第四十六話 数字に映らない成長
第八階層。
ゴーレムを倒した後。
三人は少しの間、その場に留まっていた。
「……。」
漣は自分の手を見る。
剣を握る感覚。
身体の動き。
今までとは違う。
「変な感じだ。」
悠真が聞く。
「何が?」
「前より強くなった気はする。」
「でも。」
漣は少し笑う。
「力が増えたって感じじゃない。」
悠真は頷く。
「戦い方が変わった。」
「そうだな。」
漣は周囲を見る。
昔の自分は。
強い敵を見ると、
自分が倒さなければと思っていた。
仲間を守る。
その言葉を理由に。
一人で背負おうとしていた。
でも。
本当に守るということは。
全部一人でやることではない。
「俺さ。」
漣が言う。
「強くなりたいってずっと思ってた。」
「でも。」
「強いって、ただ敵を倒せることじゃないんだな。」
悠真は少し驚く。
漣からそんな言葉が出るとは思わなかった。
「藤堂くん。」
雪乃が微笑む。
「今の言葉、少しだけ大人になった感じがします。」
「少しだけって何だよ。」
三人に小さな笑いが起きる。
以前の悠真なら。
この空気に入れなかった。
でも今は。
自然にそこにいる。
その時。
奥の通路から音が響いた。
ズズズ……。
「また?」
漣が剣を構える。
しかし。
現れたのは魔物ではなかった。
壁の一部が変化している。
新しい道。
まるで。
ダンジョン自身が誘導しているように。
「……。」
悠真は違和感を覚える。
敵意ではない。
これは。
試している?
「行くしかないか。」
漣が言う。
「危険なら戻る。」
雪乃も頷く。
「三人で判断しましょう。」
三人は進む。
新しい通路の先。
そこには巨大な魔法陣があった。
「これは……。」
雪乃が近づく。
「古い魔法式?」
悠真は周囲を見る。
ダンジョン内部。
しかし。
人工的な構造。
まるで誰かが作ったような。
「触らない方がいい。」
悠真が言う。
その瞬間。
魔法陣が反応した。
「……!」
光が広がる。
次の瞬間。
空間が歪む。
三人の前に。
新たな魔物が現れる。
ゴーレムではない。
人型。
武器を持つ魔物。
まるで。
人間の戦い方を模倣した存在。
「……。」
漣が構える。
「俺が行く。」
しかし。
悠真は止めなかった。
以前なら。
危険だから止めていた。
でも今は。
漣を信じる。
「分かった。」
「任せる。」
その一言。
漣の表情が変わる。
任された。
それは。
信頼されているということ。
魔物が動く。
速い。
剣技。
漣と同じ系統。
しかし。
漣は冷静だった。
相手を見る。
剣の軌道。
足運び。
癖。
以前なら。
力でぶつかっていた。
今は。
相手を理解する。
「そこだ。」
一撃。
魔物の剣を弾く。
「すごい……。」
雪乃が呟く。
「私も。」
雪乃は魔法陣を展開する。
敵は漣だけを見る。
そこへ。
補助魔法。
足元の速度低下。
視界妨害。
攻撃ではない。
戦況を作る魔法。
魔物の動きが乱れる。
漣の一撃。
勝負が決まる。
「……。」
悠真は二人を見る。
もう。
自分が細かく指示を出さなくても戦える。
それが嬉しかった。
戦闘終了後。
教官の端末に結果が届く。
藤堂漣。
戦闘適性。
上昇。
白石雪乃。
魔法制御能力。
大幅上昇。
そして。
神代悠真。
変化なし。
教官は画面を見る。
「……おかしいな。」
「二人の成長速度は異常だ。」
「だが。」
「その中心にいる人間の評価だけが、変化していない。」
悠真自身も端末を見る。
Lv1。
職業Lv1。
何も変わらない。
しかし。
その隣で。
漣が言う。
「悠真。」
「お前は自分を弱いと思ってるかもしれないけど。」
「俺たちがここまで来られたのは、お前がいたからだ。」
雪乃も頷く。
「はい。」
「悠真さんの強さは、数字には出ないと思います。」
悠真は少し黙る。
そして。
小さく笑った。
その頃。
ダンジョン深部。
一つの変化が起きていた。
ダンジョンは理解する。
この少年は。
自分自身が強くなるだけではない。
周囲の存在まで変えていく。
それは。
これまで存在した生命とは違う変化だった。




