第四十九話「積み重ねの始まり」
放課後。
悠真はいつものように昇降口へ向かっていた。
「悠真!」
漣が後ろから駆け寄る。
「今日は訓練だろ?」
悠真は少し申し訳なさそうに笑った。
「悪い。」
「しばらく付き合えそうにない。」
「え?」
雪乃も足を止める。
「何かあるんですか?」
悠真は少し考えてから答えた。
「やりたいことが見つかった。」
「少し時間が欲しい。」
漣は笑う。
「珍しいな。」
「悠真がそんなこと言うなんて。」
悠真はポケットの中の零落の指輪へ視線を落とした。
「たぶん……今しかできない。」
雪乃はその表情を見て何かを察した。
「分かりました。」
「私たちも、この二週間は二人で訓練してみます。」
漣も頷く。
「悠真が戻ってきたとき驚かせてやる。」
悠真は嬉しそうに笑った。
「楽しみにしてる。」
寮へ戻る。
部屋の扉を閉める。
「ポム。」
「ぷる!」
ネオスライムになったポムが飛びついてくる。
悠真は頭を撫でた。
「少し長くなる。」
「付き合ってくれるか?」
ポムは迷わなかった。
「ぷるっ!」
その返事だけで十分だった。
次の瞬間。
景色が変わる。
個人空間。
以前は六畳一間だった空間は、今では小さな家へと成長していた。
木の棚。
作業机。
素材庫。
ポムの寝床。
ここはもう「部屋」ではない。
悠真とポムが暮らす、小さな家だった。
悠真は棚から鉱石を取り出す。
第八階層で採取した特殊鉱石。
魔石。
鉄鉱石。
そして、机の上に静かに置かれた零落の指輪。
悠真は深呼吸をした。
「始めよう。」
目指すものは武器ではない。
防具でもない。
「少ない魔力でも戦い続けられる装備。」
そのために必要なのは、まず素材だった。
魔力を自ら循環し、少しずつ回復する金属。
誰も作ったことのない素材。
もし完成すれば、Lv1の自分でも戦い方が変わる。
悠真はノートを開いた。
真っ白な一ページ目。
ゆっくりと書き始める。
錬金研究日誌
研究目的
「魔力自動回復金属の製作」
その文字を書き終えたところで、ポムが隣へぴょんと跳ねてきた。
「ぷる。」
悠真は笑う。
「一緒に頑張ろう。」
ポムは嬉しそうに身体を揺らした。
悠真は知らない。
この日から始まる研究が、
外界ではわずか二週間。
しかし、
個人空間では約一年に及ぶことを。
そして、その一年が、
一人と一匹の関係を「契約」から「家族」へ変えていくことを。




