第三話 世界管理者アーカス
2044年7月7日。
神託の儀式が始まった。
一人ずつ名前を呼ばれ、白い扉の奥へ入っていく。
数分後には戻ってくる。
泣いている者。
笑っている者。
呆然としている者。
人生を左右する数分だった。
「神代悠真さん。」
係員に呼ばれ、悠真は静かに立ち上がる。
重厚な扉がゆっくりと開いた。
その先には――
何もなかった。
白い世界。
天井も床も境界も分からない、どこまでも続く純白の空間。
「ここは……。」
一歩踏み出した瞬間、背後の扉は音もなく消えた。
静寂。
風もない。
音もない。
時間さえ止まったような世界。
その時だった。
「ようこそ。」
優しい声が響く。
振り返ると、一人の青年が立っていた。
白銀の髪。
深い蒼色の瞳。
年齢は二十代ほどに見える。
白いローブをまとい、不思議と威圧感はない。
むしろ、どこか懐かしさすら感じた。
「初めまして。」
「私はアーカス。」
「この世界の管理者だ。」
悠真は言葉を失う。
神。
そう名乗られても不思議ではない存在だった。
だが、目の前の青年は穏やかに微笑むだけだった。
「驚かせてしまったかな。」
「まあ、無理もない。」
「普通の人間なら、私と直接会うことはないからね。」
「普通……?」
アーカスは少し困ったように笑う。
「君は少し特別なんだ。」
「だから、直接会って話をすることにした。」
悠真は眉をひそめた。
「特別と言われても、心当たりはありません。」
その答えに、アーカスは小さく笑う。
「そういうところも、君らしい。」
しばらく沈黙が流れる。
やがてアーカスは静かに問いかけた。
「神代悠真。」
「君の願いは何だい?」
突然の問いだった。
強くなりたいか。
名声が欲しいか。
富が欲しいか。
そんな質問だと思っていた。
しかし悠真の口から出た言葉は違った。
「……一人になれる場所が欲しいです。」
「誰にも邪魔されず、自分の好きなことに集中できる場所。」
「そんな場所があれば、それで十分です。」
アーカスは驚いたように目を見開く。
そして、ゆっくりと笑った。
「なるほど。」
「君らしい願いだ。」
彼は静かに右手を差し出した。
「その願い、私が叶えよう。」
眩い光が世界を包み込む。
その瞬間――
世界でただ一人。
神代悠真だけが、神から直接スキルを授かった。
ユニークスキル《個人空間》を獲得しました。




