第五十四話 試作品
翌日。
探索者学校。
鬼塚教官が教室へ入ってくる。
「今日は予定を変更する。」
教室がざわつく。
「第七階層で実戦訓練を行う。」
その一言で、
空気が引き締まる。
「今回の課題は実戦だ。」
「自分たちで状況を判断し、安全を確保しながら魔物を討伐しろ。」
「危険を感じたら無理はするな。」
「撤退も探索者の実力だ。」
「以上。」
◇ ◇ ◇
第七階層。
湿った空気。
岩肌から滴る水。
魔物の気配。
悠真は腰へ新しい短剣を差していた。
まだ名前はない。
試作品。
それで十分だった。
「悠真。」
雪乃が近付いてくる。
「その短剣。」
「新しく作ったんですか?」
悠真は頷く。
「昨日完成した。」
漣が目を丸くする。
「昨日!?」
「普通そんなすぐ使うか?」
悠真は少し笑う。
「使わないと分からない。」
「壊れるなら今。」
漣は苦笑する。
「職人だなぁ。」
◇ ◇ ◇
探索開始。
最初に現れたのは、
ゴブリン二体。
「俺が行く!」
漣が一歩踏み出す。
以前よりも迷いがない。
斬る。
避ける。
踏み込む。
一体撃破。
続けてもう一体へ。
雪乃の詠唱が重なる。
「ウィンドカッター。」
風刃が正確に飛ぶ。
ゴブリンの足元を払う。
動きが止まった一瞬。
漣の剣が振り下ろされる。
二体目撃破。
悠真は自然と頷いた。
(二人とも……。)
(強くなってる。)
二週間。
その積み重ねは、
確かに形になっていた。
その時。
岩陰から、
もう一体。
ゴブリンが飛び出した。
「悠真!」
漣が叫ぶ。
悠真は短剣を抜く。
まだ新しい感触。
しかし、
手に違和感はない。
身体が自然に動く。
斧を半歩でかわす。
肩を入れる。
短剣が一閃。
ゴブリンの武器を弾き飛ばす。
すぐに距離を取る。
「ライト。」
掌に小さな光。
至近距離。
命中。
ゴブリンはその場へ倒れた。
悠真は短剣を見つめる。
魔法を使った。
それでも。
魔力がゆっくり戻ってくる。
「成功だ。」
小さく呟く。
一年間の研究は、
間違っていなかった。
◇ ◇ ◇
少し離れた場所。
鬼塚教官が腕を組む。
隣には黒崎レオン。
「見ましたか。」
鬼塚は短く答える。
「ああ。」
黒崎は静かに笑う。
「市販品ではありませんね。」
「自作でしょう。」
鬼塚も頷く。
「鍛冶場に籠もっていたらしい。」
黒崎は少し感心したように呟く。
「普通は強い武器を探す。」
「彼は違う。」
「強くなる武器を作っている。」
鬼塚は口元を緩めた。
「神代らしい。」
◇ ◇ ◇
訓練終了。
帰路につく途中。
悠真はふと足を止めた。
何か違和感がある。
視線だけ周囲へ向ける。
静かだ。
魔物の気配もない。
「気のせい……か。」
そう呟き、
歩き出す。
その背中を、
岩陰から小さな影が見つめていた。
手のひらほどしかない身体。
淡い緑色の髪。
透き通るような羽。
しかし。
その羽は片方が裂け、
もう飛ぶこともできない。
痩せ細った身体。
震える小さな両手。
必死に息を潜めている。
悠真は気付かない。
小さな影は、
安心したように岩陰へ身を隠した。
その瞳には、
怯えと、
ほんのわずかな希望だけが宿っていた。
まだ誰にも知られていない。
ダンジョンの片隅で、
ひとり生き延びることしかできない、
小さな落ちこぼれフェアリー。
その運命は、
もうすぐ悠真と交わろうとしていた。




