素敵なお宅ですなあ」
「いやあ、お褒めいただき、恐縮です」
はっはっはと、二人が楽しそうに笑いながら、握手を交わした。そのままソファに腰掛け、みんなで普通にお茶した。お菓子が美味しかった。
「それではこれで、失礼いたします」
「またお越しください」
トビア氏は、お茶請けのクッキーをお土産に貰って、うきうき帰っていった。
美味しかったんだって。真っ黒なクッキーだったが。
……あいつ、ドレス屋さんと一緒で、呪い受けていたよな。
副神殿長って言ってたけど、完全に呪いに引っかかっていたよな。それに、
「素敵なトサカですねえ」
「そうでしょう。お一ついかがですか」
「え、いいんですか?光栄です!」
って、真っ赤なトサカつけて帰っていった。
大事なことなので、もう一度。
めちゃモテる男が、頭にトサカ付けて帰っていった。
ファン、目を覚ましてくれっ!




