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第四話 個人空間

白い光がゆっくりと収まっていく。


悠真は、何か温かいものに包まれているような感覚を覚えた。


「……これが。」


自分の手を見る。


何かが変わった気はする。


しかし、力が湧き上がるような感覚はない。


炎が出るわけでもない。


剣が現れるわけでもない。


「これで終わり……ですか?」


アーカスは小さく笑った。


「ふふっ。」


「多くの人は、同じ反応をする。」


「目に見える力を期待するからね。」


悠真は首を傾げる。


「違うんですか?」


「違う。」


アーカスはゆっくりと歩き始める。


白い世界には、足音すら響かない。


「君が望んだのは、誰にも邪魔されない場所。」


「だから私は、それを形にした。」


「試してごらん。」


悠真が意識を集中すると――


目の前の景色が一瞬で変わった。


「……え?」


六畳ほどの部屋。


木の床。


白い壁。


小さな机が一つ。


椅子が一脚。


窓はない。


飾りもない。


本当に何もない部屋だった。


「ここが……。」


「君だけの世界。」


「《個人空間》だ。」


悠真はゆっくり部屋を歩く。


壁を触る。


床を叩く。


机に腰を下ろす。


どれも本物だった。


夢ではない。


「好きに使うといい。」


「読書でも。」


「鍛錬でも。」


「料理でも。」


「睡眠でも。」


「誰にも邪魔されない。」


悠真は自然と笑っていた。


「……落ち着く。」


その一言を聞き、アーカスも優しく微笑む。


「そうか。」


「それなら良かった。」


しばらく沈黙が流れる。


やがてアーカスは静かに続けた。


「ただし、一つだけ。」


「この空間には秘密がある。」


悠真は振り返る。


「秘密?」


「この部屋では。」


アーカスは少しだけ悪戯っぽく笑った。


「外の一時間が、ここでは一日になる。」


「……。」


悠真は言葉を失う。


一時間。


一日。


意味を理解するまで数秒かかった。


「それって……。」


「一時間で、一日分の鍛錬ができるということですか?」


「そういうことになる。」


悠真の胸が高鳴る。


誰にも邪魔されない。


しかも、人より何倍も長く練習できる。


それは彼が心の奥底で望み続けた場所、そのものだった。


だが、アーカスの表情は少しだけ真剣になる。


「忘れてはいけない。」


「時間だけでは、人は強くならない。」


「努力を続ける者だけが、この空間を活かせる。」


悠真は力強く頷いた。


「……はい。」


アーカスは満足そうに目を細める。


「君なら、きっと大丈夫だ。」


その瞬間。


白い世界が再び光に包まれる。


「時間だ。」


「神託は終わる。」


「また会えるんですか?」


悠真が尋ねる。


アーカスは少しだけ寂しそうに笑った。


「縁があれば。」


「また。」


光がすべてを包み込む。


そして――


悠真は神託の間へ戻っていた。


係員が不思議そうな顔をしている。


「お疲れ様でした。」


「次の方をお呼びします。」


周囲を見る。


誰も何も気づいていない。


まるで、あの出来事だけが世界から切り離されていたかのようだった。


悠真は胸に手を当てる。


そこには確かに、新しい力が宿っていた。


そして彼は、まだ知らない。


この《個人空間》が、人類の運命を変える希望になることを。


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