第六十三話 森の洗礼
フォレストウルフが地面を蹴る。
一直線。
迷いのない突進だった。
「来るぞ!」
漣が前へ出る。
鋭い爪が振り下ろされる。
ガキィン!
剣で受け止める。
「重っ!」
訓練用のゴブリンとは違う。
一撃が重い。
フォレストウルフはすぐに飛び退き、
距離を取った。
「……賢い。」
悠真が小さく呟く。
魔物なのに、
無闇に突っ込んではこない。
仲間の動きを見ている。
「雪乃!」
「任せて!」
雪乃の杖が淡く光る。
「アイスランス!」
氷の槍が一直線に飛ぶ。
フォレストウルフは身を捻る。
しかし、
完全には避け切れない。
肩を掠めた。
「今だ!」
漣が踏み込む。
剣が横薙ぎに走る。
フォレストウルフはさらに後退。
その一瞬。
悠真が死角へ回り込んだ。
短剣が閃く。
ザシュッ――。
魔石が砕け、
フォレストウルフは光となって消えた。
静寂。
漣が息を吐く。
「ゴブリンより何倍も強かったな……。」
鬼塚は頷く。
「それが階層の違いだ。」
「同じ数でも。」
「同じ戦いにはならない。」
◇ ◇ ◇
戦闘後。
鬼塚は周囲を指差した。
「ここから一時間。」
「各班ごとに素材採取を行う。」
「採取も探索者の重要な仕事だ。」
三人は森を歩き始めた。
リルは嬉しそうに飛び回る。
「あっ。」
小さな指が、
一輪の花を指した。
薄紫色の花。
葉には細かな銀色の模様。
「月雫草。」
「回復薬。」
悠真はすぐに採取する。
「助かった。」
リルは少し照れたように笑った。
さらに歩く。
今度は青白いキノコ。
木の根元に生える薬草。
見たことのない素材が、
次々と見つかる。
「すごい……。」
雪乃が感心する。
「今までの階層とは全然違います。」
悠真も頷いた。
「ここは。」
「宝の山だ。」
◇ ◇ ◇
その時だった。
リルが突然立ち止まる。
羽が震えている。
「リル?」
悠真が声を掛ける。
リルは森の奥を見つめたまま、
小さく首を振った。
「変……。」
「森……。」
「泣いてる。」
三人は顔を見合わせた。
漣が眉をひそめる。
「森が泣く?」
雪乃も首を傾げる。
悠真だけは、
リルの表情から冗談ではないと悟った。
風が止む。
鳥の声も消える。
森全体が、
一瞬だけ静まり返った。
そして。
遥か森の奥から。
ズゥン……
重く鈍い振動が伝わってきた。
地面が、
わずかに揺れる。
鬼塚が顔色を変えた。
「全員!」
「隊形を組め!」
その声が森に響く。
何かが、
こちらへ近付いていた。




