3・普通のドレスを買いに行く
学年が上がると、高位貴族と触れ合うことも増える。
基本成績でクラスがわかれるけど、平民はずっと同じクラスだ。結局はおまけだからね。
でもこの学園にいる間にしっかり学んで、こっそりコネを作って将来雇ってもらえるように、今のうちにやることやっとく必要があるのだ。がんばる、私。
ソニアお姉様は私より二歳年上で、同じ学園に通っておられる。もちろん制服だ。安心安心。
お姉様は基本おっとり美女で、なかなか人気もある。ただ、例のセンスについてはいろいろあって、そこは禁句ワードになっている。侯爵家といえば上位貴族だからね。みんな絶対言えないのだ。
バルディーニ侯爵家にご厄介になっていると言うと、皆微妙な顔をするので、困っている。
同じクラスの子達も噂は知っていて、平民だからけっこう直球で聞いてくる。
「ねえ、なんであんな変な色の服を着るのよ」
「私もそれが聞きたい」
「あんたもいつか着るの?」
「やめて、考えたくない」
「貴族って、謎ね」
「わかる」
早くおうちに帰りたい。
ある時、私もドレスを作ってもらえることになった。
普通は『いやいや。私なんぞ、お姉様のお下がりで……』とか言うんだろうけど、それ金色確定やんけって気がついて、ただ頭を下げるしかなかった。言葉は難しい。
ドレス屋さんが来てくれるってお話だったけど、私は自分でお店に行きたいと話した。普通は貴族様がわざわざお店に足を運ぶことなんてないだろうけど、ぶっちゃけお店のほうが話しやすいと思ったの。
学園の帰りにお店に寄った。帰りは馬車でお迎えにきてくれることに。付き添いは断った。
「アメリア様、ようこそお越しくださいました」
「本日は、よろしくお願いします」
ドレス屋さんオススメのデザインや生地を見せてもらったんだけど、むっちゃ普通のものを勧めてくる。思わず聞いてしまった。
「あのー、侯爵様んちの服なんですけど……」
「うえっぷ」
ドレス屋さんが、むせた。
「あれ、あなたの趣味の服……」
「な訳ないです!」
「デスヨネー」
食い気味に反論されてしまった。
「それなら、あれは皆様の趣味……」
「以前はそうではなかったのです」
「え、そうなんですか?」
「はい、常識とトレンドに流された、ごく普通のドレスでした」
「なぜあの様な色に」
腕を組んで唸る私に、ドレス屋さんがスケッチブックを見せてくれた。表紙には『ソニア・バルディーニ侯爵令嬢』と書かれてある。めくるとそこには、可愛い色の華やかなデザインが多種多様に描かれていた。
「かわいい。これ、お姉様によく似合うと思うわ」
「私もそう思います」
色合いや、背の高さから見て、まだ幼い頃のものだろうか。
「どうしてあんなダサいお姉様になってしまったの」
「いつもお屋敷に呼ばれる度に、今度こそは正直にお話して、ちゃんとしたドレスを作ろうと思うのです。ですが、不思議なのです」
「というと?」
「なぜかお屋敷に着くと、ソニア様達が語るデザインや色がとても素晴らしいものに思えてくるのです。それでお店に帰ってきてデザイン画を見て、膝から崩れ落ちるというのを毎回繰り返すという」
確かにあのお屋敷の雰囲気だけで、何かに染まりそうにはなるわね。
「そこまでいくと、呪いみたいね」
「呪い……」
二人で目を合わせる。
「「そーか、呪いかっ!」」
私達は、両手で硬い握手を交わして、ハグもした。
「謎が解けた〜!」
「よかったあ〜」
おめでとう、我々。良かったな、我々。
「で、どうすればいいのでしょう」
「そうね」
呪いってどうすればいいのかしら。
「アメリア様はなんともないのですよね」
「そうなのよ。私の感性は多分普通だと思うのよ」
「そうですね。前回のデビュタントのドレスも普通でしたし、今回のドレスも普通ですし」
「普通普通言われると、なんか切ない」
仕方ないわ。庶民だし。
「アメリア様は確か魔法を習っておられるのでは?」
「そうだったわ。明日学校で先生に聞いてみます」
とりあえず自分の分の、普通のドレスを注文した。




