第三十一話 試す者
ダンジョン深層。
静寂だった空間が。
ゆっくりと変化していく。
壁。
床。
天井。
すべてが形を変える。
まるで。
ダンジョンそのものが意思を持っているように。
「……。」
悠真は周囲を見る。
今まで何度もダンジョンに潜ってきた。
しかし。
これは違う。
魔物が出現する前兆ではない。
環境そのものが変化している。
「これが……。」
「ダンジョンの意思。」
雪乃が呟く。
アステルは静かに頷いた。
『そうだ』
『ダンジョンはただの迷宮ではない』
『成長する存在だ』
蓮が警戒する。
「じゃあ。」
「俺たちは今、ダンジョンに何をされている?」
アステルは答える。
『見られている』
『そして』
『判断されている』
その言葉の直後。
空間中央に。
一つの光が現れた。
小さな光。
しかし。
その圧力は。
今まで戦ってきた魔物とは違った。
【試験体確認】
【対象】
【神代悠真】
【黒崎蓮】
【雪乃白石】
【契約存在ポム】
機械的な声。
しかし。
どこか感情がある。
『問いを与える』
四人の前に。
映像が浮かぶ。
そこには。
旧文明の人々。
強力な装備。
高いレベル。
大量の魔力。
かつての人類の姿。
しかし。
その先。
崩壊した街。
傷ついた人々。
そして。
一人の英雄。
『力を持つ者が世界を救う』
そう信じた者たち。
だが。
結果は。
滅亡寸前。
『質問』
声が響く。
『もし』
『圧倒的な力を与えられた場合』
『お前たちは何を選ぶ』
悠真は黙る。
力。
もし。
今、自分にレベル100の力があれば。
誰も傷つかない。
仲間を守れる。
そう思う。
でも。
同時に。
怖さもある。
力が大きすぎれば。
人は変わる。
過去の人類のように。
「……。」
アステルが悠真を見る。
しかし。
答えを教えない。
これは。
悠真自身が選ぶ試練だから。
「僕は。」
悠真は口を開く。
「力が欲しい。」
蓮と雪乃が見る。
意外な答え。
しかし。
悠真は続ける。
「でも。」
「力だけが欲しいわけじゃない。」
「僕が欲しいのは。」
「守れる力だ。」
「使い方を間違えないための判断力も。」
「仲間を信じる心も。」
「全部含めて。」
「強くなりたい。」
空間が静かになる。
『回答確認』
『旧文明との違い』
『確認』
アステルが目を伏せる。
『……そうか』
『彼らには』
『その答えがなかった』
次に。
蓮へ光が向く。
『黒崎蓮』
『質問』
『もし』
『神代悠真より強い力を得られるなら』
『彼を超えることを望むか』
蓮は即答した。
「いや。」
「必要ない。」
『理由』
蓮は笑う。
「俺は悠真に勝ちたい。」
「でも。」
「それは力で上に立ちたいって意味じゃない。」
「隣で戦える奴になりたいだけだ。」
雪乃にも問いが届く。
『雪乃白石』
『弱い者を守るため』
『自分を犠牲にする覚悟はあるか』
雪乃は少し迷う。
そして。
答える。
「あります。」
「でも。」
「一人で消える覚悟ではありません。」
「助けを求める覚悟も持ちます。」
最後。
ポム。
小さな光が向く。
『契約存在』
『問い』
『主人が失われた時』
『それでも進化を望むか』
ポムが震える。
悠真の表情が変わる。
「ポム……。」
しばらく沈黙。
そして。
「ぷる。」
ポムは悠真を見る。
小さく。
しかし。
はっきりと。
頷いた。
『理由』
ポムは悠真の肩へ移動する。
「ぷる!」
言葉ではない。
でも。
答えは伝わった。
一緒に進む。
そのために強くなる。
【試験終了】
空間が光に包まれる。
【判定】
【旧文明の失敗】
【回避可能】
アステルが静かに笑う。
『合格だ』
しかし。
悠真は気づく。
「……でも。」
「まだ終わってないですよね。」
アステルは頷く。
『そうだ』
『これは入口に過ぎない』
『ダンジョンが本当に見ているものは』
『力ではない』
『お前たちが』
『未来をどう選ぶかだ』
その瞬間。
深層のさらに奥。
巨大な扉が開く。
【第三段階】
【解放準備】
零落の指輪が輝く。
しかし。
その光を見たアステルの表情が変わった。
『……まさか』
『ここまで早く反応するとは』
悠真が聞く。
「何か問題が?」
アステルは奥を見る。
『いる』
『まだ目覚めてはいけない存在が』




