第二十八話 零落の記憶
古代ダンジョン内部。
隠された小部屋。
悠真たちは、石碑の前に立っていた。
誰も言葉を発しない。
目の前で起きたことが。
あまりにも現実離れしていたからだ。
「……今の。」
蓮が口を開く。
「俺たちにも見えてたよな?」
雪乃が頷く。
「はい。」
「幻ではありません。」
悠真は右手を見る。
零落の指輪。
先ほどまで何の変哲もなかった指輪。
しかし。
今は違う。
まるで。
何かを待っているようだった。
「悠真。」
蓮が呼ぶ。
「大丈夫か?」
「うん。」
悠真は頷く。
「ただ。」
「少し気になる。」
「この指輪は……。」
「僕を選んだんじゃない。」
雪乃が首を傾げる。
「違うんですか?」
悠真は考える。
「たぶん。」
「条件が合っただけ。」
黒崎なら。
こう言うだろう。
「偶然ではない。」
しかし。
悠真自身はまだそう思えなかった。
自分は特別ではない。
ただ。
誰にも使えなかったものと。
誰にも期待されなかった自分が。
偶然出会っただけ。
その時。
再び石碑が光る。
【記録再生】
空間に映像が浮かぶ。
今度は。
研究施設のような場所。
大量の魔法陣。
無数の資料。
そして。
一人の男。
白髪の研究者。
『記録開始』
『研究者、エルディア』
悠真は名前を覚える。
『我々は長い間、間違えていた』
『人間の強さは魔力量で決まる』
『そう信じてきた』
研究者は一つの魔石を見る。
『だが、魔力が少ない者にも可能性はある』
『重要なのは量ではない』
『制御』
『理解』
『適応』
その言葉。
悠真には理解できた。
なぜなら。
自分がずっと追求してきたものだったから。
『しかし』
研究者の表情が曇る。
『時代は、それを求めなかった』
『強大な魔力を持つ者だけが評価され』
『小さな可能性は捨てられた』
映像の中で。
研究者は指輪を手に取る。
『だから作った』
『魔力を増やす装備ではなく』
『持つ者の可能性を最大限に引き出す装備を』
『零落の指輪』
『未完成ではある』
『だが』
『欠陥ではない』
映像が一瞬乱れる。
『ただ一つ問題がある』
研究者が苦笑する。
『この指輪は』
『自分自身の弱さを認められる者でなければ』
『使えない』
映像終了。
静寂。
蓮が呟く。
「弱さを……認める?」
悠真は指輪を見る。
思い当たる。
自分はずっと。
強くなることだけを考えていた。
でも。
レベル1という現実から。
逃げたことはない。
弱い。
だから。
考えた。
弱い。
だから。
工夫した。
「……。」
雪乃が微笑む。
「だから神代さんだったんですね。」
悠真は少し驚く。
「え?」
「もし最初から強い人だったら。」
「この指輪の価値には気づけなかったと思います。」
その言葉に。
悠真は少し笑った。
「弱いことも。」
「悪いことばかりじゃないのかもしれないな。」
その瞬間。
ポムが突然反応した。
「ぷる!」
指輪が光る。
【新条件達成】
【零落の指輪】
第二段階解放条件
【必要条件】
主人と契約存在の信頼
【現在】
達成率
92%
悠真は目を見開く。
「あと少し……。」
しかし。
その時。
ダンジョン全体が揺れた。
ゴゴゴゴ……。
「何だ!?」
蓮が武器を構える。
雪乃も魔法準備。
ダンジョンの奥。
巨大な魔力反応。
そして。
声。
『適合者確認』
『次段階への試練を開始します』
悠真は息を呑む。
「試練……?」
零落の指輪が。
今までとは違う輝きを放つ。




