第六十六話 呼び声
工房。
アステルは静かに森の方角を見つめていた。
悠真が口を開く。
「ネメシスが動いたって、どういう意味だ。」
アステルは首を横に振る。
『今はまだ話せない。』
『……いや。』
『話しても意味がない。』
『お前自身が見なければならない。』
悠真は眉をひそめる。
「見る?」
アステルは頷いた。
『深緑の森へ戻れ。』
『答えは、そこにある。』
その言葉を最後に、
光は静かに消えていった。
工房には再び静寂が戻る。
「戻れって……。」
実習は中止になった。
協会も立入禁止にするはずだ。
それでも。
悠真の胸には、
奇妙な違和感だけが残った。
◇ ◇ ◇
翌朝。
探索者学校。
鬼塚教官が教壇へ立つ。
「昨日の実習は終了した。」
「しばらく第八階層への立入りは禁止。」
教室がざわつく。
「やっぱり異常だったんだ……。」
「何がいたんだ?」
鬼塚は答えない。
代わりに一枚の紙を机へ置いた。
「今日から自主課題に切り替える。」
「各自、自分に足りないものを鍛えろ。」
「以上だ。」
教室は再びざわめく。
漣が肩を落とした。
「せっかく面白くなってきたのにな。」
雪乃は少し考え込む。
「でも……。」
「教官が隠しているなら、それだけ危険なんでしょう。」
悠真だけは黙っていた。
◇ ◇ ◇
放課後。
三人は協会へ向かう。
実習で採取した素材を納品するためだった。
受付で手続きを済ませる。
職員が袋の中を見て目を丸くした。
「これは……。」
「月雫草まで採ってきたんですか?」
悠真は頷く。
「偶然見つけました。」
職員は少し驚いた表情で笑う。
「最近は全然採れなかったんですよ。」
「助かります。」
報酬を受け取り、
三人は協会を後にする。
その時。
協会の入口で、
黒い外套を纏った探索者たちとすれ違った。
全員、
無言。
漂う空気だけで、
普通の探索者ではないと分かる。
漣が小さく呟く。
「調査隊か……。」
彼らはそのまま、
第八階層へ向かって歩いていく。
悠真はその背中を見送った。
その胸の奥で。
零落の指輪が、
再び微かに熱を帯びる。
まるで、
「あの先へ来い」と、
呼び掛けるように。




