第二話 神託の日
2044年7月7日。
神代悠真、十八歳。
この世界では十八歳になると、一度だけ神から「神託」を受ける。
どんな職業に就けるのか。
どんなスキルを授かるのか。
その日が、一人ひとりの人生を大きく左右する。
だから街は朝から活気に満ちていた。
探索者を目指す若者。
家族に見送られる者。
期待に胸を膨らませる者。
そして、不安を隠せない者。
誰もが今日という日を特別なものとして迎えていた。
しかし――
神代悠真は、一人だった。
駅へ向かう人波から少し離れ、静かに歩く。
「……人、多いな。」
思わず漏れた独り言は、喧騒に消えていく。
友人はいない。
誰かと話すのが嫌いなわけではない。
ただ、昔から人の輪に入るのが苦手だった。
一人で本を読む時間。
一人で何かを作る時間。
そんな時間の方が、ずっと落ち着いた。
「探索者か……」
正直、向いているとは思えない。
探索者はパーティーを組むのが当たり前。
仲間との連携が重要だ。
それでも悠真には、小さな願いがあった。
(誰にも邪魔されない場所があったらいいのに。)
好きなだけ剣を振れる場所。
好きなだけ本を読める場所。
好きなだけ何かを作れる場所。
そんな場所があれば、それで十分だった。
やがて神託会場へ到着する。
巨大な白い建物。
その入口には、大きくこう刻まれていた。
神託は、運命ではない。始まりである。
悠真は深く息を吸い、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。
この時、まだ知らない。
その小さな願いが、
世界の運命を変える力になることを。




