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第五十七話 新しい居場所

光が静かに収まる。




リルは、


ゆっくりと目を開けた。




目の前に広がる景色。




青い空。




柔らかな風。




緑の匂い。




恐ろしい魔物の気配はない。




冷たい岩壁もない。




あるのは、


小さな家。




工房。




畑。




そして、


どこまでも穏やかな空気だった。




リルは思わず立ち尽くく。




ここが――




悠真の帰る場所。




個人空間。




「ぷる!」




足元から聞き慣れた声。




ポムが嬉しそうに跳ねる。




リルは自然と笑顔になった。




ポムは


「こっち!」


と言うように、


ぴょんぴょん跳ねながら家へ向かう。




リルも、


小走りでその後を追い掛けた。




悠真は、


二人の後ろ姿を見ながら静かに笑う。




「気に入ってくれるといいな。」




◇ ◇ ◇




家の中。




以前より、


少し広くなっていた。




鍛冶場。




錬金台。




収納棚。




研究机。




どれも質素だった。




けれど。




どこか温かい。




リルは、


ゆっくり部屋の中を歩く。




ポムは得意そうに、


一つ一つを紹介するように跳ね回る。




「ぷる!」




鍛冶場。




「ぷる!」




研究机。




「ぷる!」




収納棚。




最後に、


窓の外を指すように身体を伸ばした。




そこには、


小さな畑があった。




リルの目が、


ぱっと輝く。




思わず外へ飛び出す。




畑の前でしゃがみ込み、


土へそっと触れた。




その瞬間。




ふわり。




淡い緑色の光が、


土へ溶け込む。




小さな芽が、


静かに顔を出した。




悠真は目を見開く。




「植物魔法……。」




リルは少し照れながら、


小さく頷く。




もう一度、


土へ手を添える。




芽はゆっくりと葉を広げ、


少しだけ成長した。




ポムは驚いて飛び跳ねる。




「ぷるーー!」




悠真は思わず笑った。




「すごいな。」




リルは、


少しだけ恥ずかしそうに笑う。




それは、


ダンジョンで見せていた怯えた表情とは、


まるで違う笑顔だった。




◇ ◇ ◇




夕方。




三人は畑に並んでいた。




リルは土を耕す。




ポムは水を運ぶ。




悠真は薬草の種を植える。




誰かが指示したわけではない。




自然と役割ができていた。




悠真は小さく呟く。




「薬草が育てば。」




「回復薬が作れる。」




「錬金の幅も広がる。」




リルは何度も頷く。




自分にも、


できることがある。




そのことが、


嬉しかった。




誰にも必要とされなかった自分。




何もできないと思っていた自分。




でも。




ここでは違う。




ポムが水を運ぶ。




悠真が種を植える。




自分が育てる。




みんながいて、


初めて完成する。




それが、


何より嬉しかった。




日が傾き始める。




夕焼け色に染まる個人空間。




ポムは満足そうに、


悠真の膝の上で丸くなる。




リルも、


その隣へちょこんと腰を下ろした。




誰も話さない。




静かな時間だけが流れる。




それでも、


この沈黙は寂しくない。




初めて見つけた。




安心して帰れる場所。




初めて見つけた。




自分の居場所。




その夜。




畑の片隅で、


新しく芽吹いた若葉が、


静かな風に揺れていた。




まるで、


新しい家族の誕生を祝福するように。




悠真はその若葉を見つめながら、


穏やかに微笑んだ。




「おかえり、リル。」




リルも、


少し照れたように笑って頷く。




その小さな返事は、


まだ言葉にはならなかった。




けれど、


その笑顔だけで十分だった。


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