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第三十五話 戻ってきた日常

「……眠い。」




悠真は机に突っ伏していた。




教室。




いつもの場所。




いつもの授業。




いつもの騒がしさ。




数日前まで。




深層ダンジョンにいたとは思えないほど。




日常は何も変わっていなかった。




「おい、悠真。」




隣の席から声がする。




藤堂漣だった。




「寝るなよ。」




「先生に怒られるぞ。」




悠真は顔を上げる。




「分かってる。」




「でも……。」




「頭の整理が追いつかない。」






漣は少し笑った。




「珍しいな。」




「お前が混乱してるなんて。」






悠真は右手を見る。




そこには。




零落の指輪。






普段なら目立たない黒い指輪。




しかし。




深層で起きた出来事を考えると。




ただの装備とは思えなかった。






「結局。」




悠真は小さく呟く。




「何だったんだろうな。」






漣は肩をすくめる。




「さあな。」




「でも。」




「一つだけ分かってる。」






「何?」






漣は悠真を見る。






「お前は変わらないってこと。」






「深層に行って。」




「世界の秘密みたいなものを知って。」




「それでも。」




「悩んでることは同じだ。」






悠真は黙る。






レベル1。




低い魔力量。




低い身体能力。






零落の指輪があるから戦える。






それは事実だった。






「自分が足りないって思ってるだろ。」






漣の言葉。




悠真は否定できなかった。






「……分かるのか?」






漣は笑う。






「何年一緒にいると思ってる。」






「お前、人付き合いは苦手だけど。」






「考えてることは顔に出る。」








その時。




「悠真さん。」






声がした。






白石雪乃だった。






「また考え込んでいますね。」






「……分かる?」






雪乃は微笑む。






「分かります。」






「私たちはもう、一緒に戦った仲間ですから。」






その言葉に。




悠真は少し驚いた。






以前なら。




自分にそんな言葉を向ける人はいなかった。






でも。




今は違う。






隣に。




信頼できる仲間がいる。






「ありがとう。」






悠真が言う。






漣が笑う。






「珍しいな。」




「今日は素直じゃん。」






「……からかうな。」






三人は笑う。






その瞬間。




教室の扉が開いた。






「神代。」






入ってきたのは。




鬼塚教官だった。






「放課後。」




「協会訓練場へ来い。」






悠真は首を傾げる。






「訓練ですか?」






鬼塚は頷く。






「お前たち三人の実力確認だ。」






「深層で何を得たのか。」






「確認する必要がある。」






教室がざわつく。






「神代と……藤堂、白石?」






「深層に行った三人だよな?」






噂が広がる。






しかし。




悠真たちはまだ実感していなかった。






世界が自分たちを見始めていることを。






協会訓練場






「では始める。」






鬼塚が言う。






「まずは藤堂。」






漣が前へ出る。






以前とは違う。






構えだけで分かる。






深層を経験した者の動きだった。






鬼塚が確認する。






「身体能力。」




「魔力制御。」




「判断力。」






「……想定以上だな。」






漣が笑う。






「そうですか?」






「ああ。」






「同年代では上位だ。」








次。




白石雪乃。






魔法展開。






以前より速い。




以前より安定している。






「白石も同様だ。」






鬼塚が頷く。






「二人とも。」






「正式な上位候補になるだろう。」






悠真は素直に喜ぶ。






「良かった。」






しかし。






鬼塚が悠真を見る。






「問題はお前だ。」






「……ですよね。」






測定器。






表示される。






レベル。






1






魔力量。






低い。






身体能力。






低い。






漣が拳を握る。






「でも。」






「実戦では――」






鬼塚が止める。






「分かっている。」






「だからこそ問題なんだ。」






「神代。」






鬼塚は続ける。






「お前は数字では評価できない。」






「だが。」






「数字から逃げることもできない。」






悠真は黙る。






その言葉は。




今の自分に必要なものだった。






「指輪があるから戦える。」






「それは事実だ。」






「だが。」






「指輪に頼るだけでは先へ進めない。」






悠真は拳を握る。






「はい。」








その夜。




部屋に戻った悠真。






机の上。




零落の指輪を見る。






強くなる。






その意味を。




もう一度考える。






「僕自身が成長しないと。」






「ぷる。」






隣でポムが揺れる。






まだ進化していない。






悠真も。




まだ完成していない。






だから。






一緒に成長する。






悠真は少し笑った。


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