第四十八話 それぞれの評価
特別探索実習を終えた翌日。
探索者学校。
講堂には、一年生全員が集められていた。
実習を終えたばかりの生徒たちの間には、まだ興奮が残っている。
「第七階層でも十分きつかったよな。」
「俺、もう二度とあんなゴーレムと戦いたくねぇ……。」
「でも漣たち、本当にすごかったよ。」
そんな声があちこちから聞こえる。
悠真たち三人は、教室の後方に並んで座っていた。
「眠い……。」
漣が頭をかく。
「帰ってから寝すぎた。」
「藤堂くんらしいですね。」
雪乃が小さく笑う。
悠真も少しだけ口元を緩めた。
以前なら。
こんな何気ない会話に、自分から入ることはなかった。
だが今は違う。
三人の間には、言葉にしなくても通じる空気があった。
その時。
壇上へ鬼塚教官が姿を見せる。
場内が静まり返る。
「特別探索実習、お疲れだった。」
低く響く声。
「今年は例年以上に成果が大きかった。」
生徒たちがざわつく。
鬼塚は一枚の資料を手に取った。
「まず、実習成績上位者を発表する。」
順位ではない。
総合評価だった。
「白石雪乃。」
雪乃が少し驚いた表情を見せる。
「魔力制御能力が大幅に向上。」
「攻撃魔法だけでなく、補助・制御・連携が高く評価された。」
教室から感嘆の声が漏れる。
雪乃は静かに立ち上がり、一礼した。
「ありがとうございます。」
鬼塚は続ける。
「藤堂漣。」
漣が立ち上がる。
「突出した戦闘能力だけではない。」
「状況判断、仲間との連携、危険察知能力が大きく成長した。」
漣は照れくさそうに笑った。
「……はい。」
鬼塚は二人を見渡す。
「二人とも、実習を通して確実に強くなった。」
教室中が拍手に包まれる。
その中で。
悠真は静かに拍手を送っていた。
心から嬉しかった。
二人の努力を、誰より近くで見てきたからだ。
鬼塚は資料を閉じる。
「以上だ。」
それだけだった。
悠真の名前は呼ばれない。
教室の何人かが首をかしげる。
「神代は?」
「一緒にいたんじゃなかったのか?」
しかし、悠真自身は気にしていなかった。
レベルは一つも変わらない。
職業レベルも上がらない。
今さら評価表の数字が変わらないことに驚きはない。
「悪かったな。」
漣が申し訳なさそうに言う。
「俺たちだけ名前呼ばれて。」
悠真は首を振った。
「気にしてない。」
「二人が評価されたんだから、それでいい。」
雪乃は少し考え込む。
「でも……。」
「悠真さんがいなければ、第八階層から戻れませんでした。」
その言葉に、漣も頷いた。
「俺もそう思う。」
「戦ったのは俺たちでも、あそこで冷静だったのは悠真だった。」
悠真は少し困ったように笑う。
「たまたまだよ。」
その会話を。
少し離れた場所から見ている人物がいた。
黒崎レオン。
実習結果の資料を手にしながら、悠真たちを見つめている。
「鬼塚教官。」
隣に立つ鬼塚へ、小さく声をかける。
「妙ですね。」
鬼塚は短く答える。
「ああ。」
黒崎は資料の一枚を見せた。
そこには実習データが並んでいる。
藤堂漣──総合評価上昇。
白石雪乃──総合評価上昇。
神代悠真──変化なし。
黒崎は小さく笑った。
「数字だけ見れば、神代だけ成長していない。」
「ですが。」
「実際には逆でしょう。」
鬼塚は腕を組む。
「俺もそう思う。」
「神代が二人を変えた。」
「だが、それを評価する項目が存在しない。」
黒崎は静かに資料を閉じた。
「面白いですね。」
「レベルでは測れない人間が、本当にいるとは。」
その頃。
悠真は一人、校舎裏を歩いていた。
ポケットの中には、零落の指輪。
そして、実習で手に入れた特殊鉱石。
「まずは……。」
小さく呟く。
「作ってみよう。」
目指すのは、強い武器ではない。
少ない魔力でも戦い続けるための装備。
そして。
一分ごとに魔力を回復する金属。
誰も作ったことのない素材づくりが、今、始まろうとしていた。




