第七十一話 旅立ちの日
春。
探索者育成校。
卒業式の日。
多くの生徒が、
期待と不安を胸に抱いていた。
今日。
学生ではなくなる。
これからは、
自分自身の力で生きていく。
そんな日だった。
そして。
三人の名前が呼ばれる。
「首席。」
「神代悠真。」
会場が静かにざわめく。
続いて。
「首席。」
「藤堂漣。」
さらに。
「首席。」
「白石雪乃。」
三人。
同じ学年。
同じ首席。
これは学校史上でも、
異例の出来事だった。
◇ ◇ ◇
卒業式後。
校舎裏。
三人は並んで立っていた。
「まさか。」
漣が苦笑する。
「三人まとめて首席とはな。」
雪乃も微笑む。
「先生方も最後まで悩んでいましたね。」
「順位を決める意味がないって。」
悠真は少し困ったように笑う。
「俺は……。」
「本当に首席でいいのかな。」
漣が呆れた顔をする。
「またそれか。」
「悠真。」
「お前、自分が何をしてきたか忘れてるだろ。」
雪乃も頷く。
「そうですよ。」
「レベル1なのに。」
「誰よりも考えて。」
「誰よりも工夫して。」
「誰よりも諦めなかった。」
悠真は黙る。
昔なら。
その言葉を信じられなかった。
でも今は違う。
ポム。
リル。
零落の指輪。
アステル。
積み重ねてきた時間が、
少しずつ自分を認めさせてくれる。
「……ありがとう。」
悠真が小さく言う。
漣は笑った。
「礼を言うところじゃないだろ。」
「これからだ。」
◇ ◇ ◇
卒業後の進路発表。
最初に名前が呼ばれたのは、
藤堂漣だった。
「探索者協会推薦。」
「複数企業からスポンサー契約の申し出。」
「専属装備契約及び、公式探索者登録。」
会場が沸く。
若く。
強く。
そして結果を出している。
漣は、
これから表舞台へ進む。
「藤堂漣。」
誰もが知る探索者になる。
そんな未来が見えていた。
◇ ◇ ◇
次に。
「白石雪乃。」
「国立魔法研究機関推薦。」
「支援魔法研究部門への参加要請。」
さらに、
医療企業や研究機関からも声が掛かる。
雪乃の力は、
戦うためだけではない。
多くの人を救える力。
それが評価された。
雪乃は困ったように笑う。
「大きな期待ですね……。」
悠真は頷く。
「雪乃なら大丈夫。」
◇ ◇ ◇
そして。
「神代悠真。」
名前が呼ばれる。
会場が少し静かになる。
「探索者協会より推薦。」
「特殊探索・研究部門候補。」
「正式採用希望。」
ざわめきが起こる。
当然だった。
首席。
優秀な知識。
特殊な状況でも結果を出す適応力。
そして、
レベル1という制限を抱えながら、
誰よりも成長を続ける姿勢。
協会は、
悠真を評価していた。
ただし。
企業からのスポンサーはない。
専属契約の話もない。
理由は明確だった。
レベル1。
戦闘力を重視する企業から見れば、
未知数すぎる存在だった。
担当者が尋ねる。
「神代君。」
「協会本部で研究や特殊探索部門へ進む道もある。」
「君の能力は、戦闘だけで判断するものではない。」
悠真は少し考える。
そして。
答えた。
「ありがとうございます。」
「でも。」
「希望があります。」
担当者が首を傾げる。
「希望?」
「地方新設ダンジョン管理区域への転属願を出したいです。」
一瞬。
空気が止まる。
「……地方へ?」
悠真は頷く。
「はい。」
「俺は、そこでやりたいことがあります。」
研究。
鍛冶。
素材集め。
まだ誰にも知られていない可能性。
それを育てたい。
「人が少ない場所だからこそ。」
「できることがあると思っています。」
担当者はしばらく悠真を見る。
そして。
小さく笑った。
「君らしい選択だな。」
◇ ◇ ◇
帰り道。
三人で歩く。
「別々になるな。」
漣が呟く。
雪乃は少し寂しそうに笑う。
「でも。」
「終わりではありません。」
悠真は空を見る。
「また会える。」
三人は拳を合わせる。
それぞれ違う道へ進む。
漣は英雄への道。
雪乃は人を救う道。
悠真は積み重ねる道。
誰も知らなかった。
この日。
一人の少年が選んだ地方という場所が。
数年後。
世界を救うための始まりになることを。




