第六十五話 目覚め
探索者協会。
実習から戻った一年生たちは、
普段とは違う空気を感じていた。
受付職員が慌ただしく走る。
探索者たちが次々と呼び出される。
協会全体が、
緊張に包まれていた。
鬼塚は生徒たちを見回す。
「今日はここで解散だ。」
「各自、しっかり休め。」
「今回の報告は教官が行う。」
「はい!」
生徒たちは敬礼し、
それぞれ帰路についた。
◇ ◇ ◇
協会会議室。
支部長。
数名の教官。
そして、
黒崎レオンの姿があった。
鬼塚は森で見た出来事を簡潔に報告する。
「第八階層《深緑の森》。」
「魔物が一斉に逃走。」
「さらに未確認大型個体を確認した。」
部屋の空気が張り詰める。
支部長が口を開く。
「鬼塚教官。」
「見間違いという可能性は?」
鬼塚は即座に首を振った。
「ない。」
「私だけではない。」
「教官全員が確認している。」
支部長は黒崎へ視線を向ける。
「黒崎。」
「お前はどう思う。」
黒崎は腕を組み、
少し考えてから答えた。
「鬼塚教官が見間違えるとは思いません。」
「調査隊を編成するべきです。」
鬼塚も頷く。
「私も同意見だ。」
「ただし。」
「一年生を近付けるべきではない。」
「原因が分かるまで実習は中止だ。」
「異論はないな。」
誰も反対しなかった。
◇ ◇ ◇
その頃。
悠真は個人空間へ戻っていた。
工房は静かだった。
ポムは炉の前で丸くなっている。
リルは薬草棚を見つめながら、
どこか不安そうな表情を浮かべていた。
「今日は終わりだ。」
悠真は短剣を机へ置く。
そして、
ゆっくりと零落の指輪へ視線を向けた。
その瞬間。
指輪が淡く輝く。
今までとは違う光。
優しく、
しかし確かな意思を感じさせる光だった。
「また……。」
悠真が呟く。
静まり返った工房に、
一人の声が響いた。
『聞こえるか。』
懐かしい声。
悠真は息を呑む。
「アステル……。」
光がゆっくりと集まり、
初老の姿を形作っていく。
以前よりも、
その姿ははっきりしていた。
アステルは悠真を真っ直ぐ見つめる。
『予定より早い。』
『ダンジョンが目覚め始めた。』
悠真は表情を引き締める。
「今日の異変のことか。」
アステルは静かに頷いた。
『あれは偶然ではない。』
『ダンジョンが変化を始めている。』
『そして──』
一拍置いて、
静かに続けた。
『ネメシスも。』
『動き始めた。』
工房に重い沈黙が落ちる。
悠真は無意識に、
左手の零落の指輪を握り締めた。
ダンジョンは、
静かにその姿を変え始めていた。




