第六十二話 深緑の森
三日後。
探索者協会。
まだ朝靄の残る時間。
一年生たちは協会前へ整列していた。
鬼塚教官が人数を確認する。
「忘れ物はないな。」
「今日は学校の訓練じゃない。」
「探索者として行動しろ。」
「はい!」
生徒たちの返事が響く。
悠真は背中の荷物を軽く叩いた。
武器。
回復薬。
採取道具。
工房で準備した物は、
すべて持ってきた。
「行くぞ。」
鬼塚の合図で、
一行はダンジョンへ入る。
◇ ◇ ◇
第七階層。
岩肌の続く洞窟。
見慣れた景色だった。
しかし。
階段を一つ下りた瞬間。
悠真は思わず足を止めた。
「……。」
目の前に広がっていたのは、
森だった。
どこまでも続く巨木。
木漏れ日。
柔らかな風。
草花の香り。
鳥のさえずりのような音が、
森の奥から聞こえてくる。
「すごい……。」
雪乃が思わず声を漏らした。
「本当にダンジョンなの?」
漣も辺りを見回す。
「洞窟の中とは思えねぇ。」
見上げれば、
天井は見えない。
青空のように見える光が、
森全体を優しく照らしていた。
鬼塚が振り返る。
「驚くのは最初だけだ。」
「景色に気を取られるな。」
「ここは。」
「紛れもなくダンジョンだ。」
◇ ◇ ◇
歩き始めて十分。
悠真はしゃがみ込む。
「薬草……。」
見覚えのない植物が、
群生していた。
葉は青く輝き、
茎には淡い光が流れている。
リルが、
そっと近付いた。
「これ……。」
指先で葉を撫でる。
「魔力草。」
小さな声だった。
悠真は驚く。
「知ってるのか?」
リルは頷いた。
「……お薬。」
「作れる。」
悠真は笑顔になる。
「ありがとう。」
採取袋へ、
丁寧に収めた。
◇ ◇ ◇
さらに進む。
遠くで何かが走った。
灰色の影。
漣が剣へ手を掛ける。
「いた。」
木々の間から姿を現したのは、
狼。
普通の狼ではない。
全身を緑色の毛並みが覆い、
脚には蔦が絡み付いている。
黄色い瞳が、
三人を見つめた。
鬼塚が静かに言う。
「フォレストウルフ。」
「深緑の森の代表的な魔物だ。」
狼は低く唸る。
しかし、
すぐには飛び掛かってこない。
こちらの様子を窺っている。
悠真は短剣を抜く。
漣が一歩前へ。
雪乃が静かに詠唱を始めた。
森に、
緊張が走る。
次の瞬間。
フォレストウルフが、
地面を蹴った。




