第68話 眠れる遺跡
深緑の森。
調査隊は昨日より慎重に進んでいた。
誰一人として無駄口を叩かない。
落ち葉を踏む音だけが、
静かな森に響いていた。
黒崎が右手を上げる。
全員が足を止めた。
「……静か過ぎる。」
小さく呟く。
昨日まで聞こえていた鳥の鳴き声。
虫の羽音。
風に揺れる葉の音。
何一つ聞こえない。
まるで。
森そのものが息を潜めているようだった。
「隊長。」
前方を歩いていた探索者が振り返る。
「魔物の気配がありません。」
黒崎は短く頷く。
「逆に警戒しろ。」
「これほど不自然な森はない。」
◇ ◇ ◇
調査隊はさらに奥へ進む。
悠真は歩きながら、
何度も左手へ視線を落としていた。
零落の指輪。
昨日から、
微かな熱を帯び続けている。
森の奥へ進むほど、
その熱は少しずつ強くなっていた。
「悠真。」
雪乃が小声で呼ぶ。
「大丈夫?」
「ああ。」
悠真は頷く。
「でも……。」
「指輪が。」
「何かを探してる。」
漣が驚く。
「探してる?」
悠真自身にも、
うまく説明できなかった。
引っ張られている。
そんな感覚だった。
◇ ◇ ◇
「止まれ。」
黒崎の声。
調査隊全員が身構える。
目の前に、
巨大な岩壁が現れた。
いや。
違う。
近付くにつれて、
その正体が分かった。
石造りの壁。
人の手によって積み上げられた巨大な建造物。
蔦に覆われ、
何百年もの歳月を眠っていたかのようだった。
「これが……。」
「遺跡。」
誰かが息を呑む。
調査隊の誰も、
こんなものがダンジョン内に存在するとは聞いていなかった。
黒崎が静かに近付く。
壁へ触れる。
「人工物。」
「間違いない。」
鬼塚から渡された写真より、
はるかに巨大だった。
正面には、
閉ざされた石の扉。
高さだけでも十メートルはある。
その中央に。
一つの紋章が刻まれていた。
悠真は思わず立ち止まる。
「……。」
見間違えるはずがない。
零落の指輪。
その内側に刻まれている紋章と、
完全に一致していた。
黒崎も気付く。
「神代。」
「前へ。」
悠真はゆっくり歩き出す。
調査隊全員の視線が集まる。
鼓動が速くなる。
指輪の熱は、
今までで一番強かった。
あと一歩。
扉の前へ立つ。
その瞬間。
零落の指輪が、
眩い光を放った。
ゴゴゴゴゴ……
地鳴り。
巨大な石扉が、
ゆっくりと震え始める。
「なっ……!」
探索者たちが一斉に武器を構える。
黒崎も目を見開いた。
誰も触れていない。
それでも。
長い眠りについていた扉は、
自ら目覚めるように、
静かに開き始めた。
闇。
その奥から、
冷たい風が吹き抜ける。
そして。
悠真の耳にだけ、
懐かしい声が届いた。
『……ようやく来たか。』
アステルだった。




