第七十二話 それぞれの道
卒業から数日後。
探索者協会本部。
多くの新人探索者たちが、
新しい装備を受け取り、
新しい仲間を探していた。
その中でも。
一際注目を集めている人物がいた。
藤堂漣。
「藤堂さん!」
「スポンサー契約、本当に決まったんですね!」
「新人で専属装備まで用意されるなんて凄いです!」
周囲から声が掛かる。
漣は少し困ったように笑った。
「大げさだろ。」
しかし。
本人も理解していた。
これから自分は、
多くの人に見られる立場になる。
期待される。
結果を求められる。
その責任を。
漣は受け入れていた。
「やることは変わらない。」
「ダンジョンに潜って。」
「強くなるだけだ。」
◇ ◇ ◇
同じ頃。
国立魔法研究機関。
白石雪乃は、
大量の資料を前にしていた。
「この魔力制御……。」
「ここまで効率化できるんですね。」
研究員が驚いた表情を浮かべる。
雪乃の支援魔法。
それは単純な回復能力ではない。
仲間の魔力消費軽減。
身体への負担軽減。
長時間探索を可能にする補助。
多くの可能性を秘めていた。
「白石さん。」
「あなたの研究は、多くの探索者を救うかもしれません。」
雪乃は少し照れながら笑う。
「私は……。」
「ただ、誰かが無事に帰ってこられるようにしたいだけです。」
◇ ◇ ◇
そして。
地方へ向かう列車。
悠真は窓の外を眺めていた。
都会の景色が、
少しずつ遠ざかっていく。
膝の上には、
一冊の古びた研究日誌。
アステルから託されたもの。
そして。
隣には。
小さなスライム。
「ぷる。」
ポムだった。
「楽しみなのか?」
悠真が聞く。
「ぷる!」
ポムは元気よく跳ねる。
悠真は微笑む。
「そうだな。」
「新しい場所だ。」
◇ ◇ ◇
目的地。
地方都市。
数年前に発見された、
新設ダンジョン。
規模は中程度。
攻略難度も低い。
大手探索者たちは、
ほとんど興味を示していない。
理由は単純だった。
報酬が少ない。
希少素材も少ない。
名声にも繋がらない。
だから。
人が少ない。
悠真にとっては、
それが都合がよかった。
駅を降りる。
静かな町。
都会とは違う空気。
「ここか。」
悠真は呟く。
ポムが揺れる。
「ぷる。」
「うん。」
「ここから始めよう。」
◇ ◇ ◇
地方探索者協会支部。
建物は本部とは比べ物にならないほど小さい。
職員も少ない。
しかし。
その分、
地域に根付いた温かさがあった。
受付窓口へ向かう。
そこにいたのは、
若い女性職員だった。
「探索者登録の方ですね。」
柔らかな声。
「はい。」
「お名前を確認します。」
端末を操作する。
そして。
女性職員の手が止まった。
「……神代悠真さん?」
「はい。」
「もしかして……。」
「今年、探索者育成校を首席で卒業された方ですか?」
悠真は少し困ったように頷く。
「そうです。」
女性職員は驚いた。
「どうして……こちらへ?」
その疑問は当然だった。
首席卒業者。
協会推薦。
普通なら本部。
大都市の攻略部隊。
あるいは企業契約。
それが一般的な道だった。
しかし。
悠真は静かに答える。
「ここで活動したいんです。」
女性職員は少し目を瞬かせる。
「……地方ダンジョンですよ?」
「はい。」
「規模も、まだ小さいです。」
「有名になる機会も少ないと思います。」
悠真は頷く。
「分かっています。」
「でも。」
「ここでやりたいことがあります。」
女性職員はしばらく悠真を見る。
そして。
少しだけ笑った。
「変わった人ですね。」
悠真は考える。
「よく言われます。」
女性職員は小さく笑う。
「でも。」
「そういう人が来てくれるのは、ありがたいです。」
「この町のダンジョンは、まだこれからですから。」
「よろしくお願いします。」
悠真は頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
◇ ◇ ◇
その日。
一人のレベル1探索者が、
地方ダンジョンでの活動を開始した。
誰も注目しなかった。
新聞にも載らなかった。
しかし。
この場所で。
世界を変える準備が始まった。




