第三十六話 測定不能の少年
探索者育成学園。
深層探索から戻って数日。
悠真は一人、訓練場にいた。
手には、自分の探索者端末。
表示されている情報。
名前。
神代悠真。
年齢。
18歳。
職業。
テイマー。
レベル。
1
変わらない。
いつ見ても。
同じ数字。
普通の探索者なら。
経験を積めば。
魔物を倒せば。
レベルは上がる。
能力値も伸びる。
しかし。
悠真には、それがない。
「……やっぱり変化なし。」
でも。
悠真は落ち込まなかった。
以前とは違う。
レベルが上がらない。
それは事実。
でも。
それだけが成長ではない。
端末の別項目を見る。
【熟練度】
テイマー技能。
魔力操作。
危険察知。
空間管理。
探索技術。
数値化されない項目。
そこには。
確かな積み重ねがあった。
初めてダンジョンへ入った時。
何もできなかった。
魔物の動きも分からなかった。
今は違う。
敵の癖を見る。
仲間の動きを理解する。
危険を予測する。
それは。
レベルには表示されない。
「……これが僕の成長なのか。」
その時。
「珍しいな。」
声がした。
振り返る。
黒崎レオン。
A級探索者。
「黒崎さん。」
黒崎は悠真の端末を見る。
「まだ1か。」
「はい。」
悠真は答える。
「ずっとです。」
黒崎は黙る。
普通なら。
ここで疑問に思う。
なぜ成長しない。
なぜ戦える。
なぜ結果を残せる。
しかし。
黒崎は違った。
「……面白いな。」
悠真を見る。
「何がですか?」
「お前。」
黒崎は言う。
「レベルを見ているようで。」
「レベルを頼っていない。」
悠真は少し考える。
「頼れないからです。」
黒崎は頷く。
「そうだ。」
「普通の探索者は。」
「レベルが上がることで、できることが増える。」
「だが。」
「お前は逆だ。」
「できることを増やした結果。」
「レベルが意味を失っている。」
悠真は黙る。
自分でも。
まだ完全には理解していなかった。
レベルがない。
それは欠点だと思っていた。
でも。
もしかすると。
別の道なのかもしれない。
「ただし。」
黒崎の表情が変わる。
「勘違いするな。」
「レベルが必要ないわけじゃない。」
「この世界では。」
「レベルは大きな力だ。」
悠真は頷く。
「分かっています。」
だからこそ。
自分は別の方法を探す。
その頃。
訓練場の外。
藤堂漣と白石雪乃が待っていた。
「また黒崎さんと話してる。」
雪乃が言う。
漣は笑う。
「悠真らしいな。」
「普通なら。」
「レベルが上がらないことを気にする。」
「でもあいつ。」
「どうすれば前に進めるかしか考えてない。」
雪乃は頷く。
「だから……。」
「一緒にいると成長できるんでしょうね。」
その夜。
悠真は個人空間へ入る。
最初は。
六畳一間だった場所。
今では。
少しずつ変化している。
小さな家具。
収納。
作業場所。
まだ大きくはない。
でも。
ここには。
悠真が積み重ねた時間がある。
「ここも。」
「僕の成長なんだな。」
ポムが跳ねる。
「ぷる!」
悠真は笑う。
レベルは変わらない。
でも。
何も変わっていないわけではない。
仲間。
経験。
信頼。
居場所。
全部。
少しずつ増えている。
その時。
個人空間の奥。
まだ誰も知らない場所で。
小さな変化が起こる。
【信頼度】
【確認】
ポムとの数値。
少しだけ。
上昇していた。
世界のどこか。
巨大な情報の流れ。
世界管理者アーカスは。
静かに一つの記録を見る。
【レベルシステム】
【対象:神代悠真】
【判定】
【測定不能】
アーカスは静かに記録を閉じる。
「……例外ではない。」
「これは。」
「新しい可能性だ。」




