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第五十八話 小さな工房

翌朝。




個人空間。




悠真はいつものように研究机へ向かった。




しかし。




机の上には、


見慣れない植物が並んでいた。




「……?」




昨日植えたばかりの薬草。




それが、


一晩で大きく育っていた。




悠真は思わず目を見開く。




「こんなに……?」




畑を見る。




リルが土へ手を添えていた。




淡い緑色の光。




植物たちは、


まるで朝日を浴びるようにゆっくり葉を広げていく。




ポムは、


その横で嬉しそうに水を運んでいた。




「ぷる!」




リルは振り返り、


少し照れたように笑う。




悠真は畑へ歩いていく。




一本の薬草を手に取る。




葉の色。




茎の太さ。




香り。




どれも、


市場で売られている薬草より質が良かった。




「これなら……。」




「もっと品質の高い回復薬が作れる。」




リルは嬉しそうに何度も頷く。




◇ ◇ ◇




工房。




悠真は薬草を細かく刻み、


すり鉢へ入れる。




魔力循環金属で作った乳棒を静かに回す。




以前より、


魔力の流れが安定している。




「ポム。」




「ぷる!」




ポムが魔力循環を補助する。




淡い青い光が、


錬金台全体を包んだ。




そこへ、


リルが育てた薬草を少しずつ加える。




香りが変わる。




色が変わる。




魔力が混ざり合う。




やがて、


透明だった液体は、


淡い翡翠色へ変化した。




悠真は慎重に瓶へ移す。




完成。




今までより、


ずっと澄んだ回復薬。




悠真は鑑定板へ置く。




【初級回復薬】


品質:上級


効果:小傷・疲労回復


副作用:なし




「上級……。」




悠真は思わず息を呑む。




リルも驚いている。




ポムは飛び跳ねた。




「ぷるーー!」




三人で作った、


初めての作品だった。




◇ ◇ ◇




その日の午後。




悠真は鍛冶場へ向かう。




昨日完成した短剣を、


金床へ置く。




「少しだけ改良する。」




リルは興味津々で見つめる。




ポムは炉へ魔力を送り始めた。




赤い炎が、


ゆっくり蒼へ変わる。




悠真は短剣を温め、


静かに金槌を振る。




カン。




カン。




カン。




一定のリズム。




何度も。




何度も。




その様子を、


リルはじっと見ていた。




鍛冶は分からない。




それでも。




悠真が、


一本の武器へ心を込めていることだけは分かった。




だから。




リルはそっと工房を出る。




畑へ向かう。




もっと良い薬草を育てよう。




もっと良い素材を作ろう。




自分にできることは、


それしかない。




でも。




それでいい。




工房は、


誰か一人では完成しない。




ポムが支え。




リルが育て。




悠真が形にする。




三人で一つ。




それが、


この小さな工房だった。




夕方。




短剣を握った悠真は、


満足そうに頷く。




「少しだけ。」




「馴染んできた。」




その言葉と同時に、


短剣の刀身へ、


一瞬だけ青い光が走る。




誰も気付かない。




けれど。




その短剣は、


確かに主人と共に、


成長を始めていた。


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