第六十一話 特別実習
朝。
探索者学校。
いつもより教室が騒がしかった。
「何かあるらしいぞ。」
「教官が全学年を集めるなんて初めてじゃないか?」
漣が椅子へ座りながら笑う。
「嫌な予感しかしないな。」
雪乃は苦笑した。
「鬼塚教官ですから。」
「何もないはずがありません。」
悠真も静かに頷く。
その時だった。
教室の扉が開く。
鬼塚教官が入ってくる。
「全員。」
「第一訓練場へ。」
「急げ。」
それだけ言うと、
教室を出て行った。
◇ ◇ ◇
第一訓練場。
一年生全員が整列する。
鬼塚は生徒たちを見渡した。
「今日から。」
「次の実習へ進む。」
誰も声を出さない。
「お前たちはこれまで。」
「学校管理区域で訓練してきた。」
「だが。」
「それも今日で終わりだ。」
一瞬、
空気が張り詰める。
鬼塚は一枚の地図を広げた。
そこには、
ダンジョンの簡易地図が描かれている。
「今回の実習場所は。」
鬼塚の指が、
ある地点を示した。
第八階層。
《深緑の森》
教室がざわつく。
「森……?」
「ダンジョンなのに?」
鬼塚は頷いた。
「ダンジョンは。」
「同じ景色が続く場所ではない。」
「五階層ごとに生態系が変化する。」
「一階層から五階層は初心者区域。」
「だが。」
「六階層から先は別世界だ。」
地図には、
巨大な森林地帯が描かれていた。
「第八階層《深緑の森》。」
「森林型ダンジョン。」
「主な魔物は。」
「フォレストウルフ。」
「キラービー。」
「マンドラゴラ。」
「そして。」
「フェアリー。」
リルの肩が、
ぴくりと震えた。
悠真はその小さな反応を見逃さなかった。
鬼塚は続ける。
「ここから先は。」
「魔物を倒すだけでは攻略できない。」
「地形を読む。」
「仲間を見る。」
「危険を察知する。」
「探索者としての力が試される。」
漣が笑う。
「ようやく本番って感じだな。」
雪乃は静かに杖を握る。
「気を引き締めましょう。」
悠真は地図を見つめた。
森。
薬草。
未知の素材。
工房に必要なものが、
あの森には眠っている。
そして。
リルは、
じっと地図から目を離さなかった。
どこか懐かしむような。
少しだけ、
不安そうな表情で。
◇ ◇ ◇
放課後。
三人は工房へ戻る。
「実習まで三日。」
悠真は装備を机へ並べた。
短剣。
回復薬。
採取用ナイフ。
ロープ。
保存袋。
戦う準備だけではない。
持ち帰る準備も、
探索者の仕事だった。
「ぷる!」
ポムが元気よく跳ねる。
リルは薬草棚を見つめながら、
小さく呟いた。
「……森。」
その声は、
誰にも届かなかった。
窓の外では、
夕日が静かに沈んでいく。
三日後。
悠真たちは、
初めて本当のダンジョンへ足を踏み入れる。




