第七十三話 帰る場所
地方都市。
悠真が選んだ活動拠点は、
町外れにある古い一軒家だった。
正確には。
古い家と、
少し広めの土地。
長い間、
使われていなかった場所。
建物は古い。
壁には傷があり、
庭も荒れている。
しかし。
悠真は気に入っていた。
「ここなら。」
「好きなようにできる。」
必要なのは、
最初から完成された場所ではない。
自分たちで作っていける場所。
それだった。
◇ ◇ ◇
「ぷる!」
家の中を跳ね回るポム。
部屋を確認するように、
あちこちを移動している。
「気に入ったみたいだな。」
悠真が笑う。
ポムは窓際へ移動する。
その先には、
まだ何もない庭。
「ぷる……。」
「これからだな。」
悠真は頷く。
「畑も作れる。」
「作業場も必要だ。」
「少しずつ整えていこう。」
◇ ◇ ◇
「本当に良い場所ですね。」
小さな羽音。
庭に降り立ったのは、
リルだった。
落ちこぼれフェアリー。
以前なら。
誰にも選ばれなかった存在。
しかし今は。
悠真と共に、
新しい場所へ来ている。
リルは土に触れる。
「この土地なら……。」
「薬草を育てられます。」
「少し環境を整えれば。」
「普通では育たない種類も可能かもしれません。」
悠真は頷く。
「頼めるか?」
「はい。」
リルは嬉しそうに笑う。
その表情を見て。
悠真は思う。
少しずつ。
この場所は変わっていく。
◇ ◇ ◇
夜。
新しい家での初めての食事。
豪華ではない。
簡単な料理。
でも。
以前とは違った。
静かな部屋。
小さなスライム。
小さな妖精。
そして。
悠真。
一人ではない。
「……。」
悠真は不思議な感覚を覚える。
昔なら。
一人でいることが当たり前だった。
誰かと暮らすなんて、
考えもしなかった。
しかし今は。
帰る場所がある。
「悠真さん。」
リルの声。
「どうした?」
少し迷った後。
リルは尋ねた。
「私は……。」
「ここにいていいんでしょうか。」
悠真は目を瞬かせる。
「何を言ってるんだ?」
リルは俯く。
「私は契約魔物です。」
「役に立つから。」
「必要だから。」
「一緒にいるんですよね?」
悠真は黙る。
リルの声には、
不安があった。
嫌われることへの恐怖ではない。
必要とされなくなることへの恐怖。
「私……。」
「昔から、誰にも選ばれませんでした。」
「魔法も弱くて。」
「戦うこともできなくて。」
「役に立たないって。」
「そう思われていました。」
悠真は静かに聞く。
「だから。」
「今でも少し怖いんです。」
「いつか。」
「もっと役に立つ存在が現れたら。」
「私は……。」
「必要なくなるんじゃないかって。」
その言葉を聞いて。
悠真は理解した。
リルが欲しかったもの。
それは。
力ではない。
居場所だった。
「リル。」
悠真が呼ぶ。
「俺がお前を仲間にした理由を覚えているか?」
リルは顔を上げる。
「薬草が作れるから?」
「錬金術ができるから?」
悠真は首を振る。
「違う。」
「一緒にいたいって言ってくれたからだ。」
「助けたいと思ったからだ。」
「能力じゃない。」
「リルだからだ。」
静かな時間。
ポムが小さく揺れる。
「ぷる……。」
リルの目に涙が浮かぶ。
「……私。」
「ここにいていいんですね。」
悠真は頷く。
「ああ。」
「ここは俺だけの場所じゃない。」
「俺たちの家だ。」
その瞬間。
リルの契約紋が淡く光った。
【契約情報】
【対象:リル】
【信頼度】
【99%】
リルが驚く。
「まだ……。」
「100%ではないんですね。」
悠真は少し考える。
「たぶん。」
「最後の一歩は。」
「俺が決めるものじゃないんだ。」
リルは静かに悠真を見る。
そして。
小さく笑った。
「……はい。」
「私自身が。」
「ここにいたいと思うこと。」
「それが大切なんですね。」
翌朝。
リルは庭に立っていた。
荒れた土地。
何もない場所。
でも。
ここから始まる。
「悠真さん。」
「この場所を。」
「帰ってきたいと思える場所にしたいです。」
悠真は笑う。
「ああ。」
「一緒に作ろう。」
その瞬間。
契約紋が大きく輝いた。
【信頼度】
【100%】
【関係変化】
【契約魔物】
↓
【家族】
リルはしばらく、
その表示を見つめていた。
「家族……。」
初めて聞く言葉。
でも。
不思議と。
胸の奥が温かくなった。
ポムが元気よく跳ねる。
「ぷる!」
小さな家。
荒れた庭。
まだ何もない土地。
しかし。
そこには確かに。
始まりがあった。
誰にも必要とされなかった妖精は。
初めて。
帰る場所を手に入れた。
そして。
この小さな場所は。
数年後。
世界を支える拠点へと成長していく。




