第五十九話 初めての成果
翌日。
探索者学校。
「おはよう。」
教室へ入ると、
漣が手を振った。
「悠真!」
雪乃も席を立つ。
「昨日はどうでした?」
悠真は少し考えてから答えた。
「忙しかった。」
「……らしい返事だな。」
漣は苦笑する。
悠真は嘘をついていない。
個人空間では、
薬草。
錬金。
鍛冶。
リルの世話。
本当に忙しかった。
◇ ◇ ◇
午前の実習。
鬼塚教官が教壇へ立つ。
「今日は探索者にとって最も重要な話をする。」
教室が静かになる。
「強い武器。」
「高いレベル。」
「優秀なスキル。」
「もちろん重要だ。」
「だが、それだけじゃ生き残れない。」
鬼塚は一本の小瓶を取り出した。
「これが何か分かるか?」
「回復薬です。」
誰かが答える。
鬼塚は頷いた。
「そうだ。」
「探索者が最後まで頼るのは、自分と仲間、そして装備や道具だ。」
「回復薬一本で生き残ることもあれば、一本足りずに命を落とすこともある。」
悠真は静かに聞いていた。
鬼塚は教室を見渡す。
「だから今日は課題を出す。」
「自分で素材を集め、自分で回復薬を作ってこい。」
教室がざわつく。
「えぇ!?」
「まだ習ってませんよ!」
「失敗して当たり前だ。」
鬼塚は笑う。
「失敗から学べ。」
◇ ◇ ◇
放課後。
悠真たちは第七階層へ向かった。
「薬草か。」
漣は頭を掻く。
「魔物探す方が楽なんだけど。」
雪乃は周囲を見渡す。
「採取も探索者の仕事です。」
悠真は静かに薬草を摘んでいた。
リルが育てた薬草と比べる。
葉の厚み。
香り。
魔力。
やはり違う。
「どうした?」
漣が覗き込む。
「いや。」
「少し比べてただけ。」
悠真はそれ以上言わなかった。
個人空間の存在は秘密。
今は、
まだ話せない。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
個人空間。
「ただいま。」
「ぷる!」
「……!」
ポムとリルが嬉しそうに迎える。
リルはすぐ畑へ向かった。
今日採ってきた薬草を見せる。
すると、
リルは一本一本を手に取り、
首を傾げた。
「どうした?」
悠真が尋ねる。
リルは地面へしゃがみ込み、
土へ指を伸ばした。
そして、
今日採ってきた薬草の横へ、
個人空間で育てた薬草を並べる。
一目で違いが分かった。
個人空間で育てた薬草は、
葉の色が濃い。
茎も太い。
魔力の流れも安定している。
「育つ環境だけで……。」
「ここまで変わるのか。」
悠真は驚きを隠せなかった。
リルは胸を張る。
「……!」
言葉にはならない。
それでも、
「任せて。」
そう言っているようだった。
◇ ◇ ◇
工房。
悠真は、
学校で採取した薬草と、
リルが育てた薬草を使い、
それぞれ回復薬を作り始めた。
同じ手順。
同じ分量。
違うのは、
素材だけ。
完成した二本の瓶を並べる。
鑑定板へ置く。
【初級回復薬】
品質:並
もう一本。
【初級回復薬】
品質:上級
悠真は静かに息を吐く。
「やっぱり。」
「違う。」
素材が違えば、
結果も変わる。
ポムは嬉しそうに跳ねる。
リルは照れくさそうに笑う。
悠真も小さく笑った。
「ありがとう。」
その一言だけで、
リルの耳がぴくりと動く。
誰かに感謝された。
ただそれだけのことが、
胸いっぱいに嬉しかった。
その夜。
研究机のノートに、
悠真は新しい一行を書き加えた。
【研究日誌 No.48】
素材の品質は完成品の品質を決定づける。
優れた錬金術師とは、優れた素材を育てられる者と共にある。
悠真はノートを閉じ、
工房を見渡した。
ポムがいる。
リルがいる。
一人ではできなかった研究が、
少しずつ形になっていく。
工房は、
今日も静かに成長を続けていた。




