第五十二話 帰る場所
外界――。
二週間ぶりの朝。
寮の部屋で、
悠真はゆっくり目を開けた。
個人空間では、
約一年。
研究に没頭した時間だった。
ノートは五冊。
失敗した試作品は数え切れない。
それでも。
机の上には、
一つの成果がある。
淡く青白い光を放つ金属。
魔力循環金属。
そして、
隣ではポムが気持ちよさそうに眠っていた。
「ぷぅ……。」
悠真は小さく笑う。
「おはよう。」
「ぷる!」
目を覚ましたポムが飛びついてくる。
その動きは以前と変わらない。
しかし。
個人空間全体が、
ポムの存在に呼応するように静かに脈動した。
もう契約魔物ではない。
この家の、
最初の住人だった。
「行こうか。」
「ぷる!」
二人は個人空間を後にした。
◇ ◇ ◇
探索者学校。
校門をくぐると、
聞き慣れた声が飛んできた。
「悠真!」
漣だった。
以前よりも足取りが軽い。
体つきも少し引き締まっている。
「久しぶりだな!」
悠真は頷く。
「二週間ぶり。」
「お前、本当に何してたんだ?」
「研究。」
即答だった。
漣は苦笑する。
「やっぱりな。」
そこへ雪乃も歩いてくる。
「おはようございます。」
「……少し痩せました?」
悠真は苦笑した。
「そんなに?」
「はい。」
「でも……。」
雪乃は首を傾げる。
「雰囲気が変わりました。」
漣も頷く。
「分かる。」
「何だろうな。」
「強くなったって感じじゃない。」
「……落ち着いた?」
悠真自身は気付いていなかった。
一年という時間は、
技術だけではなく、
人そのものも変えていた。
「それより。」
悠真は二人を見る。
「自主練、どうだった?」
漣が笑う。
「聞いて驚くなよ。」
木剣を構える。
以前よりも、
無駄がない。
「鬼塚教官に一本取った。」
「もちろん本気じゃないけどな!」
悠真は素直に驚いた。
「すごい。」
漣は照れくさそうに頭をかく。
「雪乃のおかげだ。」
雪乃も少し照れながら笑う。
「私は指示しただけです。」
「違う違う。」
「俺一人じゃ絶対無理だった。」
二人は、
以前より自然に笑い合っていた。
悠真は心から嬉しかった。
自分がいなくても、
二人はちゃんと成長していた。
「よかった。」
その一言に、
漣が笑う。
「でもな。」
「今度は俺たちがお前に驚かされる番なんだろ?」
悠真は少しだけ考え、
肩に掛けていた布袋を軽く叩いた。
「まだ完成じゃない。」
「でも。」
「もうすぐ。」
その中には、
魔力循環金属。
そして、
これから鍛え上げる予定の素材が眠っていた。
「武器でも作るのか?」
漣が尋ねる。
悠真は頷く。
「俺だけの装備。」
「拾うんじゃない。」
「作る。」
その言葉に、
雪乃はどこか納得したように微笑んだ。
「悠真さんらしいですね。」
放課後。
悠真は誰にも告げず、
再び個人空間へ入る。
静かな鍛冶場。
炉には、
まだ火が入っていない。
完成した魔力循環金属を、
ゆっくりと金床へ置く。
悠真は金槌を手に取った。
「ここからが、本番だ。」
すると、
隣に立ったポムが、
小さく胸を張るように身体を揺らした。
「ぷる!」
悠真は笑う。
「今日も頼む。」
ポムは力強く頷いた。
鍛冶場に、
初めて槌音が響く。
カン――。
その一打が、
悠真だけの武器の歴史の始まりだった。




